第85話 最後の10人 ③ ~毒の広がるとき~
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「くッ、クソガァァァァ!」
自失の数秒ののち、リーダーが吠えた。
輝く大剣を掲げて振り回す。
「砕け散れぇぇ!」
光る剣撃が天井を薙いだ。
氷柱が砕けて降り注ぐ。
氷片を避け、全員が逃げ惑った。
粉々になっている分、負傷するリスクは少ない。
だが、痛いものは痛い。
「うっわ、ムチャするねー」
ちゃっかりと、折りたたみ傘で身を守るフラノが、呆れている。
だけど・・・。
口が半月型に歪んだ。
「その状態じゃ、走れないよね?」
床が大小無数の氷片で覆われている。
著しく動きを制限されるのを避けられない。
「バラバラだし」
降ってくる氷塊を避けようと動いた彼らは、隊列も何もなく、個々で立っていた。
互いを守りあえる範囲を外れた者が多かった。
控えめに言って、隙だらけだ。
そこへ。
氷片が舞う中、色褪せた制服の一団が静かに現れる。
フラノの芝居がかった仕草で、迎え入れられた。
「『素材』を採取します」
その声と同時に、空気が変わった。
一影が前に出る。
足元の氷を踏みしめ、迷いなく道を切り拓く。
彼女の足運びで氷片が左右に退き、細い道を形成していく。
ナイフが光を反射し、敵の視線を奪う。
ターゲットとなったのは、一人の女子。
濡れた肩を抱くようにして身を縮ませていた。
目を見開いて、視線がナイフに釘付けになっている。
仲間の退場、氷片を受けた痛み、そこへ突然の襲撃者。
思考が停止している。
そんな彼女に。
二影が囁く。
声なき声が敵の心に入り込み、恐怖と混乱を助長する。
杖を握る手が、目に見えて震えた。
目が曇り、意識が内面に向いたのがわかる。
三影が盾となり、敵の反撃を受け止める。
氷片が砕ける音に紛れて、彼女の腕が軋む。
四影が滑るように動き、敵の背後に回る。
刃が一閃、血が舞う。
五影が囮となり、敵の注意を引きつける。
笑みを浮かべながら、氷の上を舞うように跳ねる。
六影が傷を癒す。
『素材』に手を添え、光が灯る。
無駄な傷は残さない。
そして、七影候補かを審問する。
実体のない影が、相手の輪郭を覆い隠した。
数秒の間。
「いやぁぁぁぁぁ!」
拒絶の叫びが響いた。
魂が拒んだその瞬間、影への道は断たれる。
「採取、失敗」
一影のナイフが静かに一閃。
横に薙がれた。
命が、音もなく終わる。
床に転がる重いもの。
氷の上を転がる音が、静寂を切り裂いた。
転がったものは、六つの影が拾い、支えて運び出す。
仲間に入らずとも、『素材』には違いない。
残り、七人。
◇七人みさきの初仕事◇
戦場を風のように吹き抜けたのは『七人みさき』。
『素材』回収を旨とする妖怪だ。
彼女たちは戦場を離脱しながら、自分たちの初仕事を振り返る。
一影:「道は拓けた。素材も採れた。・・・でも、あの叫びは、耳に残るね」
冷静だけど、ほんの少しだけ、足取りが重い。
二影:「迷わせた。それで動けなくなった。・・・それって、壊したってこと?」
囁きは敵だけじゃなく、自分の心にも響いている。
三影:「守った。仲間は無事。でも、守れなかったものもある」
盾の重みが、少しだけ胸に残る。
四影:「斬った。それが私の役割。・・・でも、綺麗に動けてたかな?」
刃の軌道を思い返しながら、少しだけ自問する。
五影:「目立った! 注目された! ・・・でも、見られたくない顔もあったかも」
笑ってるけど、ちょっとだけ目が泳いでる。
六影:「癒した。痛みは和らいだ。・・・でも、心の痛みは、どうすればいい?」
手のひらに残る温もりが、答えを探してる。
七影:「・・・」
ぼんやりとした影は何も言わない。
ただ、そこに存在していた。
場所:70階層・校長室(仮)/素材保管エリア。
帰還後の会話。
素材が並べられた机を囲んで、六人が座る。
机の上には、氷片にまみれた武器の破片、魔力の残滓、そして・・・命の痕跡。
