第58話 カルマの編集室
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カルマたちは63階層に作られたレイド用の前哨拠点を占拠した。
『人間』が標的だったことで、建物関連の損傷は低い。
まだ十分に使えそうだった。
これを再利用して、とりあえずの本営とする。
『レイド本隊』弱小化のための戦略拠点だ。
作戦は、手に入れた『学生たちのスマホ』を使い、偽の情報を拡散。
心理的な波紋を広げて相互不信の種を播くというものだ。
そんな中、使えるデータが発見された。
『城野敦』。後詰にいた男子だ。
奮闘空しく死んだ彼には、生前『別の顔』を持っていたらしい。
彼のスマホは容量いっぱいにまでデータが詰め込まれていた。
静止画と動画だった。
レイドサブリーダー『しか』映っていない。
予想できたことだが、どうやらすべて盗撮だ。
全身、顔のアップ、バストショットなんかは当たり前。
足主体、太腿だけ、どんなタイミングで撮影したのか素足を寄りで撮影した動画まである。
他には、靴箱の内履き外履き。
ロッカーの中で揺れるジャケット。
たたんで置いてあるワイシャツ、ソックスやコスメボックスの中身。
教室の机の中、などなど。
かなりの偏愛っぷりが窺える内容だ。
事前に内容チェックを行った仁科悠——いや、『沢辺みどり』がドン引きしていた。
悲鳴を上げていたほどのものだ。
・・・違う。
仁科悠でいいんだ。
人間バージョンで作業しているから。
『編集室』を作った段階でルールを決めた。
『妖怪』のときと『人間』の時の待遇ルールだ。
わかりやすく言えば、――。
『妖怪』=現場作業、つまりダンジョンモンスターのお仕事。
『人間』=事務作業、つまりカルマの助手としてのお仕事。
——ということだ。
それはいいとして、スマホの内容だ。
同じ作業に従事していた女性陣が近寄って、やはり悲鳴を上げていた。
男のカルマでさえもキツいものがあったのだから、女性にしたら、それは、それは悍ましいモノであっただろう。
「完全にストーカーだな」
そうとしか言いようがない。
「『隠密行動』系のスキル持ちで、ダンジョン外でフル活用してたみたいよ」
調査を担当した悠が、いくつかの静止画と動画を開いて見せてくれた。
「これ・・・は・・・」
言葉が出なかった。
サブリーダーのプライベートすぎる画像の合間に犯罪・・・ではないが裏切りの証拠となるものが複数含まれていたのだ。
ちょっと偏ったポエム——いや、い脅迫・・・でもなく『取引』を持ち掛ける文言もあった。
サブリーダーが喜びそうな、または不利な情報を掴んで、それをネタにデートをねだるまたはゆするつもりでいたようだった。
実行直前にレイドが始まって中止していた。
やってることと、考えてることは最低・最悪だ。
だが・・・。
「これは使えるね!」
殊勲賞ものの『お手柄』だった。
彼がやろうとしていたことを、代わりにやり遂げよう。
『手段』を使って『想い』を伝えてあげる。
結果は?
もちろん、カルマが手にすることになる。
「狙うは、レイドサブリーダーだ!」
方針が決定した。
城野君のポエム風味のおねだり。
添付動画付きの長文が、サブリーダーの個人チャットに流された。
カルマの毒で味付けされて・・・。
【『城野敦』。
君の靴音が今日も、ぼくの心を踏み鳴らす。
教室の隅で揺れるジャケットが、ぼくにだけ微笑んでいる。
君の素足が、ぼくの夢の中で歩いてくる。
ねえ、気づいてる?
ぼくはずっと、君の『影』の中に居たんだよ。
君の髪が風に揺れるたび、ぼくの呼吸は止まる。
教室の窓辺で、君が置いたジャケットが、ぼくにだけ微笑んでいる。
靴箱の中の内履きが、今日もぼくを見送ってくれた。
君の素足が、体育のあとに少しだけ見えた日、ぼくは一週間眠れなかった。
机の中に置かれたリップクリームが、君の唇に触れていると思うとたまらない。
ぼくはそれを何度も自分の唇に押し当ててしまったよ。
ぼくの唇が、君の唇の色になってた日があるって知ってたかな?
君の声が、誰かに向けられた瞬間、ぼくはその『誰か』に嫉妬した。
君の存在が、ぼくの世界の中心で、ぼくの時間のすべてだった。
ねえ、気づいてる?
ぼくはずっと、君の『影』より近くにいたんだよ。
⦅添付動画⦆——時間指定で消去される類のもので、コピー不可。
──こんなのがあるんだ。
欲しくない?
デートしてくれたら、渡してもいいよ?
必要なら、手も貸せる。
どうかな?
君に忠実なナイトより、愛をこめて】
「手を貸せる・・・手先として動くよって持ち掛けたら。なにを要求してくるだろうね?」
カルマは喉の奥で笑いながら、城野敦のスマホを手の中で弄ぶ。
それは、咎人の魂を手に入れた悪魔の微笑みだった。
◇サブリーダー視点◇
方針は決した。
やる事は明白。
でも、ピースが足りない。
絵具が欲しい。
油でもいいかしら?
水に一滴たらすために。
そう思っていたら・・・。
「あら、まぁ」
個人チャットに連絡が来ているのを発見した。
『城野敦』。
誰だったかしら?
数秒、本気で考え込んだ。
身の程知らずに告白してきた男子の中で、個人チャットのアドレスを聞き出すまでは粘れた男、ではあるだろうけれど。
正直印象はない。
「ああ。確か、今回は後詰にいたわね」
辛うじて名前から所属は思い出した。
顔は思い出せなかった。
チャット画面には猫の写真が貼ってあるが、まさか猫ではないだろう。
それならきっと覚えている。
「え?」
驚き。
疑惑。
そして、喜び。
私は微笑んだ。
人前では絶対にしない顔で。
サブリーダーは、指先で、ゆっくりと返信を打ち始めた。
それは、絵の中に毒を混ぜる、最初の筆だった。
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