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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第85話 最後の10人 ③ ~毒の広がるとき~

1/2

 


「くッ、クソガァァァァ!」

 自失の数秒ののち、リーダーが吠えた。

 輝く大剣を掲げて振り回す。


「砕け散れぇぇ!」

 光る剣撃が天井を薙いだ。

 氷柱が砕けて降り注ぐ。


 氷片を避け、全員が逃げ惑った。

 粉々になっている分、負傷するリスクは少ない。

 だが、痛いものは痛い。


「うっわ、ムチャするねー」

 ちゃっかりと、折りたたみ傘で身を守るフラノが、呆れている。

 だけど・・・。

 口が半月型に歪んだ。


「その状態じゃ、走れないよね?」

 床が大小無数の氷片で覆われている。

 著しく動きを制限されるのを避けられない。


「バラバラだし」

 降ってくる氷塊を避けようと動いた彼らは、隊列も何もなく、個々で立っていた。

 互いを守りあえる範囲を外れた者が多かった。

 控えめに言って、隙だらけだ。


 そこへ。

 氷片が舞う中、色褪せた制服の一団が静かに現れる。

 フラノの芝居がかった仕草で、迎え入れられた。


「『素材』を採取します」


 その声と同時に、空気が変わった。

 一影が前に出る。

 足元の氷を踏みしめ、迷いなく道を切り拓く。

 彼女の足運びで氷片が左右に退き、細い道を形成していく。

 ナイフが光を反射し、敵の視線を奪う。


 ターゲットとなったのは、一人の女子。

 濡れた肩を抱くようにして身を縮ませていた。


 目を見開いて、視線がナイフに釘付けになっている。

 仲間の退場、氷片を受けた痛み、そこへ突然の襲撃者。

 思考が停止している。


 そんな彼女に。


 二影が囁く。

 声なき声が敵の心に入り込み、恐怖と混乱を助長する。


 杖を握る手が、目に見えて震えた。

 目が曇り、意識が内面に向いたのがわかる。


 三影が盾となり、敵の反撃を受け止める。

 氷片が砕ける音に紛れて、彼女の腕が軋む。


 四影が滑るように動き、敵の背後に回る。

 刃が一閃、血が舞う。


 五影が囮となり、敵の注意を引きつける。

 笑みを浮かべながら、氷の上を舞うように跳ねる。


 六影が傷を癒す。

『素材』に手を添え、光が灯る。

 無駄な傷は残さない。


 そして、七影候補かを審問する。

 実体のない影が、相手の輪郭を覆い隠した。

 数秒の間。


「いやぁぁぁぁぁ!」


 拒絶の叫びが響いた。

 魂が拒んだその瞬間、影への道は断たれる。


「採取、失敗」

 一影のナイフが静かに一閃。

 横に薙がれた。

 命が、音もなく終わる。


 床に転がる重いもの。

 氷の上を転がる音が、静寂を切り裂いた。


 転がったものは、六つの影が拾い、支えて運び出す。

 仲間に入らずとも、『素材』には違いない。


 残り、七人。


 ◇七人みさきの初仕事◇


 戦場を風のように吹き抜けたのは『七人みさき』。

『素材』回収を旨とする妖怪だ。

 彼女たちは戦場を離脱しながら、自分たちの初仕事を振り返る。


 一影:「道は拓けた。素材も採れた。・・・でも、あの叫びは、耳に残るね」

 冷静だけど、ほんの少しだけ、足取りが重い。


 二影:「迷わせた。それで動けなくなった。・・・それって、壊したってこと?」

 囁きは敵だけじゃなく、自分の心にも響いている。


 三影:「守った。仲間は無事。でも、守れなかったものもある」

 盾の重みが、少しだけ胸に残る。


 四影:「斬った。それが私の役割。・・・でも、綺麗に動けてたかな?」

 刃の軌道を思い返しながら、少しだけ自問する。


 五影:「目立った! 注目された! ・・・でも、見られたくない顔もあったかも」

 笑ってるけど、ちょっとだけ目が泳いでる。


 六影:「癒した。痛みは和らいだ。・・・でも、心の痛みは、どうすればいい?」

 手のひらに残る温もりが、答えを探してる。


 七影:「・・・」

 ぼんやりとした影は何も言わない。

 ただ、そこに存在していた。



 場所:70階層・校長室(仮)/素材保管エリア。



 帰還後の会話。


 素材が並べられた机を囲んで、六人が座る。

 机の上には、氷片にまみれた武器の破片、魔力の残滓、そして・・・命の痕跡。


