表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/357

第61話 告発されそうな女

1/2



「は? なにこれ?」

 一葉はスマホ画面を食い入るように見つめて、動きを止めていた。


 半月前の自分が映っている動画だった。

 発信者は友達登録をしてはいるが、直に話した記憶のない人物。


 添えられたメッセージには「こんなのが流れているよ」とある。

 発信者は他にいるってことになる。


 いや、それはブラフかも?

 でも、他の者がいると見せかける意味は?

 自分が主体だと言って脅してくるのならわかるが、そうでないと思わせるメリットってある?


 ・・・・・・。

 違う!

 そこじゃない!


 混乱しそうになるが踏みとどまる。

 重要なことは、この映像が特定か不特定かは別にして出回っているということだ。


「あと少しで完済できるのに!」

 一葉が『エリクサー』を横流しに同意し、協力しているのは親の負債があるからだった。


 あまりに多額のため、『探索者』と言えど、まともな方法では返せない。

 返せないなら・・・と一葉に結婚の話が来てすらいる。


 両親の元パーティメンバー、母を守ろうとして深手を負い助からなかった女性の婚約者。

 それが債権者なのだ。

 婚約者の死亡に対する損害やらなにやらの負債を、娘の一葉を差し出すならなかったことにしてやる。

 などと言っているらしい。


 あくまでも「そうなれば」親子だ。

 金の貸し借りで揉めることはなくなる。

 そういう言い方だが、意味は同じだ。


 両親は乗り気のようだった。

 このままではマズい。


 そう思って、手っ取り早く稼ぐ方法を担任に相談。

 出てきた提案が『エリクサー』の横流しである。


 他校の知り合いに話をつけてやると言われて同意した。

 以来、共犯関係を続けている。


 要求がどんどんエスカレートしてきていて、そろそろ何とかしたいと思い始めてはいたところだった。

 ただ、あと少しで貯め込んだお金が、負債全額を上回る目標額に届く。

 それまでの我慢と、次が最後の取引と決め、話をつけていた。


 レイドの成功もある。

 そうなれば世間の目も集まるだろう。

 リスクは避けようということで見解も一致していた。


 平和的に解決するはずだったのだ。

 なんで、最後の最後でこんなことに?


 言いしれぬ焦燥に喘ぐ一葉に、別のメッセージが届く。


 匿名性のある掲示板で、カルマに『エリクサー』を使わせなかったのはなぜか?

 そんな話が話題になっているというものだった。


「だから、なのね?!」

 今、このタイミングで『エリクサー』の横流しの件を告発する内容が出回っている理由のことだ。


 話題になっているから、『今だ』ってことなのだろう。

 目的は?


「どう考えても私を排除しようって動きだわ」

 金が目的なら、広める前に脅しに来てる。

 少なくとも、取引を持ち掛けてきてないとおかしい。


 それが無いのは、脅迫する必要が無いからだ。

 金が目的ではないから。

 一葉を追い込めれば、それで目的を果たせるから。

 つまり・・・。


「敵はあの女狐ね」

 幼馴染の横で笑う、女の顔が浮かんだ。


 一葉を追い詰めて得する人間がいるとしたら、アレしかいない。

 昔から、幼馴染のことで絡まれてきた。

 嫌がらせをされてきた。

 めでたく婚約の言質をとったとかで、この頃は大人しくしていたのに。


「ああ、レイドで注目されるから不安になったのね」

 一葉はサブリーダーの心情を正確に看破した。


「消えてもらうしかないのかしら?」

 これまで何度も考えたことがある。

 その度にさすがに人殺しは・・・と思いとどまってきたが。


「今が、ひょっとすると最後のチャンス?」

 世界初の快挙を成そうとしているレイドの最中だ。

 死人くらいは出る。

 すでに出ている。

 そこにもう一人加わったところで、誰が気にする?


