第19話 『美術部降臨』
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第19話 『美術部降臨』
生徒会に遅れること半日。
20階層へ到着したのは美術部だった。
生徒会——もとい、先行チームの『フロアボス討伐』の一報を受け、今なら通り抜けられると踏んでのことだった。
「手が痛いよー」
21階層へ降り立った途端、悲痛な声があちこちから漏れた。
「ケガしたの?!」
治療を!
澪がヒーラーとポーションを用意して駆け寄った。
「ク―キー帳を一冊使い切るまでデッサン耐久って…バカじゃないの?!」
「剣がまともに触れなくてハラハラしたぁー」
利き手をフリフリしながら、不満を口にしていた。
「は?」
デッサン?
「クエストがあったの! 何枚も、何枚も!」
「果てしなかったわ……」
「ネバーよ、ネバー!」
口々に訴えてくるが…。
「えーと、とりあえずケガはしてないのね?」
「ケガよりヒドいんだ! ポーションが効かないんだから!」
「腱鞘炎なんて何年ぶりかしら?」
全員が手をブラブラさせている。
「……」
澪の目がすっと細くなった。
「ずいぶんな余裕ね。…これなら遠慮はいらないわよね!?」
低い、低すぎる声が出た。
そばにいた生徒会メンバーが、そっと距離をとった。
雰囲気の変化に美術部も気が付いた。
「え?」
「な、なに?」
手を振るのをやめ、真剣な顔をして見せる・・・・・・が遅かった。
「楽しい、楽しい、イベント会場へ案内するわ。存分に味わってちょうだい!」
来たばかりの美術部を追い立てていくのだった。
「え?」
「え―?!」
◇
「あー、つまり、アレね? 球技大会にかこつけて、文化部にも運動させようという学校の『いらない親心企画』だ」
生徒会の説明を受けて、美術部の部長が真っ平らな声を出した。
学生時代が思い浮かべられる。
体力バカには魔法特性、魔法バカには体力向上。
本来の特性とは逆の特性を伸ばすようなカリキュラムを勝手に組んでくる。
余計なお世話ではあるが、探索者として生死の係る場面に立つと、それで生存率が上がることもしばしばあるので否定もできない。
「で、何にする?」
用意したイベント全部回れとは言わないし、そんな必要もない。
どれか、一つでも参加してもらえれば体裁は整う。
「もう、しばらく手を使いたくない……!」
美術部の誰かが、泣きそうな声で訴えた。
デッサン耐久で酷使した手首を押さえながら、全員が同じように首を縦に振っている。
「じゃあ、これしかないわね」
澪が指さしたのは、サッカーゴールの前に設置された『キックターゲット・チャレンジ』の看板だった。
的がいくつも貼られ、しかも微妙に揺れている。
風は吹いていないのに。
「足なら……足ならいける!」
「足はまだ元気!」
「足は裏切らない!」
美術部のテンションが妙な方向に上がっていく。
手を使わないという一点だけで、彼らはすでに勝利した気分だった。
「じゃ、次の方どうぞー」
生徒会の呼びかけに、最初の美術部員が前に出る。
利き手をぶらぶらさせながら、まるで“手を使わないこと”を誇示するように。
「見てなさいよ……! 足技の美術部って呼ばれるんだから!」
勢いよく助走をつけ、ボールを蹴り上げる。
その瞬間、的がスッと横にずれた。
「えっ」
ボールは虚しく空を切り、ゴール横のネットに突き刺さった。
「動くの?! 的、動くの?!」
「聞いてないんだけど?!」
「学校のくせにフェイントかけてくるのやめて!」
後ろで見ていた美術部が一斉に悲鳴を上げる。
「次の方どうぞー」
淡々とした生徒会の声が響く。
逃げ場はない。
「う、うそでしょ……」
「でも手よりマシ……手よりは……!」
震える足で次の美術部員が前に出る。
的はゆらゆらと揺れ、まるで“挑んでこい”と言わんばかりにこちらを見ていた。
「いくわよ……! 足にすべてを賭ける!」
蹴った。
今度は的が上下に動いた。
「なんで動くのよぉぉぉ!!」
悲鳴が球技場に響き渡る。
こうして、美術部の“手を使わない挑戦”は、
別の意味で過酷な戦いへと突入していくのだった。
「みんな、難しく考えすぎるのよ。こんなものは、こうすればいいの!」
腕組みをして見守っていた紗理奈が前に出た。
ぱかん!
間の抜けた音とともにボールが蹴られた。
狙いはつけず、完全に適当にけっている…のに!
的が自らボールの前に移動していた。
狙って蹴られる前提で、向けられたと同時に移動する仕様だったのが災いした。
見事に、的のど真ん中。
高得点が叩き出された。
「運も実力・・・か」
生徒会の一人が、思わずうなる。
「……なんか、カルマと気が合いそうね。あの子」
呟く女子美術部員の顔の前で、舌が輪を描いていた。
「どう思う?」
隣に立つ『名前を知らない女』に声をかけた。
表情もなく、ただ立っている。
「……」
声をかけられた!
うれしそうな表情。
だけど、コントラストのない目が向けられた。
普通なら引く場面だろうが、『薫』は気にしない。
『彼女』はある意味、自分の同類だ。
「あのお方とは面識がありませんし、わかりませんわ。ですが……思想は似通っているのかもしれませんわね」
重々しく頷く仕草は、どこか古めかしい。
両手を体の前で揃えたまま、背筋をぴんと伸ばしている。
その視線の先では、『今時』の女の子たちがスカートのまま大きく足を振り上げていた。
彼女は小さく眉を潜める。
「ただまあ……あれは、少しはしたないと思いますわ」
そっと囁きながら、反対側にいる『男性』との距離を気にしていた。
『彼女』には、『手を伸ばせば届く距離』がすこしだけ、近すぎると感じるようだ。
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