第17話 『幕間と試験』
2/3
◇カルマ視点◇
「食いついてくれましたね」
野球部が、『マネージャー』商法に乗っかっている。
ウインドウを確認していた悠が、拍手して跳ねた。
カエルではもうないはずだが、クセになってしまっているようだ。
「ありがちな手法だけど、ありがちになるだけの効果があるってことだからね」
販促用のキャラものを配って、リピート率を上げる。
そうだとわかっていても、集めたい気持ちが影響して、他に行ってもいい場面で『ここ』へ来させる。
この行動心理を、カルマは探索者をダンジョンに留めることに利用しようとしていた。
「楽しすぎて帰ることを忘れないといいな?」
ニヤリと笑う。
カルマが少しだけ黒かった。
「美術室では、新しい『肖像画』が描かれていますね」
曾根崎志乃が、腕をさすっている。
彼女の本性は『達磨』。
本来は手足がない。
今ついている腕は元美術部員の妖怪『腕だけ』だ。
「自分を絵にする…それが『自画像』を描くってことさ」
「そうだけど…、そうじゃない気がするわ」
首を振りはしたものの、志乃は『絵』の展示場所をどこにしようかと悩み始める。
◇その頃の『生徒会』視点◇
試験が始まって、すでに三十分以上が経っていた。
教室には、紙をめくる音すらほとんどない。
鉛筆が走る微かな擦過音だけが、一定のリズムで空気を震わせている。
生徒たちは皆、前のめりになって問題用紙に食らいついていた。
焦りではなく、追い詰められた静けさ。
“解けるところはもう解いた”という空気が、教室全体に満ちている。
時計の秒針が、やけに大きく聞こえる。
その音が、残り時間を削り取っていくようだった。
監督役の教師は教壇に立ったまま、微動だにしない。
瞬きすらしていないように見える。
その存在が、かえって緊張を増幅させていた。
誰かの鉛筆が一瞬止まる。
その静止が、教室全体の空気をさらに重くする。
次の瞬間、別の誰かが答案用紙を裏返す音が響き、
その“音”がまるで合図のように、他の生徒たちの手が一斉に速く動き始めた。
佳境だった。
あと少しで終わる。
だが、その“あと少し”が永遠に続くような圧迫感があった。
窓の外の光は変わらないのに、教室の空気だけがじわじわと濃くなっていく。
まるで、試験そのものが生徒たちの集中を吸い上げているかのようだった。
「こんなのやってられねぇっす」
朔也が机に突っ伏した。
生徒会の彼らは今、19階層の最奥と思しき場所にいた。
そして――おそらくは卒業試験だろうテストに臨んでいる。
国語から始まってすでに四教科目。
科目は数学。
ここで、朔也に限界が訪れていた。
体力勝負の彼は、筆記試験が大の苦手なのだ。
学生時代も、力で押しのけてきた――実技で成果を上げることで免除を受けられる制度があり、これを取得するのに死に物狂いで頑張った――のだ。
探索者として認められてからは、報酬の受け取り時にサインをする以外でペンを持つことすらなかった。
そんな彼に筆記試験の連続など耐えられるものではなかったのだ。
「剣でこいっ!」
ダン!
解答用紙にナイフが叩き込まれた。
時代を感じさせるレトロな勉強机に直角に突き立つナイフ。
光を反射して輝く姿が不穏すぎる。
「朔也!」
驚いた澪が、慌てて声を上げるが、どうなるものでもない。
こんなことをして、何が起こるのか・・・。
時間が止まりでもしたように、動きが止まり、音が消えた。
直後、解答用紙が舞い上がり、会場が揺れた。
そして――
「なんだ。それでいいのか」
拍子抜けしたように陽翔が呟く。
目の前に巨人が立っていた。
『20階層入学試験会場』と書かれた大きな木板を首から下げた――『ウッドゴーレム』とでもいうべき相手だ。
正式には『試験官大入道』という妖怪なのだが、探索者にはウッドゴーレムのほうがなじみ深い。
もちろん敵として、だ。
わかりやすい反応にメンバー全員の顔が輝いた。
『ぶちのめしていいんだ!』という安堵だった。
「クっ! 正規のルートで進みたかったのに!」
杖を抜きながら澪が叫ぶ。
「これだって、正規ルートっすよ! ……たぶん!」
解放感からか、思いっきり笑顔の朔也が答える。
試験(物理)が始まった。
木の巨人が粉々になるまで、時間がかからなかったことは言うまでもない。
「20階層入学っすよー!」
20階層が解放された。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




