第21話 『21階層へ』
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ミニゲームは、その他の参加者も堪能し終えた。
ポンポンと自発的に跳ねるボールに追い掛け回される者。
バスケゴールに引っ掛かって泣き叫ぶ者。
……間違いなく『堪能』しただろう。
なので――
『参加者はみんなスポーツの楽しさに目覚めました。クエスト達成。
21階層が解放されます』
「ようやくか」
「人数多すぎ!」
陽翔と澪が息を吐いている。
200人を10人で仕切るのは大変だったようだ。
「運動会のほうがマシだったっすね」
「ホント、それ」
運動会はチーム戦だったので、ある程度チーム内の世話焼きさんに任せられた。
今回のように一人一人相手にするよりはマシだったのだ。
「30階層は—―」
「言うな。ついてから考えろ」
とにもかくにも、21階層への扉は開いた。
開いたはずだ。
再び、探索者の本分、ダンジョン探索に戻れる。
「どこから降りるんだ? お好み焼き屋の地下倉庫か何かか?」
陽翔が何気に問うが、予想は外れた。
マップに記載された『扉』の位置は、少し遠かった。
◇
「マップによると、こっちですけど…って――」
「……楽しそうっすね」
呆然とする澪。
面白くないですって顔で笑う朔也。
どこにでもありそうな、古びた倉庫の中だった。
目の前には闇に向って螺旋を描く滑り台があった。
「滑り降りろって…ことだろうな」
何か他の解釈はないかと探す素振りの陽翔。
だが、『他の解釈』を思いつくことはできなかった。
「朔也、行って!」
「俺っすか?!」
「滑り台は、あなたの担当でしょ?!」
「そんなのいつ、誰が決めたんすか?! 俺、知らねっすよ!」
朔也の抗議を澪は眉一つ動かさず聞き、口を開いた。
「さっき、私が決めました」
「……」
真顔の澪に気圧され、言葉が出ない。
「強く生きろ」
ポン、と肩に手を置いて、魔法使いも真顔だった。
「行くっすよ、行けばいいんでしょ。こんちくしょう!」
やけっぱちになって、朔也が滑り台の端に座った。
そして――
「ぬを――! 思った以上に急っす。先が闇なの、めっちゃコエ―!」
滑り降りていった。
・
・
・
「スリリングだったわね」
21階層に降り立った澪の第一声が、それだった。
朔也と陽翔を先に滑らせて、安全を確認した上でのことだし、陽翔が下で『ライト』の魔法を使ったため、闇の中に滑っていくというものでもなくなっていた。
アトラクションとして楽しめたらしい。
「ズルいっす! ズルすぎっす!」
朔也が抗議しているが、華麗に無視だ。
「さて、今度は何が出るのかしらね」
学校の備品が学用品。
武装した虫ときた。
次は何が出るのか。
「無視されたっす! 危険なところに放り出したうえに、言論封鎖っす! 時代錯誤っす!」
「うるさい!」
騒ぐ朔也を一喝して、澪は陽翔に視線を向けた。
メンバー全員が到着していた。
「よし、進むぞ」
ヤレヤレという顔で、陽翔が進み始め、すかさず澪が続く。
朔也は魔法使いに肩をポンポンされて、慰められていた。
「いや! 慰めになってないっす」
「しつこい!」
澪の投げたクリームパンが朔也の口をふさいだ。
「おまえら! しっかりっすよ!」
秒で立ち直った朔也が号令をかける。
口の端に、クリームが付いたままだった。
21階層。
内装は変わらず。
木の香りがする木造校舎だ。
ただ——
「少し暗くなったか?」
「窓が小さくなっているわね」
壁の上側に半分ほどが窓、そんな廊下だったのだが、天井の下20センチくらいが、板壁となっていた。
その分、窓が小さくなっている。
「板の色も濃いっすね。上が建てたばかりだとすると、この辺のは10年くらい経った感じの色っす」
辺りを観察して朔也が言う。
「より深みに入ったってとこか?」
「実際、そうだしね」
ダンジョンの階層を降りている。
