第87話 『終焉』
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◇レイドの終焉◇
「お、おまえ! な、仲間を?!」
殺したのか?!
そう責めたいのだろうか?
ようやく、自我を取り戻して、再起動できた。
『再起動することにした』リーダーが声を荒げた。
「先に殺しにかかったのは、そっちだろ? 人を爆弾として使っておいて、被害者ぶるのはやめてくれ」
カルマは小さく首を振って拒絶した。
「ふ、復讐だとでもいうつもりか?!」
「それ以外あるか?」
『ダンジョンマスター』としての職務というのもあるが、カルマにとってメインはやはり『復讐』ということになる。
「た、多数の必要は・・・」
「少数の必要に勝る? その言葉、オレも好きだからよく知ってるけど、無断で切り捨てられる身としては、頷けないよね。正直、他人の命なんていくつあっても気にならないよ」
おまえらだって、そうだろう?
カルマの瞳は揺るがない。
自分を捨てて、学校の仲間達のために働いてきた。
罵倒されようと、役立たずと罵られようと、だ。
それに対しての『礼』が、爆弾にすること。
これでは、受け入れようなんてない。
もしかしたら、事前に説明されて頭を下げられていたら、納得してしまえたかもしれない。
でも、何の相談もなく死を強制されたのだ。
恨むなというほうが無理だろう。
せめてあの時、魔力の返還に乗せて誰か一人でいい。
「ごめんね」「ありがとう」「さようなら」
どれか一言でも言葉をくれていたら。
カルマは『復讐』はせず、単に『ダンジョンマスター』として、このダンジョンに君臨する存在となっていたかもしれない。
誰の命も奪わず、ただ追い返すだけの『ダンジョン経営者』になれたかもしれない。
でも、その可能性を、彼らが否定した。
『復讐』は、カルマが自ら望んでのことではない。
『彼ら』の選択に、真摯に向き合えば、その答えしか出ないだけだ。
あの時、誰かが名前を呼んでくれていたら・・・。
そして、その可能性は確かにあったはずだった。
カルマの脳裏に『妖怪』たちの姿が思い浮かぶ。
彼女たちなら、たとえ素直な表現ではなかったとしても、なにか言葉をかけられたはずだった。
だけど、彼女たちの選択は『沈黙』だった。
カルマは、ふと目を伏せた。
妖怪たちの姿が脳裏をよぎる。
『沈黙』。
あれは拒絶じゃないと、信じたかった。
でも、信じる理由が、もうなかった。
いや、それは——『終わってから』だ。
カルマは顔を上げ、リーダーたちに向き直る。
その瞳には、まだ『終わらせる覚悟』が宿っていた。
「クソが!」
議論は平行線。
リーダーは実力行使に出た。
抜いたままの剣を手に、カルマへ躍りかかろうとする。
「いいのかな? 一人にして?」
一葉に視線を向けるカルマ。
「?!」
慌てて制動をかけるリーダー。
振り向いた目が、一葉のそれと合う。
一葉の瞳が揺れる。
まるで、自分が『人質』になったことを理解したかのように。
そして、リーダーは気付いた。
一葉ににじり寄る影の存在に。
おかしな仮面で顔を隠した影。
64階層で見たダンジョンの『サブマスター』だった。
「させるかぁっ!」
全力で戻る。
果せるかな、リーダーは間に合った。
一葉は無事だ。
その代わりに倒れ伏したのは・・・。
「『真梨華』?!」
仮面が外れたその顔は・・・。
『レイド』サブリーダーだ。
「あーあ。昔の女を殺して、新しい女に乗り換えか? ヒドイな」
「お、おまえぇぇ! おまえが仕組んだのか?!」
「まぁ、そうだな。でも、本人の希望でもある」
全体の段取りはカルマが書いた。
しかし、サブリーダーに一葉を狙わせたのは、本人の強い希望があってのことだ。
「一葉、大丈夫か?!」
負傷していないか?!
リーダーが抱きしめるようにして、その華奢な体を支えた。
「え、ええ。平気よ」
言葉は返した。
だが、一葉の心は千々に千切れている。
守られたはずなのに、なぜこんなに痛いの・・・?
私が壊したのは、誰だったんだろう。
ふと、視線が真梨華に向いた。
「ッ?!」
視線が合った。
そして、『支え』は破壊された。
「裏切者」
『レイドサブリーダー』が、片手剣を握りしめ、見上げていた。
その視線が見ていたのは・・・リーダーだった。
◆
【「一葉をどうしたかったの?」
「とりあえず、八つ裂きかな?」
「!? ・・・そう。なら、それは私にやらせてちょうだい。チャンスを作ってくれれば、私がっ・・・」
殺す!
触れられそうな殺気が迸った。
「わかった。一葉を殺す役は君にあげるよ」
契約が、成立した。】
契約が成立したあの時、カルマはこう続けていた。
「チャンスは二度ある。君の体には傷を修復してくれる存在を仕込んである。リーダーなり一葉なりにやられても、すぐに死ぬことはない」、と。
『再生虫』の妖怪版、『妖霊虫』を潜り込ませてあるのだ。
死体となっても魂を体にとどめておく働きがある。
もちろん、妖怪化まではしない。
それはカルマとシステムの協力が必要だった。
それでも、一度死んだくらいでは死なないことになる。
簡単に言えば、『死んだ後にもう一息動けるようにする』虫ということだ。
そして、ついでながら人間のまま『ダンジョンのサブマスター』にも指名してある。
『ダンジョンマスター』に人間がなれるのだ。
『サブマスター』に就けるのにも制限はなかった。
その階級に合わせて、いくつかの称号とスキルも保持している。
心臓が止まっていても、そこからさらに動くくらいは可能だった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
『真梨華』が狂乱した叫びをあげて襲い掛かる。
リーダーと一葉、もちろんサブリーダーも含めて、命を失うのに時間はかからなかった。
残り、0人。
「そして、誰もいなくなった、と」
『全校生参加の最下層攻略レイド』は、ここに失敗した。
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