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見送りの朝
出発当日の朝、デルガ港はいつもどおりに見えた。
魚の競り、荷車の軋み、炊き出しの匂い。
その「いつもどおり」を維持したまま出発できることが、第一部の到達点だった。
メラは桟橋で荷札束を渡す。
「補給札は港ごとに色を変えた。混線するなよ」
ガルムは行程図を折り、内ポケットへ入れる。
「夜行区間は短くした。未知水路で無理はしない」
イオナは最後に掲示板を見上げた。
今日の観測値、訓練予定、妨害記録。すべて更新されている。
見習いミオが小走りで来て、報告した。
「夜番引き継ぎ、完了しました」
イオナは頷く。
「任せる。困ったら公開を先に」
出港直前、桟橋の端で代行責任者が呼び止めた。
「復旧訓練、次回は三日後で実施します。結果は外港便で送ります」
「了解。数字だけじゃなく、詰まった箇所も書いて」
短い確認で、遠征中の連絡導線が確定する。
船が岸を離れると、白墨の文字は小さくなる。
それでも、読み方を知る人間が残っている限り、板は機能する。
見送りの手はすぐ仕事へ戻った。
誰も立ち止まらない。
止まらないことが、いまのデルガの強さだった。




