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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第91話 歌劇への招待 ~それは演目~

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 生徒たちは走る。

 足音が響く。

 魔力が揺れる。

 誰かが振り返り、誰かが前を見据える。


「こっちだ! 通路が開けてる!」

「援護する! 魔法、展開!」


 若さと瞬発力。

 それは、今この瞬間にしか発揮できない『生きる力』だった。


 一方、教師たちも動く。

 かつて探索者だった者たち。

 だが、今は教壇に立つ者。

 十年のブランクは、体にも心にも重くのしかかっていた。


「止めろ! 逃がすな!」

「魔術障壁、展開・・・っ、くそ、遅れた!」


 経験はある。

 だが、体が追いつかない。

 魔力の流れが鈍い。

 足がもつれる。

 判断が一瞬、遅れる。


 それでも、彼らは動く。

 守るためではない。

 逃げるためでもない。

 ただ、自分たちの『立場』を守るために。


 ◇


 予想はしてた。

 だけど・・・。


「躊躇なしか」

 カルマは首を振った。

 まさか、いきなり殺しにかかるとは!


 懐柔策や脅しの展開は予想していた。

 だけど、いきなり暗殺に出るというのは意外だった。


「困ったな」

 まったく困っていない顔で、カルマは呟いた。


 ◇


 生徒たちは、命を守るために戦う。

 教師たちは、過去を守るために戦う。


 数は拮抗していた。

 質も、互いに一長一短。

 だからこそ、戦場は混沌とした。


 魔法が飛ぶ。

 剣が交わる。

 叫びが響く。 

 誰かが倒れ、誰かが立ち上がる。


 その中で、少年は前に出る。

 少女の背中を追ったその足で、今度は仲間の盾となる。


「来いよ、先生。俺たち、もう『生徒』じゃないんだ」


 その言葉に、教師の一人が足を止めた。

 迷いが、戦場に生まれた。


 そう。戦場だ。

 モンスター相手ではない。


 迷宮が静かに息を潜める。

 今、幕が上がるのは——人と人の、命を懸けた舞台。 


 ◇舞台演目① 『師弟の終焉』◇


 少年の握る剣は、赤い軌跡を残していた。

 彼にとって、絶対に生かしておけない『暗殺者』と、その横で毒に蝕まれ動けずにいた者とを彼女もいる『あちら側』へ送っていたからだ。


 戦いは秒でケリがついた。

 動いたのは教師のほうだ。


 迷いが、そうさせていた。

 これ以上は動けなくなる。

 その実感が、早めの決着を望ませた。


 心を閉ざし、そこにある『存在』をかつて戦った『モンスター』だと思い込む。

 そして、一撃で仕留めるとの決意のもとに踏み込んだ。


 狙い違わず、教師の持つ剣は少年の体に届く。

 それは少年から見ても同じことだった。


 少年にはもう、守るものがなかった。

 自身の命ですら、守る価値を見失っていたのだ。

 だから、少年は『避ける』という選択肢を忘れていた。

 覚えていたのは、剣を『突く』という攻撃の動作だけ。


 教師の剣が、少年の意思を切り落とした時、少年の意思の残り香が体を動かした。

 それは、命の核には届かずとも、命には届く傷を教師に負わせるものとなった。


 鉄の匂いが、空気を染めた。


 教師は一歩、後退した。

 胸元から溢れる赤が、制服の白をじわじわと侵食していく。

 少年の剣は、確かに彼の肉を裂いていた。


 だが、それは『意思』ではなく、『残り香』の仕業だった。

 それは、彼の体に染みついた訓練の記憶。その残滓。

 意識が消えても、体はその願いをなぞるように動いていた。

 それは、誰かを守りたいと願った日々の、最後の灯火だった。


「・・・やるじゃないか」


 教師は、そう呟いた。

 その声には、怒りも、驚きもなかった。

 ただ、どこか懐かしさのようなものが滲んでいた。


 少年は、何も言わなかった。

 目は開いていたが、そこに『見る』という行為はなかった。

 彼の瞳は、ただ空を映していた。


 誰もいない空。

 誰にも見られない空。


 教師は、剣を手放した。

 その音が、迷宮の床に響いた瞬間、少年の体もまた、力を失って崩れ落ちた。


 沈黙が、二人の間に降り積もる。

 それは雪のようであり、灰のようでもあった。

 静かに降り積もる『終わり』の象徴。




「・・・やるじゃないか」

 教師の声は、まるで遠い記憶をなぞるようだった。


 その一言が、少年の耳に届いたかどうかはわからない。

 けれど、教師の瞳は、確かに『過去』を見ていた。


 かつて、同じように剣を握り、同じように対峙したことがあった。

 その姿が、今目の前で血に濡れている少年と重なったのだ。

 剣を得手とする者同士の訓練風景。


「・・・あの頃のお前なら、避けていたな」

 無様に転げまわって避けていた姿を思い出す。

 戦う覚悟が欠落した姿・・・。


「いや・・・『人を守る』ってそういうことだったか」

 教師は、自嘲気味に笑った。

『命を懸ける』、そんな当たり前のことを遠い過去に置き去りにしてきた者の笑みだ。

 それは、敗北の笑みではなく、記憶の中に沈んでいく者の笑みだった。


 少年は、微かに唇を動かした。

 声にはならなかったが、その動きは、確かに『何か』を伝えようとしていた。


 教師は、その意味を読み取ろうとした。

 だが、迷宮の風が吹き抜け、言葉をさらっていった。


 そして、壁に刻まれた文字が、静かに浮かび上がる。


『演目:師弟の終幕』


 迷宮は、すべてを見ていた。

 そして、次の幕を準備していた。


 ◇


「今どきは、あまり注目を浴びない演目だけどね」

 カルマは肩をすくめていた。


「『負うた子に教えられ』か? 生徒に教えられてたら世話ないよ」

 命がけの戦闘と、訓練の区別がつき切れていなかった教師への、ダメ出しだった。


「いや・・・最後まで『教師』だったってことか?」

 戦士として対峙していたのではなく、『先生』として向き合っていたからこそなのかもしれない。


「・・・」

 カルマは首を振った。

 正解は当人たちにもわかりはしないだろう。


「・・・次は、少しドロドロしそうかな? 愛憎が絡み合う。大人でダークな『演出』になりそうだ」

 チャンネルを変える気軽さで、カルマはカメラ――『メガネウロ』——を切り替えた。


 濃い色になりそうな舞台。

 軽い口調ながら、カルマの目は真剣だった。


 映し出されたのは、赤と黒が交錯する部屋。

 そこにいるのは、かつて『愛』を語った者たち——そして今、『憎しみ』に沈む者たち。


 退避と追跡行の脱落者=生徒2 教師3



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