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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第67話 昇降口 ~傘と制服と、手紙~

1/2

 

 ぺたん・・・。


 足音がした。

 歩いてはいない。

 跳ねている?


 ペタン・・・。

 足音が一つ。

 片足分だ。

 跳ねている。


 ペタン・・・。

 片足で跳んで、ナニカが近づいてくる。


「い、いやな予感がするんだけど?」

 女子Aが笑うように声を揺らした。


「イヤな予感ってなんだよ!?」

 苛立ちで声を尖らせ、男子Aが訊いた。


「さっきの校門で、変な空白に入るのが『ず』で三途の川、そして雰囲気が怪談。なら、出るのは・・・お化け?」

「くッ!」

 ある程度、予想できる結論だった。

 男子Aの顔が歪む。


「バカヤロウ! お化けだとしても、ここはダンジョン。そういう形のモンスターってだけのことだ! やる事は変わらない! ビビってんじゃねぇよ!」

 リーダーの一喝。


「あ、ああ、そっか」

「お化け屋敷のお化けが人間やロボットってのと同じことだよね」

 自分を納得させようとする呟きが、あちこちで上がる。


 気持ち悪かろうが何だろうが、モンスター。

 虫型だったのが、お化けになるだけ!


 気を取り直す彼らの前に、ついに初お化けが登場する。


「なんじゃ、ありゃ?」

「カサ?」

 出てきたのは傘だった。


 パステルカラーのファンシーな傘。

 少し閉じ気味の傘が、自立している?

 浮いている?


「・・・ひィ!?」

 悲鳴が上がった。


 傘に顔が浮かび上がっていた。

 女の子だ。

 そして・・・傘が開く。


「キャァァァァァ!」

 男女の悲鳴がほとばしった。


 傘の柄。

 本来木製か金属製であろう柄が人間の手足だった。

 傘の中心から腕が生えていて、その腕が床を踏みしめる足のすねを握り締めている。


「なによ、それ—!」

 恐怖に引き攣った叫び。


「唐笠お化けか? あれは一つ目に一本足だろうが!」

 間違っている!

 指摘するのと同時に、剣士の腕が振るわれた。


 ピョン!

 軽快にはねてかわす傘・・・。


「【洋子ちゃんの傘。『洋傘』】だとさ!」

 鑑定持ちが苦々しく、見えた解説を読む。


「シュミワル!」

 女魔職Aの魔法が撃ち込まれる。

 炎の礫だ。


 パン!

 軽い音がして、弾かれた。

 傘が翻り、魔法を受けたのだ。

 魔法を弾く作用があるのだろう。


「防御型か!」

 守りを固めて足止めするタイプと判断する。

 答え合わせがすぐに行われた。


「は?」

 まずケリが飛んだ。

 腕が掴んでいた脛を離し、自由になった脚が文字通り飛んでくる。


「うわっ、って当たるかよ!」

 驚きはしても、避けられないことはないと身をかわす男子B。

 その顔を氷の矢が掠めた。


「え?」

 足を離した腕の手が、男子Bに向けて開かれていた。

 あの腕は魔法を撃てるのだ。


「い、意外につぇえぞ。コイツ!」

 攻守のバランスが取れている!


