第23話 『影の教室』
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全員がこちらを向いた。
影のような顔のまま、動かず、ただ“見ている”。
次の瞬間、陽翔は気づいた。
――距離が、縮まっている。
歩く音はしない。
足も動いていない。
なのに、彼女たちは確実に近づいていた。
陽翔が剣を構えた瞬間、少女たちの影がふっと揺れた。
攻撃の気配はない。
ただ、距離だけが縮まっていく。
「……効かないわよ。あれ、実体がない」
澪の声が低く響く。
陽翔が試しに斬りかかる。
刃は、空気を裂いたようにすり抜けた。
少女たちは、ただ“見ている”。
「戦闘にならない……っすね」
朔也が喉を鳴らす。
「通り抜けるしかない。ここのは……『見えるだけ』よ」
澪が前を指した。
少女たちはどんどん近づいてきていた。
だが、攻撃はしてこない。
陽翔は息を呑み、歩き出した。
少女たちの中を――通り抜けていく。
「…一応、な」
魔法使いが、振り向きざまに魔法を放つ。
彼が使える唯一の『光魔法』だ。
だが——
「だめか」
直撃したはずだが、何も起きない。
「無駄よ。相手はアンデッドですらない。『映像』でしかないんだわ」
「映像……?」
陽翔が呟いた瞬間だった。
少女たちの影が、ふっと揺れた。
通り抜けたはずの一人が、陽翔の真横に立っていた。
距離が近い。近すぎる。
「っ……!」
反射的に身を引くが、少女は動かない。
ただ、そこに“存在している”。
顔は影のまま。
だが、確かにこちらを向いていた。
その影の奥で、口元だけがわずかに動いた。
『……どうして、いないの』
声にならない声が、陽翔の耳の奥に直接響いた。
次の瞬間、少女の姿はふっと薄れ、廊下の奥へと溶けていった。
「……干渉してきた、っすよね?」
朔也が震えた声で言う。
「ええ。映像なのに、接触してくる……ありえないわ」
澪が眉を寄せる。
陽翔は胸に手を当てた。
冷たい感触が、まだ残っていた。
「……一人だけ、いないのかも」
呟きが聞こえた。
政府から派遣されている調査員。
千歳だ。
「一人だけ?」
聞こえた陽翔が振り向く。
「さっきの集団。センターの横に空白があった。『ナンバー2』がいるべき位置が空白なの。その子を探しているのかも」
「ナンバー2……?」
陽翔が反射的に少女たちの列を思い返す。
確かに、中央の二人のうち、右側だけが“影の濃さ”が違っていた。
「その子だけ、いない。だから……」
千歳は廊下の奥を見つめた。
「“探している”のよ。名簿の空白も、そのため」
澪が小さく息を呑む。
「じゃあ……さっきの『どうして、いないの』って声は」
「ナンバー2を探してる“誰か”の声だと思う」
千歳の声は淡々としていたが、その目は鋭かった。
その瞬間――
廊下の奥で、影が揺れた。
少女たちの列の“空白”だった位置に、
ふっと、黒い影が立ち上がる。
形はある。
だが、輪郭が定まらない。
まるで、存在しないはずの“誰か”が、
そこに戻ろうとしているかのように。
「……まずいわね」
澪が一歩下がった。
影が、こちらを向いた。
「いないんじゃないわ。『見えていない』のよ」
苦々しく、澪が吐き捨てる。
「どういうことだ?」
陽翔が問う。
「理由はわからないけどナンバー2だけが、“異質”なのよ。だから、他の子たちには認識できない」
廊下の奥で、少女たちの影が揺れた。
空白の位置は、やはり空白のままだ。
「じゃあ……探しても見つからないってことっすか?」
朔也が喉を鳴らす。
「ええ。見つけられない。ようは『周波数』が合っていない状態」
澪の声は静かだった。
「ナンバー2と出会うには……この子たち自身が“変質”する必要がある」
陽翔は息を呑んだ。
――『変質』。
その言葉が、廊下の冷気よりも重く響いた。
暗さが増して、闇が迫る。
「いつの間にか、灯りが消えてるな」
気が付けば、顔を照らしていた教室の灯りが消えている。
「とりあえず、終わりか?」
安堵したように陽翔が言う。
「いいえ」
澪が否定した。
「な、なにかあるんすか?」
大盾を構え直して、朔也が身構える。
その顔が、照らされた。
そして、『笑い声』が聞こえる。
「繰り返し?」
千歳の呟き。
教室の中で机の動く音。
椅子の引かれる音がした。
引き戸が動かないまま、開く音を出す。
廊下に、女学生の群れが現れる。
「ああ、確かに。不自然な空白があるな」
センターを進む女子の横、妙な隙間があった。
「行きましょ。また囲まれるのは避けたい」
害はないが、気持ちのいいものでもない。
「あ、ああ」
「同感っす」
彼らは足早に廊下を進むのだった。
廊下に、彼らの足音が響く。
心なしか、その『数が多い』気がした。
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