認定後
認定の翌日、沿岸調整会は表向き沈黙した。
だが沈黙は無力化ではない。証拠隠滅の準備時間にもなる。
イオナは即日で「保全指示」を四港へ回した。
一、関連帳票の移送禁止。
二、改版文書の差替え禁止。
三、掲示板の妨害記録を日次送信。
ガルムは保全班を編成し、夜間倉庫の封緘確認へ回る。
メラは住民側の見張り当番を増員した。
夕刻、北方港から短報が届く。
『倉庫で帳票焼却未遂、阻止』
想定どおりだった。
認定直後は最も燃えやすい。
イオナは報告書へ淡々と書く。
『認定後四十八時間は証拠保全重点期間』
制度が動いた瞬間ほど、現場の手は忙しくなる。
勝利直後の慢心が、最も高くつくことを彼女は知っていた。
保全重点期間の夜、倉庫封緘は想像以上に神経を使った。
封緘紙を貼るだけでは意味がない。貼付時刻、立会者、封印番号、次回確認者まで揃えて初めて「破られた事実」が証拠になる。
イオナは封緘表を見ながら、確認班へ繰り返し言った。
「剥がされたら怒る前に記録。怒りはあとでいい」
北方港から入った未遂報告にも同じ指示を返す。
焼却痕の撮影、灰の採取、炉温記録。感情で現場が荒れるほど、証拠は薄くなる。
ガルムは夜明け前三時に戻り、短く報告した。
「第二倉庫、封緘番号が一つ飛んでる」
メラが即座に返す。
「貼り直しじゃなく、飛番として記録して」
飛番は失敗ではない。失敗を消す行為が失敗だ。
夜明け、イオナは保全日誌の最終欄へ書いた。
『欠落は欠落として残す。欠落を埋める前に欠落を証拠化する』
制度は整って見えるほど穴を隠しやすい。
だから彼女たちは穴そのものを公開対象にした。
保全重点期間の二日目、最も揉めたのは「誰が鍵を持つか」だった。
倉庫封緘の確認には三者立会いが必要だ。だが夜間は人員が足りず、三者を揃えるほど確認間隔が空く。間隔が空けば、その隙に焼却や差替えが入る。
イオナは規程を一時変更した。
深夜帯のみ二者立会いを許可。
ただし翌朝の追認記録を必須。
規程を緩める判断は怖い。緩めた規程は戻しにくいからだ。
「それでも、空白時間を作るよりはまし」
彼女はそう言って押印した。
ガルムは確認班へ具体を指示する。
「鍵受け渡しは口頭で済ませるな。受領札を残せ」
メラは住民当番表に補助線を引く。
「夜番を二時間ずつ交代にする。長番は判断が鈍る」
夜明け前、第二倉庫で封緘紙が一部剥がれているのが見つかった。侵入痕はない。試しに剥がした可能性が高い。
イオナはその事実を小さな事件として扱わず、保全報告の先頭へ置いた。
『封緘試験剥離の疑い、発生』
小さな試行を見逃すと、大きな侵入の予告を失う。
制度が動いた後の現場は、常に試される。
だから彼女たちは、毎晩の確認を「作業」ではなく「防衛」と呼ぶようになった。




