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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第63話 揺れる隊列(女小隊長A視点)

1/2

 


「サブリーダー、どうしたんですか? さっきまで普通だったのに」


「連絡も取れないんですけど・・・まさか、何かあったんですか?」


 レイドメンバーたちの声が、次々と飛び交う。

 不安と疑念が混ざった空気が、じわじわと広がっていく。


 リーダーは、静かに息を吐いた。

 そして、表情を崩さずに答えた。


「体調不良だ。少し前から無理してたみたいでな。今は休養を取らせてる。連絡は控えてくれ」


 一瞬、沈黙が落ちた。

 誰もが納得しきれない顔をしていた。

 でも、リーダーの言葉には揺るぎがなかった。


「えっ・・・でも、そんな急に?」

「急に倒れることもある。レイドの準備で負担も大きかったからな。ポーションを乱用していたようだ。度を超すと効かなくなる、今は、そんな状態なんだ。回復を優先するべきだ」

 その言葉に、メンバーたちはしぶしぶ頷いた。

 誰もが疑問を抱えながらも、リーダーの言葉に逆らうことはできなかった。


 リーダーは、内心で苦い思いを噛みしめていた。

 本当の理由は言えない。

 言えば、チームが崩れる。

 だから、守るしかなかった。


 秩序を。

 信頼を。

 そして、一葉を。




「体調不良、ね・・・」

 女小隊長Aは、誰にも聞こえないように呟いた。


 サブリーダーが突然姿を消した。

 リーダーは冷静に「休養中」と言った。

 でも、何かが違う。

 空気が、異様に張り詰めている。


 そして、彼女の端末には一通の個人チャットが届いていた。

 送信者は・・・サブリーダー。


『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。あなたの隊にも影響が出るかもしれない。これは警告よ。』


 その文面を見た瞬間、女小隊長Aの中で何かが繋がった。

 最近噂されている『先駆けA班』による目的物独占疑惑。

 その動きと、サブリーダーの失踪。

 そして、一葉の涙と接近。


「内輪もめ、か・・・」

 彼女は、あえて何人かのメンバーにそれとなく話を振った。


「先駆けA班の全滅って本当かしら?」


「サブリーダーが抜けたのって、もしかして内部の争いだったりして」


 言葉は曖昧に。

 でも、種は確実に撒かれていく。

 疑念は、静かに浸透していく。



 女小隊長Aは、冷静だった。

 感情ではなく、秩序のために動いているつもりだった。

 でも、その目には一葉への警戒が、確かに宿っていた。



「先駆けB班、今どこまで進んでる?」

 女小隊長Aは、端末越しに連絡を取った。


 表向きは進行状況の確認。

 でも、本当の目的は・・・情報の裏取り。


「A班が実は健在って噂。どう思う?」

 全滅したかもしれない。

 その情報を送ってきたのは『先駆けB班』リーダーの彼女だったはずだが。


 B班の隊長は、少し沈黙してから答えた。


「・・・妙な点は多いわ。一番おかしいのはスマホの通信状況よ。全滅しているなら『通信不能』になるはず。なのに、既読にはならないものの受信はしてるっぽい。ひとつ残らずね」

「ダンジョンのどこかに放置されているスマホが壊されもせず存在しているわけね。全部」

「そういうこと」

 その言葉に、女小隊長Aの胸がざわついた。

 サブリーダーからの警告が、脳裏に浮かぶ。


『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。』

 もしも、リーダーよりも前から『A班』と通じていたら?


 その時だった。

 端末に新たな通知が届いた。


 受けたのはB班との連絡に立ち会ってくれた小隊長B。

 そっと画面を見せてくれた。

 送信者は・・・一葉。


『女小隊長Aが、B班と裏で連絡を取ってます。何か探ってるみたいです。各自、気を付けて』


 その文面に、女小隊長Aは目を細めた。

 一葉が、こちらの動きに気づいている。

 そして、幹部たちに、リーダーに、告げ口をしている。


「・・・いきなりサブリーダー気取りね」

 幹部たちの連絡用チャット。

 本来、一葉には権限がない


 サブリーダーの警告が、急に現実味を帯びてきた。

 罪を隠す者は、情報の流れに敏感だ。

 そして、疑念を潰すために先手を打つ。


 女小隊長Aは、静かに端末を閉じた。

 疑念は、もう『可能性』ではない。

『兆し』になっていた。


 女小隊長Aは端末を閉じたあと、静かに別のルートを開いた。

 それは、隊列の秩序を守るための、最初の『監視』だった。


 ◇ 



 通路の奥から、足音が響いた。

 それは規則的で、迷いのない音。

 先駆けB班が、突然の帰還を果たしたのだ。


「えっ、B班? 先行しているはずじゃ・・・」

 誰かが呟く。

 その声には驚きと、わずかな警戒が混ざっていた。


 彼らの姿は、傷だらけだった。

 装備は泥にまみれ、顔には疲労の色が濃い。

 でも、その目は鋭く、何かを訴えていた。


「誤解を解きに来た」

 班長が静かに言った。

 その声は、怒りではなく、確信に満ちていた。


 掲示板では、A班が目的物を独占しているという噂が広がっていた。

 だが、それはB班の報告が間違いだと言うのも同然だった。


 個人チャットにも、匿名の警告が届いていた。

「A班に関連して、何かが裏で動いている」と。

 それがB班ではないかとの声が上がっていたのだ。



「我々が黙っていたら、真実が歪められる」

 班長の言葉に、周囲がざわつく。


 B班は、抗議のために帰還した。

 目的はただ一つ、『自分たちが暗躍している』という濡れ衣を晴らすこと。


 すでに各掲示板、個人チャットでは存在しないA班を隠れ蓑に、B班が独自に動いているとの噂が支配的になっていた。

 理由として、どこの隊よりも『目的物』に近いことが挙げられている。

 今回の探索は、昨日倒せたはずの『ダンジョンマスター』が落としたであろうドロップアイテムの回収、それだけだ。


『ダンジョンマスター』はいない。

 ドロップアイテムはまさに落ちているだけ。

 B班でも、取りに行けると言われれば否定は難しいのだ。


 これを否定する唯一の方法。

 それが、この『機関』だった。


 誰よりも『目的物に近い』ことが疑念になるのなら。

 戻ればいい。

 本隊に任せてしまえば疑惑は払拭される

 それが、先駆けB班リーダーの考えだった。


 レイドの計画そのものを無視するような大きな決断だったが、チャット内での論争と誹謗は、そうせざるを得ないほど熱く燃え上がっていた。

 疑心暗鬼という闇から逃れるにはやむを得ない決断だった。


 この決断に至らせたチャットと掲示板内の会話ログ。

 その全てが、カルマの編集室で作られたものだとは知る由もなかったのだ


 だが、その行動がまた新たな波紋を生む。

 誰が本当に裏で糸を引いているのか。

 A班か、B班か、それとも・・・もっと深い闇に潜む者か。


 人心は揺れる。

 信頼は崩れかけている。

 そして、真実はまだ、闇の中。



 もともと『真実』などないという『事実』には、誰も気付けない。



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