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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第23話 『影の教室』

2/3



 全員がこちらを向いた。


 影のような顔のまま、動かず、ただ“見ている”。


次の瞬間、陽翔は気づいた。


 ――距離が、縮まっている。


 歩く音はしない。

 足も動いていない。


 なのに、彼女たちは確実に近づいていた。


 陽翔が剣を構えた瞬間、少女たちの影がふっと揺れた。


 攻撃の気配はない。

 ただ、距離だけが縮まっていく。


 「……効かないわよ。あれ、実体がない」

 澪の声が低く響く。


 陽翔が試しに斬りかかる。

 刃は、空気を裂いたようにすり抜けた。


 少女たちは、ただ“見ている”。


 「戦闘にならない……っすね」

 朔也が喉を鳴らす。


 「通り抜けるしかない。ここのは……『見えるだけ』よ」

 澪が前を指した。


 少女たちはどんどん近づいてきていた。

 だが、攻撃はしてこない。


 陽翔は息を呑み、歩き出した。


 少女たちの中を――通り抜けていく。


 「…一応、な」

 魔法使いが、振り向きざまに魔法を放つ。

 彼が使える唯一の『光魔法』だ。


 だが——


 「だめか」

 直撃したはずだが、何も起きない。


 「無駄よ。相手はアンデッドですらない。『映像』でしかないんだわ」


 「映像……?」


 陽翔が呟いた瞬間だった。


 少女たちの影が、ふっと揺れた。


 通り抜けたはずの一人が、陽翔の真横に立っていた。

 距離が近い。近すぎる。


 「っ……!」


 反射的に身を引くが、少女は動かない。

 ただ、そこに“存在している”。


 顔は影のまま。

 だが、確かにこちらを向いていた。


 その影の奥で、口元だけがわずかに動いた。


 『……どうして、いないの』


 声にならない声が、陽翔の耳の奥に直接響いた。


 次の瞬間、少女の姿はふっと薄れ、廊下の奥へと溶けていった。


 「……干渉してきた、っすよね?」

 朔也が震えた声で言う。


 「ええ。映像なのに、接触してくる……ありえないわ」

 澪が眉を寄せる。


 陽翔は胸に手を当てた。

 冷たい感触が、まだ残っていた。


 「……一人だけ、いないのかも」

 呟きが聞こえた。


 政府から派遣されている調査員。

 千歳だ。


 「一人だけ?」

 聞こえた陽翔が振り向く。


 「さっきの集団。センターの横に空白があった。『ナンバー2』がいるべき位置が空白なの。その子を探しているのかも」


 「ナンバー2……?」


 陽翔が反射的に少女たちの列を思い返す。

 確かに、中央の二人のうち、右側だけが“影の濃さ”が違っていた。


 「その子だけ、いない。だから……」

 千歳は廊下の奥を見つめた。


 「“探している”のよ。名簿の空白も、そのため」


 澪が小さく息を呑む。

 「じゃあ……さっきの『どうして、いないの』って声は」


 「ナンバー2を探してる“誰か”の声だと思う」

 千歳の声は淡々としていたが、その目は鋭かった。


 その瞬間――


 廊下の奥で、影が揺れた。


 少女たちの列の“空白”だった位置に、

 ふっと、黒い影が立ち上がる。


 形はある。

 だが、輪郭が定まらない。


 まるで、存在しないはずの“誰か”が、

 そこに戻ろうとしているかのように。


 「……まずいわね」

 澪が一歩下がった。


 影が、こちらを向いた。


 「いないんじゃないわ。『見えていない』のよ」

 苦々しく、澪が吐き捨てる。


 「どういうことだ?」

 陽翔が問う。


 「理由はわからないけどナンバー2だけが、“異質”なのよ。だから、他の子たちには認識できない」


 廊下の奥で、少女たちの影が揺れた。

 空白の位置は、やはり空白のままだ。


 「じゃあ……探しても見つからないってことっすか?」

 朔也が喉を鳴らす。


 「ええ。見つけられない。ようは『周波数』が合っていない状態」


 澪の声は静かだった。


 「ナンバー2と出会うには……この子たち自身が“変質”する必要がある」


 陽翔は息を呑んだ。


 ――『変質』。


 その言葉が、廊下の冷気よりも重く響いた。


 暗さが増して、闇が迫る。

 

 「いつの間にか、灯りが消えてるな」

 気が付けば、顔を照らしていた教室の灯りが消えている。


 「とりあえず、終わりか?」

 安堵したように陽翔が言う。


 「いいえ」

 澪が否定した。


 「な、なにかあるんすか?」

 大盾を構え直して、朔也が身構える。


 その顔が、照らされた。


 そして、『笑い声』が聞こえる。


 「繰り返し?」

 千歳の呟き。


 教室の中で机の動く音。

 椅子の引かれる音がした。


 引き戸が動かないまま、開く音を出す。


 廊下に、女学生の群れが現れる。


 「ああ、確かに。不自然な空白があるな」

 センターを進む女子の横、妙な隙間があった。


 「行きましょ。また囲まれるのは避けたい」

 害はないが、気持ちのいいものでもない。


 「あ、ああ」

 「同感っす」


 彼らは足早に廊下を進むのだった。


 廊下に、彼らの足音が響く。

 心なしか、その『数が多い』気がした。



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