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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第66話 主力の到達 ~ようこそ、三途の川中学校へ~

2/2

 


 苦闘しつつも、主力が64階層へと戻ってきた。

 昨日よりも装備の損耗が激しいようだ。

 なにより、人数が減っている。


「すごい」

 誰かが呟いた。


 昨日来たときには『山の中の開けた空間』。

 そんな雰囲気だったが、今や無機質な灰色の空間があるだけとなっている。


 しかも、その空間がはっきりと歪んでいた。

 床にはクレーターができている。


 四方の壁、天井も同じように窪んでいるようだ。

 カルマを消し飛ばした爆発によって、えぐられた跡であることは明らかだった。


 ダンジョンの内部構造が変わるほどの爆発。

 威力の大きさがうかがえた。


「ははは、こいつはすげぇや。これほどかよ」

「木っ端微塵だぜ。助かりようがねぇ! アイツも『ダンジョンマスター』もな!」

 ここに来るまで、もしやカルマの自爆はダメージを与えていないのではないかと考えもしたが、そうではなかったとテンションが上がっていく。

 『ダンジョンマスター』は確実に仕留めてあるのだと。


 それでも警戒はしつつ進む姿に、『今日』の苦闘ぶりが垣間見えた。

 辺りに目を走らせながら進む彼らの目に、ついに『ソレ』が映る。


「ドロップアイテムよ!」

 溶けたコンクリートのような床、すり鉢状のクレーター。


 その中心に。

『ダンジョンマスター』の威容を残す『甲虫の角』。

 これを指さして、一葉が声を上げる。


「待て!」

 急いで回収しようとする仲間を止め、一人の男が前へ出た。


「『鑑定』」

 確実に見定めようと、スキルが使われた。


「間違いねぇ。ダンジョンマスターの討伐アイテムだ!」

「うぉぉぉぉ」

「やったぁぁぁ」

 歓声が上がった。

 世界初の快挙達成の瞬間である。


 あとは、あれを持ち帰るだけで英雄になれるのだ。

 我先にと雪崩を打って突進していく。


「ぎゃあ!」

 先頭を走っていた戦士が仰け反った。

 地中から土の槍が突き出して、腹を貫通している。


「な! まだ敵がいるのか?!」

 慌てて足を止め、戦闘態勢をとる。

 その瞬間――空気が変わった。


 静かすぎる。

 音が消えたような感覚。

 誰かが、息を呑んだ。


「・・・いる」

 一葉が呟いた。


 クレーターの縁に、影が立っていた。

 人間のような輪郭。


 だが、なにかが異様だった。

 歪んだ制服のような布をまとい、顔は・・・仮面だった。

 白く、無表情で、目の部分だけが黒く塗り潰されている。


 その仮面の人影が、ドロップアイテムを抱え上げた。

 舞台役者のような芝居がかった礼をして、身を翻す。

 奥へと消えていった。


「人間みたいだったわ」

 女子が青褪めて呟く。


 しかも胸元の赤いリボン。

 自分たちと同じ制服に見えた。

 しかも女性。


 仕草や動きに既視感はある。

 だけど、確定するにはおぼろげに過ぎた。

 ただただ、自分と同じ制服——かもしれない——ことに不安が募る。


「な、なんだ? あれ?!」

 呆然と立ち尽くす主力たち。


「『サブマスター』だとさ」

 静かに告げたのは『鑑定』を使う男だ。


「サブマスだ?! んなもんいたのか!?」

「だから、モンスターもおかしくなっていたのね?」

「支配者が変わったからってことか?!」

 属性変更など、謎だったことを説明可能な話だ。

 そういうことだったのかと騒ぎだす。


 間違いなのだが、彼らには知りようもない。


「ここは一度引くべきじゃない?」

 それでも冷静な者はいる。

 仕切り直そうと提案がされた。


「ダメだ。このまま進む!」

 リーダーはそれを却下した。


「なんでよ?!」

「昨日までは犠牲0だった。今日はどうだ? 明日、もう一度ここに来るのに何人死なせるつもりだ?」

「そ、それは、でも!」

「見たところサブマスは強さってより頭がいいタイプだ。時間をやればやるほど新しい罠を用意して待ち構えられる。今、追いかければ、ワンチャンある! どっちを選ぶかって話だ」

 ここで引けば最悪、何もかもが水の泡。

『ダンジョンマスター』を討伐はしたが、討伐部位の持ち帰りは失敗したという報告をするだけになる。


 全校あげての大掛かりなレイドまでやって、犠牲も出してだ。

 ここは、多少のリスクを押してでも、追跡して、これっきりのチャンスにかけるべき!