一影:「道の確保は問題なし。敵の配置も予測通り。素材の質は・・・まあまあかな」
淡々と報告しつつ、ナイフの手入れをしている。
二影:「精神干渉は成功。でも、あの子・・・ちょっと耐性高かったかも」
指先で氷片をつまみながら、ぼそり。
三影:「守りきれたけど、四影の斬撃に合わせるタイミング、もう少し詰めたい」
盾の表面に残った傷を見つめてる。
四影:「え、私? ちゃんと斬ったよ? ・・・でも、ちょっと派手すぎた?」
剣を肩に担ぎながら、ちょっと照れくさそう。
五影:「見せ場は完璧だったでしょ? でも、氷の床はほんとに滑る~!」
手の中にある『モノ』の髪をくしけずりながら、笑ってる。
六影:「癒しは間に合ったけど・・・素材の『痛み』が、ちょっと重かった」
手のひらを見つめながら、静かに呟く。
七影:空席の椅子が一つ。
誰かがそこに座る日を、みんなが少しだけ待っている。
◇戦場再び◇
「うんうん! いい調子だね! 順調に邪魔者が消えていくよ!」
フラノが突然拍手した。
「さすがはリーダーさん。段取りが見事だね! 素晴らしいね!」
リーダーを褒めちぎる。
「待望の凱旋。幼馴染も手に入れて、全部ひとり占め。万々歳だね!」
ザワリ。
空気が揺れた。
「『目的物』を独占しようとしている者がいる」。
いつの間にか脇へ追いやられていた疑惑が急浮上してくる。
もしも、リーダーが一人で生き残る悲劇の主人公を狙っていたら?
婚約を迫っていたサブリーダーを亡き者にして、一葉を手に入れようと企んでいたら?
仲間が次々に死んでいく現状に説明がつかないか?
「ま、まさか・・・」
一人が言葉にした途端、全員に緊張が走った。
考えてみれば、昨日はあんなにうまくいっていた。
それが今日は、ボロボロだ。
なぜか?
誰かが、そうなるよう仕組んだから・・・ではないか?
疑心暗鬼の波が止まらない。
「こらこら、フラノ。それは早すぎ!」
ヤレヤレ。
そんな雰囲気で人影が現れる。
「う・・・ウソ」
一葉が亡霊でも見たような顔をして、リーダーにしがみついた。
「やぁ! 昨日ぶり!」
現れたのは『カルマ』だ。
「な、なん・・・で?」
一葉が問いを投げる。
「やだなぁ。もちろん、『もらっていたエリクサー』で蘇生したんだよ『予定通りに』ね」
ウィンクまでして見せるカルマ。
「あとは、こいつらを亡き者にすれば、何もかも総取りできるね。まったく、欲の深い人たちだ。リーダーのフィクサーっぷりには脱帽だよ」
君たちの企みだよね? と、カルマは微笑んだ。
「て、テメェー!」
剣士が斬りかかった。リーダーに。
その体には、ほのかに暖かな魔法が残っていた。
予想外。
それに尽きるだろう。
カルマの登場で、精神的な混乱に陥っていたリーダーは反応が遅れた。
遅れていながら、『聖騎士』のスキルはしっかりと仕事をした。
『逆襲者』。
自分への攻撃に対する反撃を、自動で行うスキルだ。
本人が負傷ほか、何らかの理由で反応が遅れた場合に発動するパッシブスキル。
その意味では正しく機能した。
便利なものではある。
ただ、このスキルにフレンドファイアを回避する機能がないことを、リーダー自身も知らなかった。
モンスター相手に一・二度しか発動したことがなかったのだ。
味方に斬りかかられた経験もなかった。
仲間が『混乱』の状態異常になることがあっても、一葉がたちどころに解除する。
知る機会がなかった。
だから、それは必然だった。
魔法使いの少女が残した最後の魔法は、剣士を守れなかった。
むしろ、あの魔法は『呪い』だったかもしれない。
この魔法がなければ、理性をなくして仲間に斬りかかることなどなかっただろうから。
制服が床に落ちた。
命の色が広がっていく。
残り、6人。
そして・・・。
「なにやってんだ?! おまえ!」
槍使いが詰め寄った。
混乱から自失へと移行しているリーダーに。
同じことが起き、制服が重なった。
残り、5人。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




