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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第86話 最後の10人 ~リーダーの独白~

2/2

 


 俺は、守るために剣を持ったはずだった。

 でも、気づけばその剣は、仲間を切り裂いていた。


 あの人たちは、元探索者だった。

 俺たちに“夢”を語った。


「犠牲は美しい」「勝利は正義だ」って。


 俺は、それを信じた。

 だから、カルマを“爆弾”にすることも、正義だと思った。


 でも、今思えば、あれは“演出”だったんだ。

 俺たちが舞台に立つための、都合のいい脚本だった。


 カルマを爆弾にしたのは、俺じゃない。

 そう言い切れるか?

 サブリーダーを見捨てたのは、俺じゃない。

 そう言い切れるか?


 一葉だけは守りたかった。

 それが、俺の“正しさ”だった。


 でも、正しさってなんだ?

 誰かを守るために、誰かを犠牲にすることか?


 俺は、英雄になりたかった。

 でも今、俺は『舞台の上の悪役』だ。


 カルマは、それを見抜いていた。

 俺は、ただ乗せられていただけだった。


 それでも、剣は握っている。

 それしか、俺には残っていない。


 ◆


 リーダーの中では、過去の映像がフラッシュバックしていた。

 レイドの計画が発表される前日。

 生徒指導室に呼ばれて、担当教師と話し合った『あの時』の映像だった。


 広くはない部屋。

 テーブルとイスしかない。


 テーブルの向こうには歴戦の戦士といった風情の二人の大人。

『元探索者』の教師たちだ。


 教師A(微笑みながら):「君は、よく頑張ってるね。みんなをまとめて、責任を背負って・・・本当に立派だよ」

 リーダー:「でも・・・人を爆弾にするなんて・・・それは・・・」

 教師B(穏やかに):「君が決めることじゃないよ。これは『皆のため』の判断なんだ」

 教師A:「カルマくんも、きっとわかってる。彼は『支える側』の子だから」

 教師B:「それに、彼の魔力は特別だ。君の剣が輝くために、必要なんだよ」

 リーダー:「・・・・・・」

 教師A(優しく肩に手を置いて):「君が決めたってことにしておこう。その方が、皆も君を信じる」

 教師B(微笑みながら):「英雄って、そういうものだよ。誰かの痛みを背負って、前に進む人」

 教師A:「さあ、行こう。君の選択が、皆を救うんだ」

 教師B:「そして、カルマは『名を残す者』になる。美しいじゃないか」

 リーダー:「・・・・・」

(何人かの顔が脳裏をよぎった。)

(笑いかけてくれる顔。ちょっと悲しそうな顔。怒って首を振った顔もある。)

(それでも——。)

 リーダー:「・・・わかりました。僕が・・・みんなに伝えます」


 ◇


 そうして『レイド』は始まった。

 うまく行ってた。


 カルマのために、最高に泣ける演説原稿を何度も書き直してきた。

 嚙んだりしないように、暗記するまで読み込んだ。

 きれいに終わらせられるはずだったんだ!


 リーダーの自分の内面との対話は、まだ続いている。


 ◇崩壊は止まらない◇


 半分になったレイドメンバーは、さらに半分に分かれた。

 リーダーと一葉、そして他の三人だ。

 床にどっしりと立つひときわ巨大な氷柱を挟んで、距離が置かれた。


 リーダーは未だ立て直せずにいて、一葉は怯えている。

 三人はリーダーに警戒の目を向けていた。

 後ろから忍び寄る影に、気が付いていない。


 氷柱の周囲で空気が揺れていた。

 下へ下へと下げる冷気。

 それが、時折激しく上昇する。

 まるで、近くに炎の熱を持った何者かがいるかのように。


「ほつれた糸は燃やされる」

 熱を感じない言葉。


「「「っ?」」」

 三人が振り返る。


 左右の者の肩には手がかかった。

 中央の者は妖艶な女の微笑みを見た。

 そして、現場は熱くなった。


 火柱が三本、立ち上った。

 焼け焦げる匂いが、氷の冷気を押しのける。

 パチ・・・パチ・・・と、炎が氷を舐める音が響く。


 サラは、ただ微笑んでいた。

 まるで、これが『当然の結果』であるかのように。


 周囲には氷柱。

 赤と青のコントラストが美しい。


 蒼い氷柱と赤い火柱。

 見た目だけは華やいでいる。


 残り、二人。


 ◇


「さ、沙羅?」

 炎とともに現れたサラを見て、一葉が声を震わせた。


 ◇一葉の後悔◇


 サラは、炎の中から現れた。

 制服は、どこか懐かしい形をしていた。

 でも、色が違う。


 深紅と黒のグラデーション。

 スカートの裾には、焦げ跡のような模様が浮かんでいた。


 髪は長く、艶やかで、炎の光を受けて揺れていた。

 目は細く、笑っているようで、何も映していない。


 一葉は、無意識に共通点を数えていた。


(髪の長さ、同じ)

