第24話 『同好会発足と新クエスト』
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さて、そのころ。
野球部以外の運動部は軒並み、解散となった。
我の強い者が多かったようで、チームとして一つになり切れなかったのだ。
それでも、気の合った者が皆無だったわけではなく、いくつかの『同好会』が発足している。
『バスケ同好会』と『バレー同好会』だ。
クエストが終わりとなった瞬間に、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる部員たち。
その中にあって、数人が名残を惜しむように寄り添っていた。
そこへ、システムチャットが流れた。
【同好会を結成可。結成しますか? YES/NO】
数秒、目での会話が交わされた。
そして、『YES』を選んだ者たちで、『同好会』は結成された。
新たにクエストが発生する。
【スポーツを楽しみましょう!】
なんとも、緩い感じのクエストだった。
「えっと…用具を揃えよう――ですって」
「まずは、ボールを買えとさ」
クエスト説明を読んで、バレーとバスケの会長が声を上げた。
「23階層に『スポーツ用品店』があるらしいわ」
「まずは、そこを目指すわけだな」
こうして、同好会はまとまって行動することになるのだった。
◇野球部◇
野球部は走っている。
ベースランニングだ。
基本練習からのやり直しだった。
用具を磨き、キャッチボールをして、バットを振る。
やることは変わらない。
距離が、数が、回数が増加しているだけだった。
それが地味にきついが、彼らは爽やかにこなしていく。
むしろ、楽しげだった。
探索者となることが義務となり、旧時代のスポーツを楽しむ機会などなかった十代。
彼らは大人になった今、それを取り戻した。
「はい、声出していこう!」
キャプテンの掛け声に、自然と返事が重なる。
外野から内野へ、ボールが弧を描いて飛ぶ。
受け取る音が心地よいリズムを刻む。
誰かがミスをすれば、すぐに「ドンマイ」と声が飛ぶ。
責める者はいない。責める必要もない。
ノックが始まると、グラウンドに砂煙が上がった。
打球を追う足音が揃っている。
捕球して、送球して、また走る。
単純な動作の繰り返しなのに、そこには妙な一体感があった。
「いいぞ、そのステップ軽くなってきた!」
「おう、次はダブルプレーの形いくぞ!」
仲間と汗を流すのだ。
血は流さない。
支えあうのだ。
潰しあいはしない。
ともに目指すのは利益ではない。
さらなる高みだ。
そのついでで、彼らのマネージャーが活動の場を広げていく。
練習メニューを組み、データを取り、差し入れを配る。
それを受け取る選手たちの顔は、どこか誇らしげだった。
それが楽しい。
それが、うれしい。
野球部は白球に闘志を燃やすのだった。
◇スポーツマンシップのない者たち◇
運動部に入っていながら、クエスト終了とともに『部活』を辞めたものたちにも、『新しいクエスト』が発生していた。
「なでぎりだぁ!」
「ヒャッハー!」
学園祭で金儲けを企む者たちも21階層を進んでいる。
現状はモンスターをあたるをさいわいと撃破しては迷宮通貨を回収していく。
ただ、彼らは知らなかった。
このダンジョンの全容を。
「学園祭を楽しむ者には喜びを。そうでないものには・・・帰れるといいな?」
ダンジョンの奥底で、カルマが温度のない笑みを浮かべ、補佐をする冷たい指が軽やかに動き出す。
彼らはすぐに思い出すだろう。
『ここはダンジョンだった』と。
影が六つ、動き始める。
廊下や教室の一部では『糸』が張られている。
空気の振動が『誰か』を探す気配を伝えていた。
【取得した迷宮通貨の額が、一定額を超えました。大富豪クエストを開始できます。開始しますか? YES/NO】
金の亡者の頭の中で、システムチャットが流れた。
彼らは一瞬のためらいもなくYESを選択した。
それが自分たちの運命を決定づけるとは考えもしなかったのだ。
「いい迷宮だぜ!」
「儲けさせてくれやがる!」
クリア報酬の高さに歓喜の声を上げた者たちだ。
『大富豪』と名付けられたクエストに尻込みする理由はない。
誰もそこに潜むリスクには目を向けていない。
彼らが儲かるルート、それはダンジョンにとっても儲かるルート。
生きて帰れれば彼らの勝ち、そうでなければ——
ダンジョンはダンジョンなのだ。
テーマパークではなく、探索者もバイトではない。
安全に稼げる保証など、あるはずがなかった。
【クエスト、プールの底に迷宮通貨が沈んでいます。拾い集めましょう!
報酬:拾った分だけ手に入れられます。
※時々、流されて行方不明になる人がいます。気をつけましょう】
「プールか!」
「こりゃ早い者勝ちだな!」
拾った分だけ、つまり、誰よりも早くプールを探し出し、飛び込んだ者が有利。
彼らは我先にと走り出す。
そこにチームワークなどなかった。
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