第9話 『戦闘・活動』
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蜂が飛んできた。
「いや、蜂じゃねぇだろ!」
陽翔が剣を振りながら叫ぶ。
接近してきた“蜂”には――腕があった。
頭部、胸部、腹部。
体の構造は確かに虫だ。
全長一メートル半ほどの巨大蜂。
だが、腕だけが“人間の腕”になっている。
六本の腕すべてが剣を握り、
その背後には、腕のない一回り小さな蜂の群れが続いていた。
彼らは知る由もないが、
ランクCの虫+武器妖怪に、ランクGの人間を宿主にして生まれた“虫妖怪”だった。
「フレアバースト!」
澪の杖が赤く輝き、炎が放たれる。
「あっつ! 熱いって、かげんしろ!」
最前列の朔也が怒鳴るが、澪は冷たい。
「何のための大盾よ。しっかりしなさい!」
羽虫を焼くためなら、この程度の熱量は当然だ。
ガタガタ言うな。
軽く睨まれ、朔也は肩をすくめた。
「驚かされたが……11階層なら、この程度だな。問題ない」
陽翔は冷静に評価する。
床に突き刺した剣先で、蜂が灰になる。
ドロップしたのは――迷宮通貨。
「味気ないとも思うが、わかりやすいな」
「そうね。システムとしては合理的だわ」
何が落ちるか確認する手間がない。
ただ通貨を貯めていくだけ。
「使い道が、たこ焼きだけじゃなければ、だけどな」
「階層の中層あたりに店があることを祈りましょう」
「きっとあるっすよ! 購買部で幻の焼きそばパンを買うっす!」
「いや、幻はカレーパンだろ?!」
朔也のボケに、陽翔が即ツッコミ。
「どっちでもいいでしょ!」
澪がぶった切った。
「でも、ここまで“学校”を押してるなら、購買部はあるでしょうね。探索目標に入れておきましょう」
「焼きそばパン、絶対見つけるっす!」
「カレーパンもな!」
「あーはいはい。がんばりなさい」
彼らは空気の中に、ソースとカレーの匂いを探しながら進んだ。
* * *
◇ 奉仕活動組 ◇
奉仕活動組が、みずほと名乗った案内人に連れられて行った先は――草地だった。
農地に変えようとしているらしい。
すでに十数人が黙々と“手”を動かしている。
「うわ……」
「マジかよ」
「ダル……」
全員が嫌そうに顔をしかめる。
何をさせられるか、すぐに理解した。
みずほは無言でクワを突き出す。
「あー、やるよ。やりますよ」
「だから柄でつつくなって!」
しぶしぶクワを受け取り、農地に散らされる。
「つちをたがやせー!」
みずほの声が響く。
奉仕活動組は、やむなくクワを振り下ろした。
タイミングはバラバラ。
動きもバラバラ。
「つちをたがやせー!」
声より先に動く者、ワンテンポ遅れる者。
腰の入らない動き、無駄に力む動き。
「つちをたがやせー!」
不平を言う者、達観して黙る者。
手を抜く者、逆に真面目にやる者。
「つちをたがやせー!」
――いつからだろうか。
タイミングが合い始めた。
無用なプライドが削れ、気負いが消え、
誰もが無心になっていく。
ただ、ひたすらに土と向き合う。
気づけば、影は一分の隙もなく連動していた。
元からいた“働き手”たちと遜色ない動き。
影だけを見れば、誰が誰かわからない。
土の上で、黒い人型が同じ動きをしていた。
“誰か”が揃えたように。
「そこにならべー!」
号令に応じて集まる。
元からいた者との境界は消えていた。
「なにすんだ?」
「肥料をまく?」
「あ、それか。肥料ね」
浅型一輪車にたい肥を積み、運んで漉き込む。
「そこまでー!」
片付ける。
「いちれつにならべー!」
再び並ぶ。
「畝づくりだな?」
「畝づくりだぞ」
「畝を作ろう」
列を作り、土を寄せていく。
まっすぐで美しい畝が生まれる。
「つぎのさぎょうにはいれー!」
「種まきだ」
「種まきだ」
「種まきだな……って、なんか、言うこと揃ってきてねぇか?」
「確かに」
揃って頷く。
「同じことしてるしな」
揃って肩をすくめる。
「難しいことはしてない。先読みくらい誰でもする」
「ああ。そうか」
「ああ。そうだ」
「ああ。そうだ」
畑作業はどんどん進む。
影たちは一糸乱れず働き続ける。
みずほは、もう声を掛けなかった。
その必要がない。
ただ、一度だけ唇が動いた。
それは――
「ひきかえせー」
と見えた。
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