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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第54話 サブリーダーの独白 ~微笑みの毒~

2/2

 


 一葉の名前が出た瞬間、胸の奥がざわり、と波打った。

 ずっとこの時を待ち焦がれていた。

 あの善人ぶった女に泥を投げつける日を。


 誰も気づかない。

 誰も見ていない。

 でも、彼女の存在はずっと『水面の光』だった。


 手が届きそうで届かない、水面に揺れる光のような存在だった。

 自分より少しだけ上にいて、少しだけ綺麗で、少しだけ『聖女』に近い。

 その『少し』が、積もり積もって、今や手が届かないほど遠い。


 彼女は『作れる』。

 自分には『作れない』。

 彼女は『選ばれる』。

 自分は『支える』だけ。


 それが、ずっと悔しかった。

 でも、悔しいと言えなかった。

 だって、彼女は世間が認める『善人』だから。

 誰もが信じてる『聖女一歩前』だから。


 でも──今なら、違う。


 カルマの件。

 エリクサーの件。


『渡さなかった』という一点だけで、彼女は沈む。

 自分が沈めなくても、周囲が勝手に引きずり下ろす。


 なら、少しだけ『流れ』を整えてあげよう。

 直接潰したりはしない。

 噓だって流さない。


 ただ、疑念を一滴。

 不信を一滴。

 それで、彼女の光は濁る。


 そして──その濁った水面を私は見下ろす。

 愛する人の隣に立って。


 濁った水面の下で、あの女はどんな顔をするかしら?



「ふふふ・・・」

「お、おい。どうした?」

 笑う場面か?

 戸惑う顔が近い。


 困惑顔もいいわね。

 愛してるわ。


「大丈夫。心配しないで。彼女にはきっと、誰もが納得する理由があるに違いないのですもの。そうでしょう?」

 そっと胸に手を当てて念を押した。


「あ、ああ。そうだとも、そうに決まっているさ・・・・たぶんな」

 目を逸らして歯切れの悪いお返事。


 他人は『頼りない』ということもあるけれど、私は好き。

 そこがいいの。


 私の大好きな坊や。

 可愛い坊や。


 いっぱい愛してあげる。

 いっぱい甘えさせてあげる。


 だから、私の胸の中でお眠りなさい。

 いつまでも。

 いつまでも・・・。


 あなたは、私なしでは生きられないのよ。


 ◇リーダーのおそれ◆


 サブリーダーの笑顔は、いつも通りだった。

 柔らかくて、優しくて、どこか甘ったるい。

 でも──今は、少しだけ違って見えた。


 胸に手を当てて微笑む彼女の姿が、まるで『舞台の上の聖女』のようだった。

 完璧すぎる。

 整いすぎている。

 そして、どこか『冷たい』。


「そうに決まっているさ・・・たぶんな」。自分の言葉が、空気に溶けずに残った。

 彼女の笑顔に吸い込まれず、ただ、浮いていた。


 その違和感が、喉の奥に引っかかった。

 何かが、違う。

 何かが、濁っている。


 彼女の手が自分の腕に触れた瞬間、。

 ほんの半歩だけ、足が後ろに動いた。


 無意識だった。

 でも、確かに動いた。


 彼女は気づいていない。

 ・・・いや、気づいていないふりをしている?


 それでも、彼の中には確かに一滴。

 冷たい水が流れ始めていた。


 ◇サブリーダー◇


 彼の足が、ほんの半歩だけ後ろに動いた。

 その瞬間、空気が揺れた。

 彼は気づいていないふりをしている。


 でも、私は知っている。

 彼は、確かに『感じた』のだ。


 私の笑顔の奥にあるものを。

 私の言葉の温度に潜む冷たさを。

 そして──私の『意図』を。


 でも、それでいい。

 気づいても、動けない。

 気づいても、逃げられない。

 だって、彼は『私の坊や』だから。


 だから、毒の種類を変えよう。

 彼を傷つけないために。


 強すぎると、彼まで傷つく。

 弱すぎると、一葉が沈まない。


 必要なのは、『彼が納得できる濁り』。

 彼が「仕方ない」と思える程度の毒。

 それでいて、確実に、一葉の光を曇らせるもの。


 例えば、「彼女は迷っていた」「彼女は判断を誤った」「彼女は、誰かに止められていた」。

 そういう『理解できる罪』を流す。


 それなら、彼は私を責めない。

 むしろ、私を頼る。

 そして、私の隣に立つ。


 ふふ。

 この流れは、私のもの。

 彼も、彼女も、みんな私の支配する海の中。


 私は、ただ『曇らせる』だけ。

 静かに。

 確実に。




 その時、ふと目に入った。

 個人チャットの通知。


『城野敦』──誰だったかしら?



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