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出立前夜
レフカ中枢へ向かう前夜、デルガ港は不思議なくらい穏やかだった。
穏やかな夜にこそ、準備を終える。
それがこの七日間で得た実務感覚だった。
イオナは観測室で最終引き継ぎを行う。
代行責任者、夜番主任、掲示担当、訓練指揮。全員へ口頭と文書の二重で渡した。
ガルムは護送計画を確認し、メラは補給札を束ねる。
「戻る導線は二本確保」
「連絡断絶時は七十二時間で自動公開」
短い確認が積み重なり、計画は現実になる。
深夜、三人は旧灯台裏へ立った。
最初の夜と同じ場所で、今度は匿名ログではなく公文束を持っている。
イオナは海を見ながら言った。
「ここまで来れたのは、私たちが強かったからじゃない。手順を捨てなかったから」
メラが笑う。
「強いってのは、捨てないことだろ」
ガルムは短く頷いた。
「行くぞ。次は中枢だ」
観測室へ戻ると、最後の荷検が残っていた。
封緘札、照会票、代行鍵。三つの番号を照合し、食い違いがないか確認する。
「全部一致」
見習いの報告に、イオナは初めて肩の力を抜いた。
勝つ準備ではなく、空白を作らない準備が終わったのだ。
鐘が一つ鳴る。
港はまだ眠らない。眠らないまま、次の朝を待っていた。




