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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第62話 崩壊する関係

2/2


 


「なんであなたが彼と二人きりなの!」


 怒声が空気を裂いた。

 振り返ると、サブリーダーが立っていた。

 肩を震わせ、目を見開いて、怒りに満ちた顔。

 その視線は一葉に向けられていた。


「答えなさいよ! 一体どういうつもりなの!」

 一葉は、ほんの少しだけ首を傾けて微笑んだ。

 その笑顔は、挑発でも反抗でもない。

 ただ、冷静だった。


「彼が一人だったから、声をかけただけよ。それとも、誰かと話すのにあなたの許可がいるの?」

 その言葉に、サブリーダーの顔がさらに紅潮する。

 怒りが膨れ上がり、言葉が追いつかない。

 リーダーは、ただ黙って二人を見ていた。


 サブリーダーの怒りは、正当なもののはずだった。

 でも、今の彼女は――感情に飲まれていた。

 そして、脳裏にはあの映像がよぎる。


 密会。

 笑顔。

 触れ合い。


「・・・落ち着けよ」

 リーダーの声は低く、静かだった。

 サブリーダーが驚いたようにこちらを見る。

 その目には、怒りと戸惑いが混ざっていた。


「あなた、私の味方じゃないの?」

 問いかけに、すぐには答えられなかった。

 一葉は、何も言わずにリーダーの横に立った。

 その距離が、妙に自然だった。


 サブリーダーの声は震えていた。

「まさか・・・この子の肩を持つの?」


 リーダーは、答えなかった。

 ただ、一葉の冷静さと、サブリーダーの激情を見比べていた。

 そして、心の中で、何かが静かに傾いていくのを感じていた。


 信頼とは何か。

 絆とは何か。

 そして、今、誰を信じるべきなのか。


 その答えは、まだ出ていなかった。

 でも、天秤は――確かに、一葉の方へと傾き始めていた。




 サブリーダーは、震える手でスマホを取り出した。

 怒りに任せた動きではない。

 その目は、今度こそ冷静だった。


「あなたが、どんな顔で彼に甘えていたっていいわ。でも――これは、どう説明するの?」

 画面に映っていたのは、一葉だった。

 制服姿で、誰かに小瓶を手渡している。

 そのラベルには、見慣れた文字があった。


『エリクサー』


 空気が変わった。

 さっきまでの口論が、急に重くなる。

 一葉は、画面をちらりと見ただけで、すぐに視線を戻した。


「それ、どこから手に入れたの?」

 声は落ち着いていた。

 でも、その瞳の奥に、わずかな焦りが見えた。

 リーダーは、言葉を失っていた。


「横流しの証拠よ。あなたが何をしていたか、これで全部わかる」

 サブリーダーの声は、静かに刺さるようだった。

 怒りではなく、確信。

 そして、勝利の予感。


 一葉は、ほんの少しだけ笑った。


「それがどうしたの? 私が何か違法なことをしたっていう証拠にはならないわ。ただの物の受け渡しよ。それに、あなたがこれを持ってるってことは――誰かがあなたに渡したってことよね?」