 一影:「道の確保は問題なし。敵の配置も予測通り。素材の質は・・・まあまあかな」

 淡々と報告しつつ、ナイフの手入れをしている。


 二影:「精神干渉は成功。でも、あの子・・・ちょっと耐性高かったかも」

 指先で氷片をつまみながら、ぼそり。


 三影:「守りきれたけど、四影の斬撃に合わせるタイミング、もう少し詰めたい」

 盾の表面に残った傷を見つめてる。


 四影:「え、私? ちゃんと斬ったよ? ・・・でも、ちょっと派手すぎた?」

 剣を肩に担ぎながら、ちょっと照れくさそう。


 五影:「見せ場は完璧だったでしょ? でも、氷の床はほんとに滑る~!」

 手の中にある『モノ』の髪をくしけずりながら、笑ってる。


 六影:「癒しは間に合ったけど・・・素材の『痛み』が、ちょっと重かった」

 手のひらを見つめながら、静かに呟く。


 七影:空席の椅子が一つ。

 誰かがそこに座る日を、みんなが少しだけ待っている。


 ◇戦場再び◇


「うんうん! いい調子だね! 順調に邪魔者が消えていくよ!」

 フラノが突然拍手した。


「さすがはリーダーさん。段取りが見事だね! 素晴らしいね!」

 リーダーを褒めちぎる。


「待望の凱旋。幼馴染も手に入れて、全部ひとり占め。万々歳だね!」


 ザワリ。

 空気が揺れた。


「『目的物』を独占しようとしている者がいる」。

 いつの間にか脇へ追いやられていた疑惑が急浮上してくる。


 もしも、リーダーが一人で生き残る悲劇の主人公を狙っていたら?

 婚約を迫っていたサブリーダーを亡き者にして、一葉を手に入れようと企んでいたら?

 仲間が次々に死んでいく現状に説明がつかないか?


「ま、まさか・・・」

 一人が言葉にした途端、全員に緊張が走った。


 考えてみれば、昨日はあんなにうまくいっていた。

 それが今日は、ボロボロだ。


 なぜか?

 誰かが、そうなるよう仕組んだから・・・ではないか?

 疑心暗鬼の波が止まらない。


「こらこら、フラノ。それは早すぎ!」

 ヤレヤレ。

 そんな雰囲気で人影が現れる。


「う・・・ウソ」

 一葉が亡霊でも見たような顔をして、リーダーにしがみついた。


「やぁ! 昨日ぶり!」

 現れたのは『カルマ』だ。


「な、なん・・・で?」

 一葉が問いを投げる。


「やだなぁ。もちろん、『もらっていたエリクサー』で蘇生したんだよ『予定通りに』ね」

 ウィンクまでして見せるカルマ。


「あとは、こいつらを亡き者にすれば、何もかも総取りできるね。まったく、欲の深い人たちだ。リーダーのフィクサーっぷりには脱帽だよ」

 君たちの企みだよね? と、カルマは微笑んだ。


「て、テメェー!」

 剣士が斬りかかった。リーダーに。

 その体には、ほのかに暖かな魔法が残っていた。


 予想外。

 それに尽きるだろう。


 カルマの登場で、精神的な混乱に陥っていたリーダーは反応が遅れた。

 遅れていながら、『聖騎士』のスキルはしっかりと仕事をした。


『逆襲者』。

 自分への攻撃に対する反撃を、自動で行うスキルだ。

 本人が負傷ほか、何らかの理由で反応が遅れた場合に発動するパッシブスキル。

 その意味では正しく機能した。

 便利なものではある。


 ただ、このスキルにフレンドファイアを回避する機能がないことを、リーダー自身も知らなかった。

 モンスター相手に一・二度しか発動したことがなかったのだ。

 味方に斬りかかられた経験もなかった。


 仲間が『混乱』の状態異常になることがあっても、一葉がたちどころに解除する。

 知る機会がなかった。

 だから、それは必然だった。


 魔法使いの少女が残した最後の魔法は、剣士を守れなかった。

 むしろ、あの魔法は『呪い』だったかもしれない。

 この魔法がなければ、理性をなくして仲間に斬りかかることなどなかっただろうから。


 制服が床に落ちた。

 命の色が広がっていく。


 残り、6人。

 そして・・・。


「なにやってんだ?! おまえ!」

 槍使いが詰め寄った。


 混乱から自失へと移行しているリーダーに。

 同じことが起き、制服が重なった。


 残り、5人。


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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