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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第64話 疑惑、そして分断へ①

2/2

 


「・・・帰還、だと?」

 レイドリーダーは、報告を受けた瞬間、言葉を失った。


 先駆けB班。

 先行しているはずの班が、何の前触れもなく戻ってきた。

 しかも、掲示板で噂されていた『目的物独占』の疑惑を否定するために。


「おかしい・・・」

 一葉が隣で呟いた。

 その声は震えていた。


 驚きではない。

 恐れでもない。

 疑念だった。


「彼らが本当に濡れ衣を晴らすためだけに戻ってきたなら、もっと早く動いてるはずよ」

「それに、女小隊長Aと連絡を取ってたのも気になる」

 一葉も、リーダーの声も低く、硬い。


「変よね。A隊長がB班の動きを個人チャットで把握してたなんて」

 沈黙が落ちる。

 二人の間に、言葉よりも濃い空気が流れた。


「・・・裏で何かが動いてる」

 リーダーの言葉に、一葉は目を細めた。


「B班が仕掛けたのか、それともA隊長が操ってるのか。もともとの疑惑の通りA班が健在なのか。どちらにしても、私たちが狙われてる可能性は高い」

「サブリーダーが消えた直後に、これだ。タイミングが良すぎる。いや、悪すぎる」

 一葉は、スマホを握りしめた。

 画面には、B班の帰還報告と、A隊長への『警告』が並んでいた。

 それぞれが別の発信者からのものだ。


 つい数時間前まで、チャットに動きはなかった。

 全員が戦場にいるようなものだからだ。

 浮ついた噂話が飛び交うことなどなかった。


 それが、今や饒舌だった。

 まるで、誰かが意図的に情報を操作しているように。


「信じられるのは、もう・・・」

 リーダーは言葉を濁した。

 一葉は、静かに答えた。


「自分の目だけよ」


 その瞬間、二人の間にあった信頼に、うっすらと線が引かれた。

 濁った水底に沈む真実は、まだ誰の目にも映らない。

 でも、波は確実に立ち始めていた。


 ◇


「・・・少し、いいかしら?」

 女小隊長Aが振り返ると、そこに一葉が立っていた。


 表情は穏やか。

 声も柔らか。

 でも、その瞳だけが、氷のように冷たかった。


「先駆けB班と、連絡を取っていたそうね」

 一葉の言葉は、まるで水滴が静かに落ちるような響きだった。

 だが、その一滴が、確実に波紋を広げていく。


「ええ、状況確認のためよ。レイドの進行に関わることだから」

 A隊長は平然と答える。

 だが、一葉は一歩、距離を詰めた。


「状況確認、ね。じゃあ、なぜ私に報告しなかったの? 私は幹部じゃないとでも? それとも、私が『関係者』だから?」

 A隊長の眉がわずかに動いた。

 一葉は見逃さなかった。


「あなたがB班と連絡を取っていたこと、リーダーには伝えたわ。それに、あなたが私の動きを『警告』として他の隊に流していたことも」

 空気が重くなる。

 周囲の視線が、少しずつ集まり始める。


「何が目的だったの? 私を排除するため? それとも、あなた自身の立場を守るため?」

 A隊長は口を開きかけたが、一葉が先に続ける。


「私は、あなたを敵だとは思っていなかった。でも、あなたは私を『危険因子』と見なした。その判断、何を根拠にしたの?」

 言葉は静か。

 でも、逃げ場のない圧力が、じわじわと迫ってくる。


「あなたの動きが早すぎるのよ。誰だって警戒する」

 一葉の動きが、いちいち的確なことを指摘した。

 まるで、『すべてをわかっていて、役を演じているようだ』と。

 シナリオ通りの動きだと。


「警戒? それって、確かな根拠があるの? それとも、ただの憶測や願望? 期待にすぎないんじゃない?」

「・・・誤解よ。私はただ、隊の安全を——」

「安全のために、裏で情報を操作するの? 安全のために、私を孤立させるの?」

 一葉の声が、少しだけ鋭くなった。

 それでも、感情は見せない。

 冷静に、執拗に、問いを重ねる。