 最上位討伐者たちが本気になった。


 足には魔職の魔法が迫り、傘には近接職の武器が殺到する。

 傘が切り裂かれ、骨が折られる。

 手や足のようなモノは魔法に叩かれて消えた。

 登場のインパクトの割に、倒してみれば呆気ない。


「見た目はキモチワルイが勝てる敵だ。いける!」

 生理的嫌悪感を催す相手ではあっても戦える。


 倒せる。

 そう確信したリーダーが鼓舞した。

 メンバー全員が頷き返す。


 その後も『傘』の襲撃が続いた。


 炎の槍を投げてくる『和香子ちゃんの和傘』。


 炎の槍を投げてくる『日下さんの日傘』。


 水の針を降らせる『雨宮さんの雨傘』。


 手足を折り畳んだ状態から突然開いてナイフを投げてくる『折笠さんの折りたたみ傘』。


 蝙蝠のように飛んで音波を当ててくる『小森さんのこうもり傘』だ。


 傘の種類、デザインと使う魔法属性が変わるが、対応に苦労はなかった。



 昇降口の奥。

 傘たちが沈黙したあと、空気がひときわ重くなる。


 コトン。

 何かが落ちた音。

 それは、靴だった。


 左右揃ったローファーが、誰かの足音を真似るように廊下を踏みしめる。

 歩いていない。

 逃げている。


「・・・あれ、学校指定靴よね?」

 女子Cが呟く。


「そう見えるよな」

 自分の靴を見下ろして、男子Cが応えた。


 二人が見送る。

 靴は振り返らない。

 ただ、廊下を駆け抜ける。


 風魔法が発動。

 靴が巻き起こした風が、隊列の前方を吹き抜ける。

 その風には、誰かの泣き声が混じっていた。


『なぜか』、『置き去りにされた』という焦燥感が湧き上がる。

 無性に追いかけたくなる。


「精神攻撃よ! 耐えて!」

 一葉が声と、物理的な衝撃で駆けだそうとしていた者たちを叩いた。


「あ、あぶね!」

 胸を抑えて、男子Cが頭を振った。




 制服が舞う。

 赤いネクタイが風に揺れ、袖が広がる。

 誰もいないのに、誰かが立っているような気配。


「その制服・・・中身はどこいったんだ?」

 男子Dが剣を構える。


 制服は答えない。

 ただ、風が吹いた。


 柔軟剤の匂い、コロンの匂い、女の子らしい香りが吹き付けてくる。

 剣を握る手から力が抜けそうになる。

 制服に顔を埋めたくなった。


 ジャケットが開く。

 中のワイシャツが光を放った。

 セピア色の光の中に、教室で泣く少女の姿が浮かぶ。

 制服は問いかける。


『その涙、誰か見てくれてた?』

 物悲し気な響き。

 胸が締め付けられて・・・・。


「ぐッ! 涙流してる女に声かけるとかできねぇよ!」

 思わず叫んでいた。

 女の涙に対応するスキルなんて、ティーンエイジャーの男子にあるはずがない。


「しっかりしなさい!」

 一葉が怒声とともに状態異常解除の魔法を叩きつけた。


 男子Dは身体を硬直させていた。

 呼吸がままならないほどに。


「・・・でも、見てくれてたら、嬉しかったんだろうなって思うよ?」

  魔法の余波に揺れながら、ちょっと控えめに立っていた女子Dが背中を叩いた。




 鞄が開く。

 中から土の槍が飛び出した。

 それは、誰かが隠していた怒り。


「うわっ、攻撃してきたぞ!」

 男子Eが叫ぶ。


 精神攻撃かと思っていたところへの『物理』。

 思わず大きく飛び退いた。


 鞄は再び開く。

 今度は、手紙の幻影が舞い上がる。


『読まれなかった言葉は、武器になる』



【ねえ、〇〇くんへ


 いつも教室の隅で本を読んでる君を、こっそり見てました。

 声をかける勇気はなかったけど、君がページをめくる音が、私の一日を始める合図でした。


 今日、君の机にこの手紙を置いてみます。

 もし読んでくれたら、明日、昇降口で待ってます。


 でも、読まれなかったら・・・それはそれで、君らしいと思います。


 それでも、私は君に手紙を書いたことを、きっとずっと覚えてる。


 〇〇より】



 名前は揺らいで聞き取れないが、文面はハッキリ聞き取れた。

 甘い囁き、切ない情動、そしてわずかな諦めと期待。


 膝が力を失くして床へつきそうになる。

 手を伸ばして引き留めたくなる。


 なにを?

 疑問に思った途端。


 伸ばした指先が音を立てた。

 剃刀が舞っていた。


 一瞬の静寂。


『うっそでーす! キャハハハハハハハ!』


 狂ったような笑い声が、背中を駆け上がる。

 寒気と怒り、なんと表現すればいいのかわからない感情で胸が張り裂けそうになる。


「ああ、もう! 幻覚だって言ってんでしょうが!」

 抱きつくようにして体を支えた一葉が、そのまま魔法を叩きこむ。


「ぐふっ!」

 詰まっていた呼吸を吐き出して、男子Dは体勢を立て直した。

 その時にはもう、靴も制服も、鞄も灰となっていた。


「心霊系っぽいから予想はしたけど! なに? このえげつなさ!」

 思春期真っただ中の自分たちを惑わすことに特化したとしか思えない攻撃に、一葉が焦りの色を見せていた。


「だか、本体そのものは大したことなさそうだ」

 リーダーが強く頷いた。


「これなら、戦える!」

 制服や鞄、靴などが出て来たが脅威ではない。

 一葉がいればほぼ無効にできる。できている。

 誰もが「サブマスは組しやすい」と思い込み始めていた。


 今が最後の好機!

 準備の間を与えず、押し切るが吉!


 進行速度が上がった。

 速度が上がった分、隊列が伸びていく。


 ◇


「先頭、早すぎ!」

 最後尾についたA隊長が憤然と声を上げた。


 そこが限界点。

 彼女は遅すぎた。


 通常なら、もっと早くに声を上げ、指摘していたはずだ。

 それを限界まで我慢した。

 我慢させた環境が取り返しのつかない破滅を呼ぶ。


 ◇


 風が吹き、雷が走る。

 人は逃げ惑う。

 天狗降臨。

 最上位討伐者たちは、残念なことに登場シーンを見逃した。


 彼らが見ることのできたものは、横薙ぎに吹く風と雷だった。

 風が動きを止めさせ、雷が隙間を埋める。

 隊列が千切れた。


「ま、前へ!」

 一葉が叫んだ。


「ま、待て!」

 リーダーが焦る。


 ダンジョン内で一番やってはならないこと。

 パーティの分断が起こる!


 止めようとするが、雷の音が掻き消した。

 一葉と、その近くにいて声が届いた者たちは前へと進んでいく。


「クソっ!」

 一瞬、振り返ったものの、リーダーもその背を追った。

 サブリーダーなら、皆を留まらせた!

 そう思いながら・・・。


 先頭が前進を選んだとき、中央部は割れていた。

 こちらも風が吹き荒れている。

 『二つの』風の渦が人々を追い散らした。


 そして最後尾では泥に足を取られ、水で流される。

 水を掻き分けようとした動きは『何か』に邪魔された。


「体が思うように動かない・・・まさか、デバフなの?!」

 状態異常かステータス減少の魔法が掛けられている?

 何となく覚えがあるような気がする感覚で、そう察したA小隊長だったが手の打ちようはなかった。

 成す術なく流れて行った。


 彼ら、彼女らは皆、数人単位で分断されたのである。

 リーダーが恐れていたように。


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