19.前に歩く
夕方とファミレス。
いつもの席。
そしていつものドリンクバー。
でも、今日は少しだけ違った。
参考書を開いている。
シャーペンを持っている。
それだけのことなのに、妙に落ち着かない。
「……なにやってんだろ、俺は」
小さく呟く。
別に誰に見せるわけでもない。
褒められるわけでもない。
ただ昨日、
少し進んだんじゃない?
そう言われたのが、
妙に頭に残っていた。
カラン、と音が鳴る。
「あ、いらっしゃい」
顔を上げると、島がいた。
「また来てんの?」
「……まあ」
「へー」
島はいつもの調子で言う。
少しだけ目が止まった。
机の上。
開かれた参考書。
「……へー」
それだけ言って、カウンターの方へ行く。
なんだよ、その反応。
少しだけむっとする。
でも、少しだけ嬉しい。
しばらくして、島が戻ってきた。
コーラを置く。
「はい、今日はサービス」
「いや、いいって」
「いいから」
勝手に隣に座る。
「……なに?」
「別に」
島は横目で参考書を見る。
「やる気出てるね」
「……まあ、ちょっとだけ」
「ふーん」
ストローをくわえながら、ぼんやり言う。
「三日坊主にならないといいね」
「うるさ」
でも笑ってしまう。
なんか、なんというか、気が楽だ。
しばらく、静かな時間が流れる。
ページをめくる音。
氷が溶ける音。
「……ねえ」
島がぽつりと呟く。
「ん?」
「なんでやろうと思ったの?」
少し考える。
「……なんか、置いてかれてる気がしてさ」
「みんな、変わろうとしてんのに、俺だけ何もしてないっていうか」
「それでいいと思ってたけど、ちょっと嫌になった」
言ってから少し後悔する。
また話しすぎた。
でも、島は笑わなかった。
「……そっか」
短く答える。
それだけ。
でも、何かを考えているみたいだった。
ストローをくるくる回して、
少しだけ視線を落とす。
「……いいと思う」
「え?」
「そうやって、ちゃんと嫌だって思えたなら」
顔を上げる。
島はこっちを見ていなかった。
どこか遠くを見るみたいに、
ぼんやりと前を見ている。
「……私は」
言いかけて、止まる。
「……いや、なんでもない」
「なんだよ」
「なんでもないって」
軽く笑う。
でも、その笑いは、少しだけ薄かった。
さっきまでと、少し違う。
「……ま、がんばって」
立ち上がる。
「また来てね」
「ああ」
島はそのまま戻っていった。
背中を見ながら、少しだけ考える。
なんだろうな。
あいつ。
いつも適当なのに。
たまに、妙に引っかかる。
参考書に視線を戻す。
さっきより、少しだけ。
文字が、ちゃんと頭に入ってきた気がした。
でも、
さっきの言いかけた言葉だけは、
なぜか、ずっと引っかかっていた。