「あなたが信じていたのは、誰? B班? それとも、サブリーダー? そして今、私を信じる理由はある?」

 A隊長は、言葉を失っていた。

 一葉は、最後に一歩だけ近づいた。


「私は、敵じゃない。でも、敵にされたなら――それなりの対応をするわ」

 その言葉は、宣言だった。


 静かな水面に落ちた一滴が、やがて濁流になる予兆。


 一葉は、背を向けて歩き出した。

 残されたA隊長の胸に、冷たい波が打ち寄せていた。


 ◇


「・・・誰も、信用できない」

 一人になった瞬間、女小隊長Aは小さく呟いた。


 その声は誰にも届かない。

 でも、自分の中では確かな響きを持っていた。


 リーダー。

 あれほど冷静で、公平だったはずの人。

 でも今は、一葉の肩を持っている。

 サブリーダーが消えた途端、態度が変わった。

 まるで、最初から一葉を守るつもりだったかのように。


「本当に、彼は中立だったの?」


 サブリーダー。

 強引で、感情的で、でも確かに隊を引っ張っていた。

 その彼女が、突然姿を消した。

 そして、裏で誰かと会っていたという噂まである。


「何を隠していたの?」


 そして、一葉。

 冷静で、理性的で、でもあまりにも『動きが早すぎる』。

 情報の流れを把握し、先手を打ち、告げ口までしてくる。

 まるで、すべてを見通しているかのように。


「彼女が、ただの立ち位置が曖昧過ぎる」

 疑念が、胸の奥で渦を巻く。


 誰が本当のことを言っているのか。

 誰が、裏で何を企んでいるのか。


「私が、間違ってるの?」

 そう思いたくない。

 でも、信じていた人たちが、次々と『別の顔』を見せてくる。

 その顔が、本物なのか仮面なのか・・・もう、わからない。


「・・・なら、私も仮面をつけるしかない」

 女小隊長Aは、静かに端末を開いた。


 そして、いくつかの連絡を始める。

 表向きは進行確認。

 でも、その裏には・・・情報の網が張られていた。


 信じられないなら、確かめるしかない。

 誰が敵で、誰が味方か。

 その答えを見つけるために、彼女は動き出す。


 ◇


「あなた、何を隠してるの?」

 女小隊長Aの声が、静かに響いた。

 だがその静けさは、嵐の前の静けさだった。


「隠してる? それはあなたの方じゃないの?」

 一葉は、眉ひとつ動かさずに応じる。


「私は、隊のために動いてる」

「私もよ」

「じゃあ、なぜ私の足をすくおうとしているの?」

 言葉がぶつかる。

 どちらも冷静を装いながら、内側では激流が渦巻いていた。


「B班と連絡を取っていたのは事実。でも、それを『裏切り』と決めつけるのは早計じゃない?」

「じゃあ、なぜ私を警戒するようなメッセージを流したの?」

「あなたの動きが不自然だったからよ」

「不自然に見せられていたとしたら?」


 沈黙。

 一瞬の間に、空気が張り詰める。

 そこに、リーダーが割って入った。


「やめろ。今は争っている場合じゃない」

 だが、その言葉に女小隊長Aが噛みつく。


「あなたが一葉を特別扱いしているから、こうなってるの! 場を収めたいだけなのなら引っ込んでいてちょうだい!」

「特別扱いなんてしていない」

「じゃあ、なぜ彼女の告白を信じて、私の報告を疑うの?」

 リーダーの顔が曇る。

 その隙を、一葉が補うべく反撃に移る。


「私の言葉に証拠があったからよ。あなたの言葉には、ただの『警告』しかなかった」

「証拠? あなたの『涙』が証拠になるの?」

「じゃあ、あなたの『警戒心』は何の証拠になるの?」

 言葉が鋭く交差する。

 まるで刃のように、互いの信頼を切り裂いていく。


「もうやめろ!」

 リーダーの怒声が響いた。

 だが、誰も止まらない。

 疑念はすでに、言葉では止められないほど膨れ上がっていた。


「誰かが仕組んでるのよ」

「じゃあ、それは誰?」

「・・・あなたじゃないの?」


 その瞬間、空気が凍りついた。



 疑念が、ついに『敵意』へと変わった。



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