13.エレガントな呼び合い。
今日は中間試験も無事終わったので、
響子さんと遊びに行く約束をしている。
僕はデートだと思っているし、
なんならこの日のために洋服も買ったし、美容院にも行った。
待っている間、浮かれている自分を諌めるために深呼吸をする。
いや、諌めることができない。
楽しみすぎる。
でも今日の予定は、響子さんに一任する形になったので、
どこに行くかはまだ分からない。
「遥くん」
響子さんが来た。
当たり前のことなのに、つい忘れてしまいそうになるけど、
やっぱり綺麗だ。
「おはよう。その服すごく似合ってる。綺麗」
「ありがとう。遥くんも服似合ってるよ。ヘアスタイルもいつもと違うね」
「今日のために切ったんだ……張り切りすぎたかな」
響子さんは首を横に振って、少し笑う。
「じゃあ行こうか」
「どこ?」
「科学館。プラネタリウムが見たくて」
それからバスで二十分くらいで科学館に着いた。
初めて来た。
「ここに来るの初めてだから楽しみだ」
「私も」
館内は静かで、少しだけひんやりしていた。
展示を見て回りながら、時々話して、時々黙る。
無理に話さなくてもいい時間が、心地よかった。
プラネタリウムに入ると、照明が落ちる。
ゆっくりと星が広がっていく。
宇宙の説明を聞いていた。
普段なら眠くなっていたはずなのに、
今日は不思議と、熱中して聞いていた。
ゆっくりと星が広がっていく。
暗闇の中で、光だけが浮かんでいる。
横を見ると、
響子さんが楽しそうにプラネタリウムを見ていた。
ああ、やっぱり好きだ。
僕の気持ち、心の声、すべてが相手に聞こえていたらどれだけ楽だろう。
いや、自分で伝えるからこそ価値があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、
響子さんはこっちを向いて、
「遥くん、前を見なさい」
そう言った。
「はい、響子さん」
思わず返事をする。
その横顔も、声も、
すべてが柔らかくて、
うつくしかった。
どちらも。
再び前を見る。
星は、さっきよりも少し近くに感じた。
解説の声が、静かに続いている。
この時間が終わらなければいいと、
ほんの少しだけ思った。
気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
外に出ると、少しだけ夕方になっていた。
「楽しかったね」
「うん、すごく」
並んで歩く帰り道。
何か話したいのに、言葉がうまく出てこない。
でも、沈黙は苦しくなかった。
ふと、前を見る。
「あれ……」
見覚えのある後ろ姿があった。
少し離れたところを、一人で歩いている。
市ヶ谷だった。
声をかけようとして、やめる。
なぜか分からないけど、
今は声をかけないほうがいい気がした。
市ヶ谷は気づかないまま、歩いていく。
その背中を、少しの間だけ見ていた。




