15.波と
後藤と帰っていた。
「ごめん、あの、さっき泣いてたことは秘密で。マジで」
「言わないよ。でも、大丈夫? 何かあったの?」
後藤は心配そうに尋ねてくる。
ああ、やってしまった。
気が抜けていた。
「いやー、花粉症かな? 自分でもわからん」
そう言って笑う。
いや、自分でもわかる。
この顔は引きつっている。
後藤は少しだけ黙る。
何かを考えるように。
そして、また口を開いた。
「……本当に? さっき、結構——」
「どうせどうでもいいくせに、心配するふりすんなよ」
気づいたときには、口から出ていた。
空気が止まる。
後藤の表情が、固まる。
「……ごめん」
小さくそう言った。
今にも泣きそうな顔だった。
しまった。
頭の中で何度もその言葉が響く。
違う。
そんなこと思ってない。
でも、言葉はもう戻らない。
「……いや、あの」
何か言おうとする。
でも、何も出てこない。
言い訳も、謝罪も、全部中途半端で、
口を開くことすらできなかった。
後藤は何も言わない。
ただ、少しだけ俯いている。
その姿を見ていられなくなった。
「……ごめん、俺、先帰るわ」
逃げるみたいに言って、背を向ける。
足が、少し速くなる。
振り返れない。
振り返ったら、何かが壊れそうで。
歩きながら、胸が痛む。
さっきの顔が、頭から離れない。
「……何やってんだよ」
自分に吐き捨てる。
優しくされたのに。
ちゃんと向き合おうとしてくれたのに。
それを、自分で踏み潰した。
足を止めることもできず、
そのまま一人で帰った。




