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戻る導線
中央からデルガへ戻る船で、イオナはほとんど眠れなかった。
勝っているのか負けているのか、判定しづらい段階だった。
だが判定待ちの間にも港の運用は続く。
デルガ到着後、彼女が最初に向かったのは共同掲示板だった。
数字は更新され、訓練予定は守られ、妨害欄には昨夜の消去痕が記録されている。
不在でも回っている。
その事実が、胸の焦りを少しだけ削った。
メラが言う。
「戻る導線、機能してるだろ」
ガルムは補足する。
「次に出る前に、代行班をもう一段増やす」
イオナは二人を見て、短く笑った。
「了解。次は私が消えても止まらない形へ上げる」
夜、観測室で彼女は新しい手順書を起こす。
指揮権移譲条件。
公開遅延時の自動対応。
妨害時の再掲示フロー。
英雄が必要な仕組みは脆い。
誰でも回せる仕組みほど、長く持つ。
白紙の次頁へ、彼女は一行だけ書いた。
『不在時運用を平時に訓練する』
それが次の遠征に向けた、最初の準備だった。
翌朝の代行訓練で、イオナは自分の判断を一つも挟まなかった。
詰まった場面では口を閉じ、代行責任者の指示を待つ。
遠征中に必要なのは、本人の正解ではなく、代理の再現性だと確かめるためだった。




