レフカ手前
レフカへ向かう船は、デルガ沿岸を離れて三日目に霧帯へ入った。
視界は短く、潮は重い。見張りは鐘を使わず、灯りの遮光板で合図を送る。遠くへ届く音は時に敵にも届くからだ。
イオナは船室で第二部の初動計画を組んでいた。
到着初日でやることを三つに絞る。
一、観測塔の実地確認。
二、公開可能な掲示地点の確保。
三、会議体流路の現地照合。
欲張れば失敗する。第二部は第一部より規模が大きい。
だからこそ初日は基盤だけを押さえる。
ガルムは護送計画へ赤線を追加した。
「レフカ到着後、最初の四十八時間は単独行動禁止」
イオナは異論を出さなかった。
中枢域では消耗戦より保全戦が先になる。
夜半、甲板で彼女はデルガから持ってきた観測板の欠片を取り出した。旧灯台の木片と、共同掲示板の白墨粉が付いた布切れ。
迷信ではない。
手順の起点を忘れないための物理的なしるしだ。
彼女は欠片を内ポケットへ戻し、手帳の最初の頁に書く。
『中枢でも同じ。公開を先に。判断を後に。列を切らさない』
霧の向こうで微かに鐘が鳴る。
レフカ外縁の航路標識だ。
第一部で積んだ実務は、ここから試される。
局面は大きくなるが、原則は小さく、固く、変わらない。
夜明け前、船長が短く告げた。
「レフカ手前、到達」
イオナは立ち上がり、外套を締める。
次章はもう始まっていた。




