第23話 安全日ってのはただの幻想 ~魂の値段~ ②
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「リサイクルした甲斐があったね?」
「ふざけないでくれる?」
首に包帯を巻いた女が、不機嫌を隠しもせずに言い返す。
その声には、怒りよりも、諦めに近い何かが滲んでいた。
彼女は、カエル座りで地面にうずくまっていた。
身に着けていたものは、ほとんど焼け落ちていた。
皮膚の一部には、まだ焦げ跡が残っている。
それでも、彼女は生きていた。
いや、『生かされていた』。
『再生虫』──仲間のモンスターに寄生し、傷を癒やす補助モンスター。
それを、死体に寄生させてみた。
結果、彼女は蘇った。
記憶も、意志も、声も、残っていた。
だが、身体はもう、彼女のものではなかった。
『ダンジョン内のモンスターは、ダンジョンマスターの手足ですから』
つまり、彼女の体は、オレの手足。
命令には逆らえない。
でも、言葉では反抗する。
その矛盾が、妙に愛おしかった。
蛙飛びで移動し、カエル座りで待機する姿は、まるで、自由を模倣する人形のようだった。
『ただし、蘇生は成功しています』
「あ、ちゃんと生き返ってるんだね」
記憶の継承ではない。
本人が、ちゃんと『ここにいる』。
ただし── 体は、迷宮に縫い止められている。
焼き付いた記憶のように、もうどこにも行けない。
人間の意志は自由。
でも、体は制限付き。
それが、この迷宮での『生』の定義。
そうなるのかもしれない。
命令に従うたび、彼女の瞳がほんの少し曇る。
その曇りの奥で、かすかに揺れる記憶。
かつて、誰かに名前を呼ばれた記憶。
それが、彼女の『痛み』なのだと、オレは理解できた。
意識は残っていても、体は『ダンジョンの意思』に従う。
それが、支配者の手足として造られたモンスターの宿命。
『高レベルだったおかげで、脳死にまで至っていなかったものと思われます』
「普通の人間なら手遅れになるところだけど、高レベルの『探索者』だから蘇生できたというわけか」
納得の理由。
でも、そこにあるのは希望ではなく、運用の可能性。
「これ、他の人間にもやれるんだろうか?」
魂を逃さず、手元に置く。
それだけで、ソウルポイントが増える。
痛みが資源になる。
魂が数字になる。
それは、痛みの証明か。
それとも、罰の記録か。
オレは、まだ答えを知らない。
ただ、あの旧校舎で誰にも見られなかった『オレ』が、今は誰かの痛みを数えている。
飾り付けは全部一人でやった。
折り紙の花も、模造紙のポスターも、誰にも見られないまま壁に貼った。
もしかしたら、誰か一人くらい来るかもって思ってた。
でも、廊下の向こうから聞こえたのは、笑い声すらない沈黙だった。
あの時、誰もオレの存在を数えなかった。
今はオレが、誰かの痛みを数えてる。
それが復讐なのか、救いなのかは、まだわからない。
でも、確かなのは──
あの旧校舎の沈黙は、今もここにある。
迷宮の壁に染みついて、誰にも気づかれないまま、息をしている。
だが、それは解き放たれた。
誰も来ないなら、迎えに行くとしよう。
意思は、——尊重しない。
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