(制服の形、同じ)

(笑うときの口元、少し似てる)


 でも、違う。

 この女は、誰かのために笑っていない。

 この女は、誰かの痛みを見て、微笑んでいる。


 一葉は、震えながら思った。

(私も、あの時・・・カルマの痛みに、目を向けなかった。沙羅から見た『私』も、こうだったのかも?)


(あの時、沙羅は言った。「本当に、これでいいのかしら?」と)

(私は、その言葉を弱気だと思って無視をした。)

(その結果が今の状況なのだとしたら・・・)

(沙羅が次に焼くのは『私』なのかもしれない)


「さ、沙羅・・・?」

 一葉は、炎をまとって登場した『サラ』を『沙羅』だと認識した。


 サラは他の妖怪たちと比べると、外見の変容度が低い。

 一目で『素材』を特定できたのだ。


「65階層ぶりね。あなたたちに置き去りにされて以来の再会よね?」

 まるで、さっき喫茶店でお茶して以来よねっていうような気軽さだった。


「お、置き去りにだなんて、わ、私たちは・・・」

 置き去りという言葉の重さ、それを笑顔で、ありふれた挨拶のように言われる。

 一葉は、言葉と表情の選択に戸惑いを隠せない。


 だいいち、私と沙羅とは、敵対しかけていたはず。

 まずは『レイド優先』。

 それで無理やり先送りにしていただけで、感情はくすぶったままだった。


「言い訳はどうでもいいの。どちらにしろ、結果は変わらなかっただろうし」

「言い訳だなんて! ・・・え? け、結果?」

「ええ。もう、あなたたち二人だけよ。レイドは全滅ね」

「なっ?!」

 一葉が息を吞んでふらついた。


 否定の言葉は出なかった。

 ひよりとフラノ、そしてサラの顔に目を向けて無言だ。

 それぞれの『素』が『誰』なのか、わかる。

 だから、否定の言葉は出なかった。


「あそこで『前進』を選んでくれてよかったよ。間引く手間が格段に減ったからね」

 カルマが朗らかに感謝を伝える。


「よ、よかった・・・って」

 自分の選択が、裏目に出ていることが重くのしかかる。


 たとえば、『前進』ではなく『後退』を選んでいれば?

 たとえば、『沙羅』との議論で対立ではなく融和を選んでいたら?

 たとえば・・・カルマとの別れ際、自分から『エリクサー』を手渡していたら?

 何かが変わっていたのではないか?


 カルマは本気で感謝していた。

 あそこでばらけていなければ、この場に十数人が到達していた可能性がある。

 そうなっていれば、もっと苦労しただろうと思われるからだ。

 それがわかる。

 わかってしまう。


「あ、あんた・・・」

 私の選択が・・・誰かの命を削ってた。

 それを、カルマは『助かった』って言っている。


 一葉は、言葉を失った。

 その場に立っているだけで、罪の重さに押し潰されそうだった。


 リーダーは、その姿を見ていた。

 そして、自分の中の『演説』が、もう誰にも届かないことを悟った。


 夢を現実が塗りつぶしている。

 名前だけの『英雄』となるはずだったカルマは生きていて目の前にいる。

 何より、実質的な『英雄』として凱旋するはずだった自分は打ちひしがれている。


 もう、何もかもが届かない。


(ああ、そうか。現実的じゃないから、あの原稿は書けなかったんだ)

  何度書き直してもしっくりこなくて、頭を悩ませたことが思い出される。


 事実ではなく、虚言だったから。

 真実ではなく、ただの願望・・・野望だったからなのだ。

 元が歪んでいるものを、どうにかまっすぐにしようとしていた。


『徒労』とは、こういう時に使うのか・・・。


 英雄になれると思ってた。

 犠牲の上に雄々しく立ち上がる『英雄』。

 だけど・・・。


 リーダーは、わずかに口を歪めた。

 思い出す。


『犠牲を出させない、傷だらけの英雄』。

 それこそが、真に彼が夢見ていた『英雄像』だったと。


 夢を諦めた『大人』の言葉に耳を傾けすぎたのだ。

 でも、それを認めるわけにはいかない!



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