 その言葉に、サブリーダーの眉がぴくりと動いた。

 リーダーは、二人のやり取りを見つめながら、心の中で何かが崩れていくのを感じていた。


 信じていた人が、嘘をついていた。

 でも、もう一人も、何かを隠している。

 この場にいる誰もが、完全に信用できない。


 それでも――  一葉の冷静さと、サブリーダーの執着の差が、天秤をさらに傾けていく。


「・・・一葉、話がしたい。二人きりで」

 その言葉に、サブリーダーが目を見開いた。

 一葉は、静かに頷いた。

 そして、サブリーダーの視線は、痛みと怒りで濁っていった。


 一葉は、スマホを取り出して画面を見せた。

 そこには、先ほどサブリーダーが見せたものと同じ動画が映っていた。

 制服姿の自分が、小瓶を手渡す瞬間。


「これ、私のところにも送られてきたの。匿名で、『気をつけて』って一言だけ添えられて」

 リーダーは眉をひそめた。

 一葉は、静かに続ける。


「きっと、サブリーダーが裏で動いた結果よ。誰かと結託して、私を排除しようとしてる。   そう考えるのが自然じゃない?」

 その言葉に、リーダーの胸がざわついた。

『結託』――その響きが、記憶の奥に沈んでいた映像を引き上げる。


 密会動画。

 サブリーダーが、顔の見えない男と接触していたあの映像。


 甘い距離。

 笑顔。

 そして、何かを手渡していたような仕草。


 あれは、ただの裏切りじゃなかったのかもしれない。

『協力者』だったのかもしれない。


「・・・まさか」

 リーダーは、思わず呟いた。

 一葉がこちらを見つめる。


 その瞳は、揺れていない。

 むしろ、確信に満ちていた。


「私を落とすために、誰かが誰かと手を組んだ。それが、あなたの恋人だったとしたら――どうする?」

 問いかけは、静かに刺さる。

 リーダーは答えられなかった。

 心の中で、天秤がさらに傾いていくのを感じていた。


 信じていたものが、崩れていく。

 そして、崩れた先に立っていたのは――一葉だった。




 一葉は、静かに息を吸った。

 そして、震える声で語り始めた。


「・・・私、横流ししてたのは事実よ。でも、それは・・・どうしても、どうしても必要だったの」

 リーダーは黙って耳を傾けていた。

 一葉の目には、涙が滲んでいた。

 それでも、彼女は言葉を止めなかった。


「親の借金が、もう限界だった。あと少しで完済できるってところまで来ていたの。だから・・・一瓶でも、横流しに回したかった」

 その言葉に、リーダーの胸が締め付けられる。

 一葉は、拳を握りしめて続ける。


「でも・・・そのせいで、必要だったはずの人にすら渡せなかった。命を救えるはずだったのに・・・私、渡さなかったの」

 涙が頬を伝い、制服の襟元に落ちる。

 その姿は、いつもの冷静な一葉ではなかった。

 罪を背負い、後悔に沈む、ただの少女だった。


「私が殺したようなものなの。わかってる。でも、それでも・・・生きるためだったの」

 リーダーは、言葉を失っていた。


 サブリーダーの密会映像が脳裏にちらつく。

 あれは、誰かと結託して一葉を追い詰めるためのものだったのか。

 そして今、目の前で涙を流す彼女は――自分の罪を隠さず、語っている。


 どちらが本当の顔なのか。

 どちらが、信じるに値するのか。


 リーダーの心の天秤は、静かに、確かに――一葉の方へと傾いていった。




 一葉の涙が静かに落ちる中、背後で何かが軋んだ。

 振り返るまでもなく、そこにいたのはサブリーダーだった。


 壁の影に身を潜め、聞き耳を立てていたのだろう。

 その顔は、怒りと焦りに染まっていた。


「ふざけないで・・・!」

 叫びと同時に、サブリーダーが一葉に向かって駆け出す。

 その動きは、もはや冷静さを欠いていた。


 武器も証拠も、もう彼女には残っていない。

 残されたのは――実力行使という暴挙だけ。


「あなたなんかに、負けるはずがないのよ!」

 リーダーは咄嗟に一葉の前に立った。

 サブリーダーの手が宙を裂く。

 その勢いに、空気が震えた。


「やめろ!」

 声が響く。


 サブリーダーの動きが止まる。

 その目が、リーダーを見つめる。

 怒りと、悲しみと、そして――絶望。


「どうして・・・あなたまで、あの子の味方をするの?」

 問いかけは、震えていた。


 リーダーは、答えなかった。

 ただ、静かに一葉の肩に手を置いた。


 サブリーダーは、崩れるようにその場に膝をついた。

 彼女の目には、涙はなかった。

 あるのは、敗北の色だけ。


 確実に排除できると思っていた。

 でも、気づけば自分が排除される流れになっていた。

 そして、もう――武器は残っていなかった。


 リーダーは、口を開こうとした。

 何かを言わなければ。

 このままでは、彼女が壊れてしまう。

 そう思った瞬間――サブリーダーが立ち上がった。


 その動きは、ゆっくりだった。

 でも、確実だった。

 そして、彼女の目が一葉を捉える。


 その瞳には、涙も怒りもなかった。

 ただ、冷たい光だけが宿っていた。


「絶対許さない。・・・殺してやる」


 声は、静かだった。

 叫びでも、怒鳴りでもない。

 まるで、天気の報告でもするかのような口調だった。


 一葉は、微動だにしなかった。

 リーダーも、言葉を失っていた。

 その場の空気が、一瞬で凍りついた。


 サブリーダーは、誰にも触れず、誰にも振り返らず、ただその場を去っていった。

 足音だけが、静かに響いていた。


 残されたのは、一葉の涙と、リーダーの沈黙。

 そして、空気の中に残る――宣告の余韻。


 ◇


「意外だったな。ここに来るのは一葉の予定だった」

 意外と言いながら、笑うような響きが宿っている。


 サブリーダーは、あの部屋にいた。

 本隊とはもう行動を共にできない。

 身を寄せられるのはここだけだった。


「一葉狙い、だったの?」

 驚いた様子もなく迎えた男に、問う。


「どうかな? 少なくとも、今回の一手で排除されるのは一葉だと思っていたってこと」

「そう」

 だとしたら、こいつを責めるのはお門違いだ。

 一葉を貶めるのに手を貸してくれていたのは、本当なのだろうから。


「一葉をどうしたかったの?」

「とりあえず、八つ裂きかな?」

「!? ・・・そう。なら、それは私にやらせてちょうだい。チャンスを作ってくれれば、私がっ・・・」

 殺す!

 触れられそうな殺気がほとばしった。


「わかった。一葉を殺す役は君にあげるよ」

 ・・・契約が、成立した。



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