第59話 泥濘の中で(サブリーダー視点)
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『城野敦』。生理的嫌悪が湧き上がる最低男だ。
虫唾が走るとはこういう気持ちを言うのだろう。
だけど・・・。
サブリーダーの心は軽やかにステップを踏んでいた。
一葉を、あの女を泥沼に沈めてあげられる。
そのためのネタを手に入れられる。
リーダーも文句はないだろう。
なぜなら、一葉自身が悪いと言い切れるものではないからだ。
もっと悪い奴がいる。
一葉は被害者でもあった。
そこに同情するそぶりを見せていれば反発はない。
理想的だ。
責め過ぎず、だけど許さず。
ジワジワ追い詰める。
濁らせ、曇らせ、輝きを奪う。
二度と浮かび上がれない、沼の泥底へ沈めてあげよう。
「あの女は、ヘドロまみれで生きるのがお似合いよ!」
狂喜するサブリーダーの手の中。
無限再生される動画がある。
一葉の造る『エリクサー』が、裏取引されている。
そのことを話している人物たちを捉えたものだ。
一葉本人が、一部教師に諭され、時に脅されて、従っている。
『エリクサー』の校内での流通相場を操作していた。
適正価格のおよそ10倍という高値を設定。
誰も買えなくしたうえで、他校へと売り捌く。
そんな企み。
そんな裏切り。
犯罪とは言えないだろう。
『ダンジョン内で手に入るアイテム』または『スキルが無いと作成できない物品』に『独占禁止法』も『消費者保護法』も関知しない。
取引の形態は、作成者の自由意思に委ねられている。
だから、犯罪にはならない。
でも、間違いようもなく酷い裏切り行為だ。
モノが、『命』を左右する『エリクサー』であることが、何より罪深い。
「ふふ、ふふふふっ・・・・・あはっ・・・・ひゃはははははっ!」
サブリーダーは毛布を顔に当てて笑い続けた。
テントの布一枚隔てた場所に、靴跡が付いたことにも気づかずに。
◇
サブリーダーは、すぐに動いた。
『デートOK』の返信。
ただし、できるだけ早く済ませてとの注文はつけている。
「デートはしてあげてもいいけど、キスまでね。それ以上はキャパいからムリ。雰囲気だけで満足させてさっさと帰ってくるわよ!」
鏡の前で気合を入れた。
服装はどうにもならない。
髪型とメイク、あとは仕草で何とか雰囲気を作らないと!
完璧じゃなくていい。『それっぽく』見えれば、男なんて勝手に夢を見る。
「相手はどうせ『初めての人』。ちょっと媚びた仕草してやれば、勝手に自爆するわよ」
自分の言葉に、鏡に映った自分が頷いてくれる。
うまくやれる気がした。
返信はすぐに来た。
まさに秒で。
後詰って暇なのかしら?
ふと、思ったがどうでも良すぎてすぐに思考から消えていた。
デートの場所は意外に近くだった。
遠くては困るからありがたいけれど。
あまり時間もない。
一時間くらい後には『最奥』へ向けて進むことになる。
そこからさらに二時間もすれば『最奥』だ。
早く『証拠』を手に入れたい。
通路を63階層へと戻る方向へ移動。
数回通路を曲がれば到着だ。
「あ、ほんとにきた」
「あ—あ、マジかぁ」
声が上がる。
女子が数名いるらしい。
薄暗いのもあるが、『誰』なのかは特定できなかった。
興味のある男子以外の顔を覚えるのが苦手なのだ。
人の顔なんて、記号だと思う。
名前書いた布でも下げておけばいいのに!
そんなわけで、サブリーダーは『女子数人が見ている』という状況を受け入れた。
むしろ、強引に事を進められる心配が減ったと安心する・・・ことにする。
「やぁ、僕のお姫様!」
『部屋』の真ん中で男子が手を広げて待っていた。
『これ』が『城野敦』だろう。
「あら、お姫様だなんて!」
はにかんだような、浮ついた声を上げた。
距離を詰めることで、心の隙間を探る。
先手必勝。
序盤で一気に間合いを詰めて、畳み掛ける。
それが最善!
彼の笑顔の奥に、どこか違和感があった。
それは、彼女の毒に気づいたのか、それとも、別の毒を隠しているのか。
どちらであれ、イニシアチブを握っているのは自分。
最終的な勝者が自分であることは揺るがない。
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