構成員名簿
会議体の輪郭を決める次の鍵は名簿だった。
名簿は金庫に入っているとは限らない。多くは周辺帳票に断片で残る。会議室利用申請、旅費精算、便乗搬送許可。イオナは断片の収集を始めた。
北方港から届いた旅費精算票に、見慣れない役職があった。
「沿岸調整会 書記補佐」
正式役職名ではないが、仮称を内用している証拠になる。
ガルムは別線で会議室利用記録を押さえる。月末三日前、夜枠固定、同一責任者名の繰り返し。
断片が三つ揃った。
役職、時刻、責任者。
メラは言う。
「もう“影”じゃないね」
イオナは頷く。
「影は名前を持ち始めた。次は人名」
ただし急がない。誤認で人名を出せば全体が崩れる。
彼女は名簿推定表の見出しへ太字で書く。
『推定は公開しない。裏取り三点必須』
速度と精度の均衡。
それを失った瞬間、相手は「魔女狩りだ」と反撃できる。
追跡は遅くていい。
遅くても確実であることのほうが、最終局面では強い。
名簿断片の裏取りは、机上より足で進んだ。
イオナは旅費精算票の発行元へ直接出向き、書記へ照会した。書記は最初、規程を盾に閲覧を拒んだが、公開照会番号を示すと態度を変えた。
「この欄、普段は誰が埋めるんですか」
「申請者本人です。ただし団体申請の場合は補佐官が代筆します」
補佐官。
精算票の役職欄と一致する語だ。
ガルムは別線で会議室利用記録を追い、責任者署名の筆圧を比較した。完全一致ではないが、同じ癖の線が三件続く。
メラは港側で便乗搬送許可の札を回収し、同じ照会番号帯を拾ってきた。
三本の証拠は互いに弱い。
だが束ねると一本の線になる。
夜、イオナは名簿推定表の下に「裏取り完了率」を追加した。
現時点: 42%
数字は低い。だが低い数値を出せること自体が、調査の健全性を示す。疑わしい断片を無理に確定へ寄せない姿勢が、最終局面の信頼を作る。
「焦る?」
ガルムの問いに、イオナは首を振った。
「焦る。でも急がない。急ぎで外したら、全部失う」
彼女は推定表を閉じる。
遅い調査は退屈だ。退屈な工程ほど、後で人を救う。




