表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

373/381

第22話 『学校の怪談』

1/3

 


 廊下を歩いて行く。

 先頭を朔也が進み、真ん中に陽翔と澪がいる。


 廊下は薄暗く、窓から入る光も暗かった。

 窓の下で、ところどころ闇がうずくまっている。


「雰囲気、ありすぎやしませんか?」

 盾を構えた朔也が、乾いた呟きを漏らした。


 夜の学校。

 まさに、そんな感じだ。

 静まり返っていて、不気味な雰囲気がある。


「雰囲気があるのは当然でしょ。出るかもしれない『肝試し』じゃない。ここはなにかが出てなんぼのダンジョンなんだから」

 むしろ、雰囲気がなかったら困る。

 澪が、周囲に視線を走らせた。


 カタッ


「…なにか、音がしたな」

 落ち着いた様子で、陽翔が呟く。


 廊下の先、闇の向こうだ。


 カタ…カタッ。


 今度は、はっきりと聞こえた。

 木の板が、誰かの足で踏まれたような音。


「……足音、っすか?」

 朔也が盾を少し上げる。


「いや、違う。間隔が不自然だ」

 陽翔が目を細めた。


 足音なら、規則的に響くはずだ。

 だが今の音は、まるで――


 『何かが、そこに立ち止まっている』ような。


 澪が小さく息を吸った。

「……七不思議の類いかもしれないわね」


 闇の奥で、また“カタッ”と何かが揺れた。


 生徒会メンバーの意識が、前方へ向いた。

 闇の奥、確実に『何か』が出てくる。

 きっと来る、と身構えたのだ。


 その横顔が、照らされた。


 右側の教室の灯りが付いたのだ。


 姿はないのに、『ごく当たり前の日常』という感じに昭和中期の女学生たちの笑い声が聞こえてくる。


「……聞こえるっすよね?」

 朔也が、盾を胸の前に寄せたまま固まった。


「ええ。しかも……近いわ」

 澪の声がわずかに低くなる。


 笑い声は、廊下の奥からではない。

 すぐ横の教室――さっき灯りがついた、あの部屋の中からだ。


 ガラガラ、と引き戸が開く音がした。


 だが、扉は動いていない。


「……幻聴じゃないな」

 陽翔が剣を構え直す。


 笑い声は、ますます鮮明になっていく。

 まるで、そこに“確かに存在している”かのように。


 ――なのに、姿だけがない。


 机を引く音。椅子がきしむ音。

 チョークが黒板を走る、乾いた音。


 かつて存在した教室の、“日常”だけが音として再現されていた。


「これ……精神攻撃の一種か?」

 朔也が震えた声を漏らす。


 澪は首を横に振った。

「違う。これは……“記憶”よ」


 その瞬間、陽翔の視界がふっと揺れた。


 その時、『旧校舎の校長室』で『卒業生名簿』のページがめくられた。

 誰もいない。

 風もない。

 それでも、『誰か』を必死に探しているように、ページが激しくめくられている。


 ページが、ばさっ、ばさっ、と乱暴にめくられていく。


 ――探している。


 陽翔は直感した。

 名簿の中の“誰か”を、必死に。


 だが、めくられるページはどれも空白だった。

 名前がない。写真もない。

 卒業生名簿なのに、何も記されていない。


 それでも、ページは止まらない。

 まるで、そこに“いるはずの誰か”を探し続けているように。


 最後のページがめくられた瞬間――


 黒板の前に、セーラー服の少女が立っていた。


 顔は見えない。

 髪が揺れ、スカーフがふわりと浮いた。


 彼女は、名簿の空白を見つめていた。


 『……どうして、いないの』


 声にならない声が、陽翔の耳の奥に直接響いた。


 次の瞬間、視界が弾けるように戻る。


 廊下に、セーラー服姿の女子生徒たちが現れて、

 陽翔たちに気づくこともなく談笑しながら擦り抜け通り過ぎていく。


「……っ」


 朔也が反射的に身を引いた。

 だが、女子生徒たちは彼の身体をすり抜けた。

 触れた感触はない。風すら起きない。


 なのに、笑い声だけが耳元をかすめていく。


「見えてるのに……存在してない?」

 陽翔が低く呟く。


 澪は目を細めた。

「違うわ。これは“残ってる”のよ。ここにあった日常が」


 女子生徒たちは、まるで本当にそこにいるかのように自然だった。

 歩き方も、姿勢も、談笑の仕草も。

 ただ――


 顔だけが、見えない。


 髪が揺れ、スカーフが揺れ、口元が動いているように見えるのに、

 目の部分だけが、黒く塗りつぶされたように影になっていた。


 その影のまま、彼女たちは廊下の奥へ消えていく。


 最後尾の一人が、ふと振り返った。


 顔は影のまま。

 だが、確かに“こちらを見た”。


 陽翔の背筋に、冷たいものが走った。


「名簿が空白なのは…ここに『いる』からか」


 陽翔の呟きに、澪がわずかに目を見開いた。


 紙に残されていた『記憶』が、この『空間』に溶けだしている。

 だから、『現実』からは消え、『幻影』が『存在』となっている。


「……じゃあ、あれは“消えた生徒”ってことっすか?」

 朔也が、すれ違っていった少女たちの背中を見つめながら言った。


 少女たちは、まだ廊下の奥で談笑している。

 声は鮮明なのに、姿はどこか薄い。

 光に照らされているのに、影のように輪郭が揺れていた。


「消えた、というより……」

 澪が静かに首を振る。


「“ここに縫いとめられている”のよ。名簿から消えた分だけ、この階層に」


 陽翔の胸に、ひやりとした感覚が広がった。


 ――名簿の空白。

 ――探し続けるページ。

 ――顔のない少女たち。


 それらが一本の線で繋がっていく。


「じゃあ……名簿に名前が戻ったら、どうなるんだ?」

 陽翔が呟く。


 澪は答えなかった。

 ただ、廊下の奥で笑う少女たちを見つめていた。


 その笑い声が、ふいに止まった。


 全員が、同時にこちらを向いた。


 影のような顔のまま――。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