 それがリーダーの判断。


「・・・わかった。だけど、私は命をかけてまで名誉って女じゃないの。危険だと思ったら逃げるわよ?」

「好きにしろ」

 主力は再び前進を開始した。




「チッ! 増えてやがる」

 サブマスを追った先、下へと降りる通路があった。

 65階層へと続くものだろうことは疑いない。


「どうせ数階だろ! 追い詰めんぞ!」

 終わりは見えている。

 見えているはずだ!

 通路を駆け下りた。


 ◇


「な、なによ? これ?」

 通路を抜けると、そこは・・・。


「校門?」

 学校の入り口と思しき場所だった。


 これまで通りの土の通路から『広間』に出る。

 その広間には奥へ繋がる通路があるのだが、左右に石柱が立っていて・・・。

『三□川中学校』と記されていた。


「三川中学校?」

「よく見なさい! 『三』と『川』の間に隙間があって・・・薄れててよく見えないけど。たぶん・・・『ず?』があるわ」

「・・・なら、『みかわ』ではなく『さんずがわ』中学校、か?」

「・・・それ、まさか。『三途の川』なんじゃ?」

「・・・・・・」

「と、とにかく進むぞ!」

 校門を抜けて、通路を進む。


 再び開けた場所に出た。

 そこは・・・。


「昇降口?」

 靴箱がずらりと並んでいる様は、まさに学校の昇降口だ。


「写真で見たことあるわね。古臭い木造校舎だわ、コレ」

「ああ。廃校なら見たことある。今はレストランになっていたな。確かに雰囲気は似てる」

「田舎臭くてきらーい」

「コンクリートってのも味気ないと思うけど」

 口々にそんなことを言いつつも、ゆっくりと踏み込んでいく。


 木の廊下が続いていた。

 歩くたび、ギシギシと軋む音が、妙にリアルだ。


「この雰囲気って、アレに似てない?」

「アレってなによ?」

「お化け屋敷『学校の怪談』」

 あー、確かに。

 全員が頷く。


「管理者がサブマスになって、『属性』が変わったんじゃねぇか?」

「それだ!」

 納得して、探索が始まった。



 昭和初期かと言いたくなるような。

 モノクロの写真でしか知らない校舎の中を、本隊の残りは24人が歩いていく。


 人のいる気配がない木造の校舎。

 いたるところに『学園祭』の準備でもしているのかという飾り付けがされていた。


 昇降口に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 古びた木の匂い。

 湿気を含んだ埃の香りが、鼻の奥をくすぐる。

 床は艶のない板張りで、踏むたびにギシギシと軋む音が響く。


 左右の壁には、年季の入った下駄箱がずらりと並んでいた。

 木製の扉はところどころ歪み、塗装は剥げ、角が丸くなっている。

 誰かが落書きしたような跡もあるが、文字はすでに読めない。


 天井は低く、梁がむき出しになっている。

 その梁には、古い釘や紙片が残っていて、かつて何かが掲げられていたことを思わせる。


 窓は曇りガラス。

 外の光がぼんやりと差し込むだけで、空間全体が灰色に沈んでいる。


 傘立てには、誰のものとも知れない傘が数本、無造作に突っ込まれていた。

 靴箱には、サイズも形もバラバラな靴が並んでいる。

 まるで、誰かが今もここに通っているかのように。


 だが、気配はない。

 静かすぎる。

 音が吸い込まれていくような、異様な静寂が支配していた。


「逆に、キモチワルイ!」

「ただでさえ、木造ってコワいのに!」

 女子からブーイングが飛んでいた。



 舞台は昇降口。

 お出迎えするのは傘と靴。

 ありふれた、でも見慣れないものが襲い掛かる。


 その時、靴箱の奥で、一足の靴が、ゆっくりと向きを変えた。

 まるで、誰かが履こうとしているかのように。



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