深みに入るとは言い得て妙だった。
廊下はまっすぐだ。
時折、右か左、または左右に直角に曲がっている。
左右の壁は窓があるだけでなく、教室もあった。
だが――
「開かないっすね」
鍵なんてなさそうな引き戸だが、どれも開くことはなかった。
「中は普通の教室に見えるんすけどね」
幻というわけでもなさそうだと、朔也が呟く。
「開けるには、なにか条件が必要なのかもしれないわ」
「10階層の生徒会室分室みたいにか?」
あれも、生徒会としてクエストを受けるまでは、入れなかった。
「たぶんね。ありそうなのはスタンプラリーのスタンプかしら?」
「ああ、それか。俺たちは生徒会ってことで、その辺が免除されてるっぽいからな」
先へどんどん進めているのは、そういうことなのだろう。
自分たちの役目的には好都合だったが。
『生徒会ルート』とでもいうべきルートに乗っている気がしていた。
「え? なにか聞こえなかったか?」
先頭を進んでいた陽翔が、足を止めた。
「風?」
耳を澄ませた澪が首を傾げる。
かすかに空気を裂くような音が聞こえてきていた。
「す…リボン?」
それは、セーラー服のリボンだった。
くるくると回転しながら飛んでくる。
キィーン!
音にならない音が響いた。
高音域の超音波だ。
「状態異常か?!」
耳を抑えて叫ぶが、それでどうにかなるものではない。
「『フレアバレット』!」
複数の火弾が迎え撃つ。
「!」
一発掠めた。
バランスを崩して揺れている。
「『フレアバレット』!」
2発目。
今度は直撃している。
パッと燃え上がり灰になった。
「よし! よくや……」
見事な反応を見せた魔法使いを褒めようとして、陽翔が硬直した。
杖がまだ動いていた。
まだ何かを狙っている。
そして、それは——
「ちょ! ま、待つっす!?」
朔也だった。
「『フレアバレット』!」
三度目の魔法がハッキリと朔也に向けて放たれた。
不意を突かれた朔也は避けられなかった。
全弾をもろに受けてしまう。
「朔也!? くっ、惜しい奴を亡くした」
陽翔ががっくりとうなだれる。
横では呆れ顔の澪が魔法使いに、状態異常解除の魔法を放っていた。
「か、勝手に殺すなっす! こんなとこで死ねねぇっすよ!」
大盾を構えた朔也が声を張り上げた。
「チッ」
陽翔が舌打ちをする。
もちろん、防げているとわかったうえでのからかいだ。
不意打ちだったとはいえ、防げないとは思っていなかったのだ。
そこは、信用がある。
「は、わ、私は…何を?」
我に返った魔法使いが、茫然としている。
「朔也を殺しそこなったのよ」
澪が肩をすくめてみせる。
「……そうか、失敗か」
理解した魔法使いが無念そうだ。
「やる気だったんすか?! ひでぇっす!」
朔也が構えたままの大盾を、魔法使いに押し当てた。
「熱い!」
「あんたの魔法のせいなんすから存分に味わうといいっす!」
「大人気のない奴だな」
ヤレヤレと首を振る。
「幻覚に踊らされたやつに言われる筋合いないっす!」
二人の言い合いが続く。
「はいはい、そこまでよ」
パンパンと手を叩いて澪が割って入った。
「この階層では、精神攻撃もあるみたいね。みんなそのつもりで備えてちょうだい」
幻覚にかからないように、かかった仲間に不意を撃たれないようにということだ。
パキャン!
なにか、軽い音がした。
目を向けると陽翔が剣先を床に突き立てていた。
「コンパクト?」
剣先には何かが突き刺さっていた。
二枚貝のような形だ。
「『海』系ダンジョンにいたモンスターに似ているわね。あっちはデカい貝だったけど」
「コンセプトは一緒だろう。ともかく階層が変わって、モンスターの危険度も上がった。それは間違いないだろう。気を引き締めて進むぞ」
「はい」
心のギアを一つ上げ、彼らは再び歩き出した。
さらに、奥へ。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




