17.私の話
先に言っておきます。
私は、母親の子どもではない。
具体的に言うと、私は父親の愛人の子どもだ。
そして、私がたしか二歳くらいのときに、
父と愛人は私を家に置き去りにして、どこかへ蒸発した。
それから数日、放置され、
父親の様子を見に来た母に見つけられた。
私は手厚く保護を受けた。
母は優しかった。
血もつながっていない私を、愛してくれた。
……幸せだった。
でも、なぜか心にはもやがあった。
それを無視して、私は「良い子ども」であることを装った。
お母さんに心労や負担をかけさせたくなかったから。
学校で、噂が出回った。
私は変で、かわいそうな子どもだと。
だから私は、そこでもまた装った。
みんなから腫れ物のように、同情的な目で見られるのが嫌だったから。
「後藤さんはすごいね。頑張ってるね」
そう言われるたびに、
嬉しくも悲しくもない“もや”が溜まっていった。
高校に上がって、
みんなが私を知らない、そんな環境をありがたがった。
ここなら、私は私でいられるのかもしれない。
そんなときに、たまたま仲良くなった一人、
市ヶ谷という男子がいた。
彼は、「明るい人」を装っているように感じた。
直感だった。
でも、それを否定したくない。
そんな自分も自分だから。
不用意に突っつくのは無遠慮だと思ったから、
彼の表面上の明るさを享受していた。
でも、そんな彼は、泣いていた。
私は後悔した。
知っていたのに。
分かっていたのに。
手を差し伸べられなかった。
悔しさ。
自分の弱さへの悔しさ。
そして、声をかけた。
もう間違えたくなかったから。
でも、間違っていたのかもしれない。
市ヶ谷くんは、私に怒った。
「心配したふりなんてするな」
そんなことない、と言いたかった。
本心だから。
でも、それなら、
なんで今まで放っておいたのか。
その言葉が、自分の中から問いかけてきて、
立ち止まってしまった。
私は、手を差し伸べる権利があるんだろうか。
それでも。
……それでも。
嫌われたとしても、
やっぱり市ヶ谷くんには笑っていてほしい。
理由なんてない。
苦しんでほしくない。
自分みたいに。
だから、電話をかけた。
それしか、できなかった。




