第18話 『購買部』
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20階層は、10階層同様に広々とした空間が広がっていた。
『たこ焼き屋』などの屋台があることも変わらない。
ただし…
「やったっす! 購買部があるっす!」
平屋建ての建物に大きく『購買部』と書かれている。
「ほ、本当にあったとは……」
澪が絶句している。
「焼きそばパン!」
「カレーパン!」
とりあえず、駆け寄る朔也と陽翔。
他のメンバーも興味津々だ。
もちろん、澪も品揃えは気になるところだ。
「焼きそばパンはなかったっす!」
うなだれる朔也。
「カレーパンもな」
陽翔も残念そうだ。
「あったのはクリームパンだけだ」
「クリームパンください!」
「え?」
「エ?」
二人の間に割って入り、素早く『クリームパン』を購入する澪。
メンバー全員の視線が集まる中、おいしそうにほおばっている。
「濃い目に淹れたコーヒーが欲しいわね」
食べ終えて満足そうに息を吐く。
「あーっとっす」
「コーヒーは確かに欲しいかもな。うん」
ちょっとビミョーな空気が流れた。
「そ、それはいいとして……」
『パン』以外の販売品目を確認していく。
「これ…は」
澪の目が険しくなる。
「どうした?」
後ろから覗き込む陽翔。
「目につくようなものはないようだが?」
どこのダンジョンでも手に入るようなものばかりなのだ。
「そうね。一つ一つを見れば、そう評価されるでしょうね。重要なのは、その『すべて』がここで買えるってことよ!」
どこででも手に入るものばかりではある。
だが、一つ所で手に入るものではなかった。
各種『テーマ』の『どれか』では手に入るのだが、『山』がテーマのダンジョンで『海』のものは得られない。
逆もしかりだ。
なのに、ここでは『テーマ』別にカテゴリー分けされて、並べられている。
迷宮通貨さえあれば、いつでも、どれでも、買うことができる。
これは、画期的なことだった。
「ですが、どれもレア度が低いですよ?」
魔法使いの指摘にも、澪は首を振った。
問題にならない、と。
「ここはまだ20階層。深く潜ればレア度も上がるかもしれないですね」
初日以降、ほとんど空気だった女が口を開いた。
真剣な顔で販売品目のリストを凝視している。
「そういうことになるわ。このダンジョン。とんでもなく効率がいいかも!」
ダンジョンからの採取物が世界を回している現代社会で、この効率の良さは無視しえないものがある。
「中層から深層がどうなっているかによっては、生産性の高いダンジョンとして高評価できるかも」
国として探索者を動員して、採取に当たらせる重要拠点となりえる。
女の目の色が変わっていた。
世界経済に変化をもたらすかもしれない事態となっていたのだ。
日本国内だけで、資源が手に入るなら――
いくつかの国の横暴に対抗できる可能性が出てきた。
今回の調査には大きな意味が出てきた。
「他には何があるのかしら?」
『購買部』を出て、澪が周囲を見回した。
20階層。
ダンジョンの節目となる階層である。
他にも何かあるのか、ないのか。
「また、運動会ってことはないだろうな?」
「あるかもね」
不安そうな陽翔に澪が肩をすくめてみせる。
そこへ、朔也が声を張り上げた。
「お好み焼き屋があるっすよ!」
とりあえず、腹ごしらえが先らしい。
苦笑して、メンバーは朔也を追いかけるのだった。
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【クエスト『運動部が主役。球技大会を成功に導け!
報酬:21階層への扉・期限なし】
「……出たな」
「出たわね」
お好み焼きを食べ終え、手鏡で口の中の青のりチェックをしていた澪が溜息を吐く。
ある程度、予想はできていたが『やっぱりかい!』という気持ちは抑えられなかった。
「また、生徒会室分室へ集合なのね」
手鏡をしまいながら、呟いた。
そこへ——
「ヘンなのが出たっす!」
トイレに行っていた朔也が素っ頓狂な叫びとともに戻ってきた。
「変なのはあんたの声と顔で十分よ」
「ひでぇっす!」
朔也が全力で抗議した。
「今に始まったことじゃねぇことを掘り返さねぇでほしいっす!」
「……ああ、そうね。悪かったわ」
「そんなことより、あそこっす! 階段のとこ!」
変な顔扱いされたことをさらりと流して、店の奥を指差した。
「何があるのよ?」
「貼り紙っす! 生徒会御一行様っていう立て看板があって、二階に矢印が向いてるっす!」
「……今度は二階を使えってことか……」
「なんで、こうビミョーにリアルなの……」
額に手を当てて、脱力する澪だった。
「え―っと…」
二階のお座敷に移動してテーブルを囲む。
「球技大会…か」
苦いものを飲んだような顔で、陽翔がプリントをめくる。
野球、バスケ、バレー、卓球、テニス…そしてサッカーが載っていた。
「どうしろと?」
各会場で試合があるらしいが『生徒会』に何をしろというのか?
そのあたりがよくわからない。
「『生徒みんなで壮行会。参加型のイベントで一体感を!』となっているな」
行われる球技にちなんだミニゲームをして、選手以外にも興味を持ってもらおう…ということだった。
「やっぱりかい!」
全員でツッコんだ。
結局、みんなで何かしましょうってことだった。
運動会と大差ない。
「あ、でも、ほら、今回はグループじゃなく個人っすよ!」
「それだけが救いよ」
全員に順序良く参加してもらえば格好がつくのだ。
個人だから、全員が揃うのを待つこともない。
20階層に降りてきた者から、参加させていける。
そこは楽だ。
壮行会は全員が揃ったところで行い、そのまま各試合へ進む。
「足止めを食らうことになるが、これもやれそうだな」
クエスト達成は確実だと陽翔は胸を撫で下ろした。
「そうっすね。焼きそばを食べ放題っす!」
足止めされている間は食道楽だ!
朔也が喝采を叫び、澪の肘打ちをもらって悶絶している。
「交代で20階層の入り口を見張ろう。誰か来たら強制的にイベント行きだ」
「そうなるわね」
「ういっす」
方針は固まった。
20階層、球技大会が開催される。
『誰か』の望み通りに。
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