第一部完
年明け前夜、デルガ共同掲示板には二行の新しい文が加わった。
『沿岸調整会流路、中央認定済み』
『次案件: レフカ中枢追跡準備』
人々は板を読み、短く頷き、それぞれの仕事へ散っていく。
派手な歓声はない。だが、静かな合意があった。
イオナは白墨を置き、手袋をはめ直す。
七日で始まった戦いは、季節をまたいで続く運用へ変わった。
ガルムが外套を肩に掛ける。
「出発はいつだ」
「訓練を一巡してから。港を空白にしない」
メラは荷札束を抱え、念押しする。
「戻る導線、忘れるな」
イオナは笑って答えた。
「忘れない。戻るために行く」
その夜、三人は最終引き継ぎの署名を交わす。
署名欄には役職だけでなく代理者名も並んだ。誰か一人が欠けても回る設計が、第一部の終端に必要だった。
翌朝の最終訓練で、イオナはあえて最後尾に立った。
指揮は代行責任者へ渡し、自分は記録係に回る。
開始の鐘。
列は一度だけ詰まり、すぐ修正された。復唱は早く、指示の語尾は短い。以前のデルガなら、ここで怒号が飛んでいた。
訓練後、代行責任者が報告する。
「遅延三分。原因は給水線の交差。次回は配置換えで解消可能です」
イオナは報告書に丸を付けた。
「合格。次回も同じ手順で回して」
短い返答に、代行責任者は深く一礼した。
主人公が去っても港が動く。そこまで来て、ようやく第一部は閉じられる。
鐘がもう一度鳴る。
デルガの風は冷たい。それでも掲示板の前には、読むために立つ人がいる。
公開を先に。
判断を後に。
列を切らさない。
この順番を残したまま、三人は次の海域へ向かった。




