第15話 『スポーツこんにゃく』
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第四チェックポイント。
野球部は12階層のグラウンドにいた。
11階層のクエスト後、彼らもバスケやバレー部同様にシャワーを浴び、
食事をとって就寝してからの登板だ。
「誰かいるな?」
「角が生えている気がしますね」
部長の呟きに、副部長が答える。
“気がする”は逃避だ。
「金棒……じゃなくてバット持ってますね」
待ち構えていたのは、ガタイのいい鬼たち。
バットを背に立つ姿は迫力がある。
「あ。俺、わかったかも」
「俺も」
二人が同時に「うわー」という顔をする。
「な、なんだよ!」
部長が答えを急かす。
「昭和の野球漫画名物、『鬼の千本ノック』ではないかと……」
嫌なのか、楽しみなのか判然としない声だった。
「あー……」
部長がげんなりする。
「間違いなく、それだな」
部員たちがグラウンドに入ると、
システムチャットが流れた。
【クエスト:『野球部の洗礼。先輩たちのノックに耐えきれ』】
予想通りの展開。
苦笑いが広がる。
「なんというか、ようやく“ダンジョン”ぽくなってきた気がするな」
痛くて苦しいことが始まるのだ。
「お願いします!」
鬼の先輩たちに一礼。
* * *
『千本ノック』。
昭和の野球部では“洗礼”として知られた練習だ。
捕っても捕れなくても休みはない。
息が上がろうが、膝が笑おうが、容赦なく次の打球が飛んでくる。
千本というのは比喩だが、体感では本当に千本以上。
逃げ場のない体力勝負であり、精神力の試練。
昭和漫画では“鬼の千本ノック”として描かれ、
先輩や監督が鬼の形相でバットを振り続けるのが定番だった。
痛くて、苦しくて、終わりが見えない。
だが、それを乗り越えた者だけが“野球部の一員”として認められる。
ギリギリで取れない球に飛びつき、
バウンドした球が足や胸に当たる。
汗に濡れ、泥にまみれ、走る、跳ぶ。
精神と体力が極限まで削られていく。
「よ、ようしゃねぇな」
「先輩たちは鬼っすから」
「——逆だろ。鬼が先輩役をしてるんだ」
冷静なツッコミもあったが、
そんなことはどうでもよくなっていた。
ただ、飛んでくる球を追う。
——どのくらい続けただろうか。
【クエスト達成要件を満たしました。
報酬:『マネージャー』獲得。ベンチから応援してくれます】
「はい?」
全員がベンチを見る。
そこには“誰か”がいた。
黒い影のような人型が、一生懸命に手を叩いたり振ったりしている。
「声は出ないらしい」
「まぁ、影にしか見えませんしね」
不可思議な報酬だが、チェックポイントは突破したらしい。
彼らは次の場所へ移動を開始した。
モンスターと遭遇しつつシャワールームへ。
そこから食堂へ向かう。
そして――新たなルートを発見する。
食堂のメニューに『マネージャーの運動靴』が載っていたのだ。
「これは……」
「マネージャーをグレードアップしたいなら集めろ、ってことだろ?」
それ以外の解釈はない。
「手に入れたら最後、コンプリートするまで止まれない罠か?!」
食玩、ガチャ、コレクタービジネス。
典型的な“沼”だ。
「用具ならともかく、『マネージャー』ってのが……」
「えげつなく、コレクター欲を刺激してきますね」
影とはいえ、明らかに人型。
おそらく女性。
抑制が効きにくい。
事実、部員の一人が速攻で買いに行った。
「買ってきましたけど……マジでえぐいです!」
戻ってきた部員が運動靴を掲げる。
一見、普通の女性用運動靴。
「これです」
突き出されたのは――
「カタログ?」
カタログだった。
そして。
「ぐっ……そういうことか……」
全員が納得してうめく。
ラインナップには
『キュートな垂れ目』
『クールな吊り目』
『猫口』
など、人体パーツが並んでいる。
オプションで
『泣きボクロ』
『エクボ』
なんでもある。
服も運動着から制服、私服まで揃っている。
つまり――
**好みの“マネージャー”を作れる。**
「だけじゃないです。ここ、見てください」
紹介文には
『ステータス上昇』
『スキル』
の文字。
「ま、まさか?」
予想は当たっていた。
選ぶアイテムによって能力が変わり、
応援だけでなく、声援、走り、打撃などの強化が可能。
服装によっては、食堂で給仕、宿でマッサージまでしてくれる。
「あ、あざとい!」
しかも――
「人間っぽいのに人間じゃない。
明らかな“キャラクター”ってのが絶妙すぎる!」
手足が妙に細長い、あるいは大きく短い。
目が顔の三割を占めるほど大きい。
アニメキャラのような見た目になるらしい。
リアルすぎず、マスコットにしては表情が豊かすぎる。
そんな絶妙な存在。
育成ゲームが立体化し、
しかも役に立つ。
これは育てずにはいられない。
「俺たちに何をさせたいんだ? このダンジョンは!?」
誰かが叫ぶ。
「……」
全員が頷いた。
誰もが口に出しかけていた言葉だった。
「楽しませてくれているのは、確かだけどな」
部長がしみじみと言う。
もう何年もなかった。
忘れていた“楽しい”が、このダンジョンにはあった。
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