第二監査
沿岸調整会経由文書の第二監査は、想像以上に泥臭かった。
提出された文書の三割が不鮮明写し、二割が欄欠け、一割が番号重複。誰かが乱雑にしているのか、元から乱雑なのか判別しにくい。
イオナはルールを決める。
一、欄欠け文書は即返却。
二、番号重複は発信元へ照会。
三、不鮮明写しは原本提示要求。
厳しすぎる運用は反発を招く。だが甘すぎる運用は証拠を腐らせる。
北方の実務者がぼやく。
「監査って、こんなに面倒だったか」
メラが笑う。
「面倒じゃない監査は、だいたい飾りだよ」
三日後、第二監査報告がまとまる。
第一次より穴は減った。まだ決定打には遠い。だが網は確実に細かくなっている。
ガルムは報告書を閉じ、言う。
「次で決めに行く」
イオナは頷いた。
「決める。少なくとも、逃げ道の数は減らせる」
会議体の影はまだ濃い。
しかし影の輪郭は、確かに削れていた。
夜、監査班はもう一度帳票庫へ戻った。
昼に照合した文書を、夜の静かな時間でもう一周なぞるためだ。人は疲れると同じ誤読を繰り返す。だから一度机を離れ、視点を変えて戻る。
イオナは不鮮明写しの束を、紙質で三群に分けた。港内複写、外港複写、出所不明。出所不明の束だけ、わずかに薬品臭が強い。急ぎで乾かした紙の匂いだ。
「これ、当日複写じゃない」
彼女が言うと、北方の実務者が身を乗り出した。
「どうしてわかる」
「乾燥痕。字は古いのに紙が新しすぎる」
ガルムはその束に別札を付けた。
『再照会優先』
照合は数字だけではない。紙の年齢、墨の癖、押印の圧。実務の現場では、そうした副次情報が偽装を剥がす。
深夜、最後の照合が終わったころ、メラが差し入れの湯を持ってきた。
「終わった顔してるけど、終わってないよ」
イオナは苦く笑う。
「知ってる。今日は“確定できないもの”を確定しないって決めただけ」
それでいいと、メラは頷いた。
曖昧なものを曖昧なまま棚へ置く勇気も、監査には要る。
夜明け前、イオナは報告書の欄外に一行を加えた。
『未確定群を残すことは遅延ではなく、誤認防止の工程である』
影の輪郭は一夜で消えない。
それでも、輪郭を毎晩削り続けることはできる。




