表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/354

第76話 相翼の競演

2/2

 


 ◆比翼ふげん(満島小夜)視点◆


 風は、今日もよく吹いている。

 羽根は乱れず、詠唱は淀みない。


 命令は明確。

 対象は、かつての『仲間』。


「・・・問題ないわ」


 そう呟いた声に、迷いはなかった。

 少なくとも、表面には。


 完璧であること。

 それが、私に課された役割。

 それが、私が『私』であるための条件。


 かつて、私は選んだ。

 誰かを守るために、誰かを切り捨てることを。

 その選択を、もう後悔しないと決めた。


 だから、今さら迷う理由はない。

 たとえ、相手が『あの子』でも。

 たとえ、あの時、私の手を取ろうとしてくれた子でも。

 たとえ、それ以外の『誰』であっても。


「完璧であることは、感情を捨てることじゃない。でも、感情に従うことでもない」


 それが、私の結論。

 風は、私の意志を映す。

 ならば、私は風に恥じないように、ただ正確に、ただ美しく、ただ冷たく。


 仲間を殺すことになるかもしれない。

 でも、それは『任務』だ。

『命令』だ。

 そして、『私が選んだ道』だ。


「私は、比翼ふげん。完璧であることを、私自身に課した者」


 だから、私は迷わない。

 だから、私は振り返らない。

 だから、私は『彼』のために、風を吹かせる。


 たとえ、その風が、かつての仲間の命を奪うとしても。

 たとえ、その羽根が、かつての自分を切り裂くとしても。


「私は、完璧である。だから、私は美しい。・・・そうでなければならない。そうでなければ、私は——」


 そう言い聞かせるように、風を巻き起こす。

 その風は、誰かの叫びをかき消し、誰かの涙を乾かし、誰かの命を奪う。


 でも、私は振り返らない。

 なぜなら、私の背後には—— 『私の影』が、すべての痛みを引き受けてくれているから。


 私は、ただ前を向いていればいい。

 私は、ただ命令に従えばいい。

 私は、ただ——完璧であればいい。


 それが、私の『赦し』であり、『罰』であり、『存在理由』。


 ◆比翼みれん(満島小夜の魂)視点◆


 ふげんの背は、まっすぐだった。

 風を纏い、羽根を揃え、命令に忠実。

 誰かを守るために、誰かを切り捨てることを、躊躇わない。


 その姿は、美しい。

 でも、私は——怖かった。


 あれは、私の『器』。

 かつての私が、なりたかった『理想』。

 誰にも怯えず、誰にも縋らず、ただ正しく、ただ強く。


 でも、私は知っている。

 その強さの裏に、どれだけの『痛み』があるかを。

 その正しさの中に、どれだけの『嘘』があるかを。


 ふげんは、仲間を殺すかもしれない。

 それを『任務』として受け入れている。

 でも、私は——受け入れられない。


 あの子は、私を庇ってくれた。

 あの子は、私の魔法を信じてくれた。

 あの子は、私の風に、希望を託してくれた。


 なのに、私は—— 風を、私自身のために使った。

 仲間を見捨てて、自分だけを守った。


 その罪が、私を『みれん』にした。

 完璧になれなかった私。

 赦されなかった私。

 でも、忘れられなかった私。


 ふげんは、私の『完成形』。

 でも、私は——あれに混ざれない。


 あれは、痛みを切り捨てた私。

 私は、痛みを抱えたままの私。


 ふげんが風を巻き起こすたび、

 私は、かつての仲間の声を思い出す。

「助けて!」「お願い、守って!」

 その声が、風にかき消されていく。


 ふげんは、振り返らない。

 でも、私は——振り返ってしまう。

 そのたびに、風が私を裂く。

 羽根が、私の体を貫く。


 それでも、私は後ろを歩く。

 ふげんの背を見つめながら。

 それが、私に残された唯一の『意味』だから。


 私は、ふげんに嫉妬している。

 でも、同時に——哀れんでいる。


 あれは、痛みを知らない強さ。

 私は、痛みを知ってしまった弱さ。


 どちらが『正しい』かなんて、わからない。

 でも、私は—— 仲間を殺す風には、なりたくない。


 だから、私は風に混ざれない。

 だから、私は羽根になれない。

 だから、私は——みれんのまま。


 ふげんが前を向くたび、私は、後ろで泣いている。

 その涙は、誰にも届かない。

 でも、風は——知っている。


 風が、少しだけ揺れた。

 それは、私の痛みが、ふげんに届いた証かもしれない。


 でも、ふげんは振り返らない。

 それが、あの子の『完璧』だから。


 私は、ただ歩く。

 半歩後ろで。

 風に削られながら。

 仲間の名前を、心の中で呼びながら。


「ごめんね」。

 その言葉だけが、私の詠唱。


 ◇


 風が、舞っていた。

 二つだった渦が一つになり、風が収まる。

 風が止まったあとには、よく似た二人の女が寄り添うように立っていた。


 風が収まり、廊下に残るのは。

 隅に吹き寄せられ、倒れた者のねじれた制服。

 そして、女の影が二つ。


 白い女は、誇らしげに胸を反らして立っていた。

 長く流れる白髪が、薄光を受けて淡く輝き、顔の輪郭を柔らかく縁取る。


 その瞳は、金色に燃え、迷いのない光を宿している。

 頭上には、白い羽根が光の輪となって浮かび、まるで天に選ばれた者の証のようだった。


 彼女の衣は白。

 黒いセーラー襟に赤いリボンが映え、腰には白い帯が結ばれている。

 その姿は、風を操る者としての誇りと、命令に忠実な『完成』を体現していた。


 その背に寄り添うように立つのは、黒い女。

 長い黒髪が肩に落ち、顔の半分を覆っている。

 瞳は琥珀色に沈み、どこか遠くを見ているようだった。


 彼女の制服は黒。

 赤いリボンだけが、かつての『少女』の記憶を留めている。


 頭上には、黒い月桂の枝が弧を描いていた。

 それは、白い羽根の輪と対を成すように、静かに夜空に溶け込んでいる。


 ふげんは、風の中心に立つ者。

 みれんは、風の影に立つ者。


 二人は、背中合わせに立っていた。

 一人は命令に従い、風を操る。

 一人は命令に逆らえず、風に削られる。


 その姿は、まるで『罪と赦し』の彫像。

 月の光が、白い女を照らし、黒い女を隠す。

 でも、どちらも——風の中に生きていた。


 妖怪『鶴女房』。

 己の羽で布を織る。

 献身の象徴。


 命令に忠実。

 完璧を支える未熟。

 強さと儚さの象徴。


 戦いが終わり。

 嵐は過ぎ去り。

 静寂が戻ってきた。


 ◇


「風は役に立つ」

 自慢げに胸を反らす白い女。


「そうね」

 虚ろな響きで、同意する黒い女。


 廊下には、風が猛威を振るった痕跡がはっきりと残っている。

 男女の制服が、三つ。

 ねじれて横たわっていた。


 嵐の後、風に落とされた蝶のように。


 残り、14人。



読了・評価。ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