「私は一人、すでに殺している」

 匿名掲示板での話はある意味で正しい。

 気付いたが、言わなかった。

 手持ちの一瓶を投げ渡すだけのことをしなかったのだ。

 確実に死ぬとわかった上で。


「そうよ。一人も二人も変わりゃしない。『エリクサー』一瓶で人の命は左右できる。その程度のものなんだし!」

 一葉にとって『エリクサー』は貴重でも高価でもない。

 材料さえあればいくらでも作れるものだ。

 それでどうにかできる命の値段も下がる。


「そのためには・・・」

 あの女が消えて、一番騒ぐだろう幼馴染の顔が浮かんだ。

 今や、全校生を統率するレイドリーダーの顔だ。


 ヘタに睨まれたら厄介なことになるに決まっている。

 どうしたものか。


「仕方ない。女狐の真似なんてしたくないけど、色仕掛け使いますか」

 一葉はリーダーの元へと歩き始めた。


 ◇崩れゆく絆(リーダー視点)◇


 通知音が鳴った。

 レイド準備の連絡かと思い、何気なく開いた。


 そこに映っていたのは、サブリーダーだった。

 俺の恋人。

 俺の信頼。

 俺の、すべてだった。


 けれど、その映像の中で彼女は、知らない男と密会していた。

 顔は見えない。

 でも、距離が近すぎる。

 声は聞こえない。

 でも、空気が甘すぎる。


「・・・なんだ、これ」


 言葉が喉に引っかかる。

 怒りか?

 悲しみか?

 いや、まだ感情が追いついてこない。


 ただ、心臓が痛い。

 胸が、締め付けられる。


 映像は短い。

 でも、十分だった。

 彼女の笑顔。

 彼女の仕草。

 俺に向けられていたはずのものが、そこにあった。


「嘘だろ・・・」


 誰が送ってきたのかもわからない。

 匿名のアカウント。

 ただ、「見ておいた方がいい」とだけ書かれていた。


 罠かもしれない。

 捏造かもしれない。

 でも、映っているのは確かに彼女だった。

 俺が知っている、彼女だった。


 怒りが湧く。

 裏切られたという感情が、胸を焼く。

 でも、それ以上に――悲しい。


 信じていた。

 信じたかった。

 信じていたからこそ、痛い。


「なんで・・・」


 問いは誰にも届かない。

 彼女にも、俺自身にも。


 ただ、思い出されるのはテントの裏で耳にした、彼女の『笑い声』。

 いつもとは違う、冷たくて残酷な笑い。

 それでいて、彼女の紛れもない本心からの笑いだとわかる。

 そんな笑い声だった。


「いや、それより・・・」

 もう一つの感情が顔を出す。


 恐怖。

 この映像が出回っているなら、レイドに影響が出る。

 チームが崩れる。

 俺たちが築いてきたものが、壊れる。


「・・・落ち着け。今は、冷静になれ」

 自分に言い聞かせる。


 でも、心は波打っている。

 荒れ狂う海のように。

 その中心に、彼女の笑顔が浮かんでいる。


 ◇


 スマホを握る手が震えていた。

 怒りでも悲しみでもない。

 ただ、どうしていいかわからない。

 そんな時だった。


「・・・リーダー?」


 振り返ると、一葉がいた。

 制服の襟を少し崩して、髪を揺らしながら近づいてくる。

 その目は、いつもより潤んで見えた。

 いや、そう見えるようにしているのかもしれない。


「私、今なら・・・あなたを男として見られるかも」


 囁きは甘く、柔らかく、耳に直接触れるようだった。

 その言葉が、心の奥に沈んでいた怒りを、ほんの少しだけ引き上げる。

 サブリーダーの映像が脳裏にちらつく。

 裏切り。

 密会。

 そして、今目の前にいる一葉の誘惑。


「・・・なんのつもりだ?」


 声が掠れる。

 問いかけたつもりだったが、感情が乗らない。

 彼女の手が、そっと腕に触れる。

 その仕草が、サブリーダーのそれと重なった。


「慰めてほしいのは、私の方かもしれないけど・・・」


 言葉の意味が曖昧で、境界が揺れる。

 リーダーは、自分の中で何かが崩れていくのを感じていた。


 信頼。

 絆。

 そして、——理性。


 このまま流されるのか。

 それとも、踏みとどまるのか。

 選択の時は、もうすぐそこに迫っていた。



 リーダーは、スマホを握りしめたまま、ある名前を検索しようとしていた。

 それは、自分の理性を試す、最初の問いだった。


 そして、問いは徒労で終わる。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