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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第48話 妖怪制作⑦ ~天狗(葉隠霞)~

2/2

 


「あれ? 葉隠霞?」


 ダンゴムシの通過跡に残されたマンガのような人型。

 覗き込むと、知人がいた。

 ただ、その姿は記憶していたモノとは異なっている。


 清涼な雰囲気を有する女性だったのだが、泥まみれで横たわっている。

 その体は『人』の色を失っていた。


 赤く、黒く、末端部にいたっては白くすらある。

 透明感のある白ではない、濁り黄色っぽい色。


 仰向けに押し込まれているが、顔は見る影もなかった。

 女性であることは、丸みのある体付きで知ることができる。


 だけど、顔は一目で判別できる状態ではなかった。

 なら、なぜすぐに個人名が出たのかだが、服装が特殊だったからだ。


 胸のさらし、モスグリーンの肩掛け、紺の道中着。

 時代劇に出て来る『女渡世人』みたいな服装なのだ。

 こんな服は、彼女『葉隠霞』しかしない。


 『風』と『雷』を操る九大魔女——探索者の中でも特異な能力を持つ、選ばれし九人の魔法使い——の一人だ。

 ただし、少しばかりの協調性の乏しさが玉に瑕だった。


 群れることを嫌うあまり、単独行が多い。

 パーティを組んでも、協力よりも先に自分から前へ出てしまう。

 単独で戦える能力があるからでもあるが、あまり良くは思われていない。

 そのせいで実力はあるのに主力には入っていなかった。


「そう、だよな」

 主力に入っていなかったのだ。

 ここにいたわけで、63階層全滅なら、こうなっていて当然か。


 カルマは目を閉じて、静かに息を吐き出した。

 小さく頭を振る。

 そして・・・。


「はじめよう」

 目を開けて、『葉隠霞』だったものを見据えた。


 風は止んでいた。

 でも、雷の匂いが、まだ空気に残っていた。

 それは、彼女が『まだ終わっていない』という証。

 カルマは、風の中に問いと答えを探し始めた。


 ◆50階層の追憶◆


「おい! 後ろに下がるんじゃねぇぞ? そこにいろ!」

 カルマの右側に並び、彼女はそう命じた。

 他のパーティメンバーは後ろに引っ込んでいるのに。


 別に嫌だと言うつもりはないが、ちょっと不思議だ。

 隣にいることで何のメリットがあるのかがわからない。


 でも、『隣にいる』だけでいいのなら、カルマでもできる。

 むしろ、『誰かの隣』はカルマにとっても特別だ。


 戦闘のたび、彼女の周囲を取り巻く風の余波で髪は乱れ、目も痛い。

 だが、その分だけ頼もしさと安心感があった。


 間近で見る『雷』は煌めいていた。

 儚さと力強さのバランスにクラクラする。


「こえぇぇぇ」

「凄まじいよな」

「やっぱ、私らいらないじゃん!」

「一応活動しないと! あとで報酬減っちゃうでしょ?!」

「そうだぜ、ついて歩くだけ儲かるんだ。文句は言うな」


 背後から、聞かせないように気遣う気はあるのか? そう問いたくなるようなあからさまな言葉が聞こえてくる。

 彼女の左拳が、握りしめられた。

 彼女は彼女で、孤独であるらしい。


「・・・・・・」

 それはいいが・・・カルマは傷だらけだった。


 彼女の風は確かにカルマを守ってくれる。

 だが、敵に向かう真空の刃の余波がときおり、カルマをも切りつけてくるのだ。


 これがあるから、みんな後方へ下がるのである。

 カルマもできれば後ろに行きたかった。

 『誰かの隣』が特別だとは言っても、切り刻まれることを許容はできない。


「あからさまに血を拭ってんしゃねぇよ!」

 流れ出る血を拭きとるカルマの肩が小突かれた。


「そよ風程度で傷ついてんじゃねぇぞって、言いたくなるだろ?」

 礼子は目を逸らしながら、苛立ちを隠すように呟いた。


 血を拭ったカルマに、彼女は苛立っている。

 傷つくのがおかしいという論理だ。

 ただ、怒っているわけではないないらしい。


 『探索者』なのに!

 そう言いたいのだろうが、どこかで「それでもいいんだ」と思っているといったところだろうか。

 吹いているのは、『そよ風』などと言える風ではないのだし。


 彼女の纏う風は、敵を斬る刃であると同時に、仲間を遠ざける『隔たり』でもあった。

 彼女の『強さ』であり、『孤独』だ。


 だけど、この時。

 風はカルマだけを受け入れていた。

 カルマだけが風の隔たりを越えられていたからだ。


 たとえ傷ついても、『誰か』の隣にいることの選択。

 誰からも大事にされてこなかったカルマには、ただ一つの正解。

 隣にいてくれる人のためなら、自分の痛みを踏み越え得る。


 カルマのその覚悟を、風は認めていた。

 認められたカルマにはわからないことだったけれど。


 ささやかな、痛みを伴うやり取り。

 少し不穏な空気の中、それでも二人は確かに寄り添っていた。


 そんなやりとりが、探索中ずっと続いた。

 終わったのは討伐対象の『中ボス』を討伐した後だ。


「勝ったな」

 笑みを含む声がカルマに投げかけられる。


「・・・」

 とどめの稲妻がかすって、右肩が焼けているカルマは答えられなかった。

 治療のために、回復ポーションを取り出すのに必死だったのだ。。

 相場をはるかに超える金額で買わされていたものだ。


「よわっ!」

 うずくまっているカルマを見下ろし、霞は呆れているようだ。

 カルマは、つらそうに見上げている。


「ほら」

 彼女が手を伸ばした。

 カルマの手が、彼女の手に触れる。


 その手が、微かに震えている。

 礼子の目が、わずかに怯えている。

 痛みに委縮しているカルマが気付くことはなかったけれど。


「ありがとうございます」

 彼女が原因なのだが、言っても仕方がない。

 ここは感謝を伝える場面だろう、とカルマは思ったのだ。


 差し出されている手を握った。

 強い力で引き寄せられる。


「怯えないんだな?」

 細く小さな呟き。

 ほんの些細な風にでも掻き消されてしまう。

 そんな声。


 カルマは聞き逃した。

 気付く余裕はなかったのだ。

 いや、気付いていた。


 ただ、反応する勇気が出なかった。

 勇気があったら、何か聞けただろうか?


 彼女が、誰かの横にいたかった理由。

 そんなことを。


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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