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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第26話 『置引』

2/3

 


「校舎もたいがいだが…プールもひでぇな」


 ひろが『お客様』のお相手をしていた同時刻。

 別の場所でも、舞台の幕が上がろうとしていた。


 彼らが見つけたのは水を湛えた正四角形。

 長細いものではないから堀とは違っている。


 材質はコンクリート。

 外壁には苔が張り付き緑色。

 水面には木の葉が無数に浮いていた。


 風の音が寒々しい。


「これ、プールか?」

 一人が疑問を口にする。


 プールにしてはおかしくないか?


「こんな真四角な池はねぇだろ!」

 プールだと決めつけた男が頭ごなしに怒鳴りつけた。


 そして、イヤそうな顔をしつつも、服などの装備を外して、飛び込んだ。

 通貨を入れるための袋だけを持って。


「どうする?」

「潜ってはみないとな」

 確認は必要だろう。

 ついてきた者たちも、モタモタと装備を外し始めた。


 誰一人、見張りの必要性に言及する者はいなかった。

 彼らは、ここが『ダンジョン』であることを忘れてはいない。

 ただ、舐めまくっていた。


 彼らは気が付かない。

 適当に置いた荷物に『腕だけ』、『足だけ』が張り付き、どことも知れぬ場所へ這い、歩いて行くことに。


 ・

 ・

 ・


「チッ! やっぱなんもねぇ!」

 後から入った者たちが戻ってくる。


 プールではないんじゃないか?

 不審に思っていた分だけ見切りをつけるのが早かったのだ。


 そして、荷物がなくなっていることに気づく。


「はぁ?」

「なんでなくなってんだ?」

 騒ぎ出す男たち。

 そんな中、一人が呟きを落とした。


「置引?」

「?!」

「盗まれたってのか?!」


 バカな!

 そう思いつつも、他に答えも出ない。


「犯人は誰だ?」

 当然の問いが沸き上がった。

 荷物が消えた理由が『盗まれた』なら、犯人がいるはずなのだ。


「…‥外からは来ていないし、出た者もいないぞ」

 一番外に近い男が言った。


「なぜわかる?」

「足跡だよ」

 強い問いに、男は静かに答えて、真新しい自分たちの足跡を指差した。


 自分たちが来た時の足跡はくっきり残っている。

 だが、それ以外には何の痕跡もなかった。


 代わりに、荷物があったはずの場所は、全員でウロウロしたせいでぐちゃぐちゃ。

 痕跡が残っていたとしても、判別不可能となっていた。


「チッ! 失敗したな」

「……わざとじゃないのか?」

「何が?!」

「自分の痕跡を消すために、わざと動き回らせた……とか?」

 おまえが犯人じゃないのか?

 そんな目が向けられた。


「な、なんで俺が?! だいいち、今、一緒に戻ってきただろうが!」

「中に入ってすぐ、ここにきて荷物を隠して戻ったなら、あり得る」

 初めから計画していたのなら『やれる』との指摘。


「……ああ、なるほどな」

 追いつめられたかのように見えた男が、ニタリと笑う。


「なんだ? 言訳でも思いついたのか?」

 冷たく追及する男の鼻先に指が突き付けられた。


「計画的ならやれる。どうして断定できるんだ? 実行してみたからか?」


 言い出した者こそが真犯人だ!

 疑いが返された。


「ガキの反論だな」

 ハン!

 鼻で笑い飛ばされた。


「あ゛、んだとごら!」

 剣呑な声が出た。


「本性が出たな、おお、こわ!」

 冷笑を閃かせつつ、大げさにコワがる仕草をしてみせる。


 挑発する意図がハッキリと見て取れた。


「答えろよ。計画的ならやれるって、どうして断定できるんだ? 実行してみたからじゃないのかよ?」

 挑発するように言われ、男の眉が跳ね上がった。


「は? おまえ、何言ってんだよ。俺が盗んだってか?」

「言ってるのはおまえだろ。自分で“できる”って言ったんだ」

「理屈になってねぇよ!」

 声が一段階、荒くなる。

 周囲の空気がピリつき始めた。


「じゃあ聞くが、誰がやったんだよ? おまえ以外に誰がいる?」

「知らねぇよ! そもそも俺はずっと一緒に潜ってたろ!」

「潜ってた“ふり”だろ。荷物隠して戻ってきたって線もある」

「ふざけんな!」

 男が一歩踏み出す。

 その足音が、やけに大きく響いた。


「おいおい、図星つかれたからってキレんなよ。余計怪しいぞ?」

「テメェ……!」

 胸ぐらを掴もうと手が伸びる。

 相手はひらりと避け、鼻で笑った。


「ほら見ろ。やっぱり本性出たな。盗っ人の顔だよ、それ」

「言わせておけば……!」

「言わせてるのはおまえだろ? そんなに怒るってことは、やっぱり――」

「黙れって言ってんだろうが!!」

 怒鳴り声が水面を震わせた。


 苔むした壁に反響し、異様に響く。

 二人の距離は、もう腕一本分もない。


「やる気か?」

「やらせてんのはおまえだろ!」

 互いに肩で息をしながら睨み合う。


 その背後で――

 “何か”が、静かに這う音がした。


 だが、二人は気づかない。

 怒りで視界が狭くなっていた。


「いいぜ。やってみろよ。俺は逃げねぇからよ」

「後悔すんなよ……!」

 二人の手が、同時に武器へ伸びた。


 その瞬間――


 彼らの足元を、白い“腕”がすっと横切った。

 誰も気づかないまま、

 口論はさらに熱を帯びていく。


『なんで俺、こんなに苛立ってんだ?」

『なんでこんなケンカ腰なんだ?』

 内心、異常を感じてはいても、言葉は止まらない。


 そして、ついに――


「なめた口きいてんじゃねぇぞ!」


 ドン!


 手が出た。

 相手の胸を軽く小突くつもりが……思い切り殴るという形で。


「——グ! やりやがったな!?」


 ザン!


 反射的な反応だっただろう。

 あまりにも自然に抜き放たれた剣が光の軌跡を描いた。


 赤い霧が舞う。


「は?」

 赤く染まった男が間の抜けた顔で、自分の体を見下ろした。


「なんだ……これ?」

 呆然とした呟き。


 からの……


「なんじゃこりゃぁあぁぁぁ!」


 激高。

 周囲の土が円錐状に固まった。


 無意識レベルの魔法行使が、最大魔力での全力レベルで行われた。

 ありえないことだった『誰か』が調整を手伝ってでもいない限りは。


「お、おい、待て!」

「何やってんだ、おまえら?!」

 他の者たちが慌てて止めに入る。


 だが、もう魔法は完成している。

 もう、引っ込めることなど不可能。


 魔法は撃ち出された。


 至近距離。

 避けようがなかった。


「ウソ……だろ?」


読了・評価。ありがとうございます。


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