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港務日誌
第一部の締めに、イオナは港務日誌の書式を改めた。
従来の日誌は「異常なし」で終わる日が多い。
便利だが、何を見て異常なしと判断したかが残らない。
新書式では、判断根拠を必須にした。
観測時刻。
測定点。
比較基準。
判断理由。
欄は増え、書く手間も増える。現場からはすぐ文句が出た。
「忙しい日に書けません」
イオナは否定せずに返す。
「忙しい日に書ける量まで削る。だからこの四欄だけ残す」
完全な記録を目指さない。
消されにくい最小記録を残す。
夜、見習いが新書式で最初の日誌を書き終えた。
字は揺れていたが、根拠欄は埋まっている。
イオナは赤鉛筆で丸を付けた。
「これでいい。次も同じ形で」
翌朝、彼女は日誌監査の実演を行った。
同じ観測値でも、比較基準が違えば判断が割れる。どこで割れたかを欄から辿れるかを確認する。
見習いは詰まりながらも、理由欄を指して答えた。
「ここで基準を変えています。だから結果がずれました」
イオナは頷く。
「いい。ずれた理由まで追えるなら、次は合わせられる」
港の制度は、大事件より先に帳面で変わる。
欄が一つ変わると、翌日の判断が変わる。




