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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第8話 『思惑』

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「稼げるね」


 屋台のレジと繋がった穴から、迷宮通貨がぽとり、ぽとりと落ちてくる。

 まるで初詣の寺の賽銭箱のようだった。


「稼いでどうするの?」


 横から覗き込むように声がした。

 わずかな冷気が足元を撫でる。


 冷たい指が、戻ってきた通貨をつまみ上げた。

 小さく、形状は同一。特別な能力はない。


「稼ぐというより、“金を使うことを覚えさせる”のが重要なんだ」


 ドロップさせるのは安上がりで楽。

 売店で回収した後は、カルマ側の財産になる。


 経済が成立すれば、迷宮外の物資を買い込むことができる。

 ダンジョンでは作れないものを“持ち込ませる”メリットがある。

 働かせることも可能になるだろう。

 何をさせるかはまだ決めていないが、できるならいくらでも思いつく。


「迷宮通貨導入は、成功だ」


 カルマは満足げに頷いた。


「それに――」


 ウィンドウを見つめる目に、かすかな笑みが浮かぶ。


「みんなマジメにガンバっててエラいね」


 運動会の結果を受け、探索者たちは各ルート攻略用のパーティを組み始めていた。

 その様子を、カルマは楽しげに眺めている。


「チーム分けに意味があったの?」


 友梨が首をかしげる。


「もちろんあるさ」


 カルマはウィンドウを指差した。


「彼らは今、何をしている?」


「パーティを組んでいるのではないかしら?」


「その通り」


 カルマは頷く。


「つまり、“本来のパーティ”ではなくなったんだよ」


「あっ……!」


 運動会の順位によって、探索者たちは強制的にチーム分けされた。

 その結果、元のパーティはバラバラになり、

 “与えられたルートに合わせた新パーティ”を組むしかなくなった。


 今後の探索は、急造のチームで行うことになる。


「いろんな軋轢が生じることになるね?」


 不満、争い、責任の押し付け合い。

 問題を抱えたまま進むのは――カルマの迷宮だ。


「ここは学校。席替えには“友人関係を広げる”という側面がある」


 新しい出会いを、ぜひ役立ててほしい。

 カルマは本気でそう思っている。

 それは嘘ではない。


 だけど――


「さあ、前説は終わり。ここから本公演の幕を開けるよ。

 お客様のおもてなしを始めよう!」


 * * *


 ◇ 最下位チーム(奉仕活動組) ◇


「奇妙な迷宮だ」


 4位、最下位チームのテントには、だらけた空気が漂っていた。

 パーティを整える気配はない。


 “調査・研究”を役割とする者たちが中心のチーム。

 本来は均等に分けたはずだったが、

 実際にはこのチームだけが偏った編成になっていた。


 地上での立場を盾に、陽翔や澪を従わせようとした者たち。

 その結果が、ダントツの最下位だった。


「でも助かったわ。いまさら現場で魔法なんて唱えたくないもの」


「奉仕活動ルートのおかげで、安全な場所で脳筋どもの成果を待てるわけだ」


「ホントそれ。……何人、生きて帰れるかしら?」


「さてな。全滅でも想定内だ」


 全校レイドの失敗。

 300名近くが消息不明となった事件。

 調査隊全滅も“あり得る”と上層部は考えている。


「俺たちも含めて、だがな」


 虚ろな笑いが広がる。


 探索者は“鉱山のカナリア”。

 子供も大人も、使い捨ての道具。

 それが社会の常識だった。


「始めますよ」


 テントを開けたのは、生徒会の腕章をつけた女。

 外から湿った土の匂いが流れ込む。


 妙に若い。

 だが、誰も気にしなかった。


 スキルで老化が遅れる者もいれば、早まる者もいる。

 見た目と年齢は一致しない世界だ。


 だから気づかなかった。


 呼びに来た“生徒会の女”の名が――

 稲田みずほ。

 死んだはずの探索者の名だということに。


 もちろん、それが妖怪『泥田坊』だなどと考えもしない。


 舞台は整っていく。

 幕はすでに開いている。

 演者たちが気づかぬままに。


 * * *


 ◇ 生徒会メンバーたち ◇


「これか?」


「そうみたいね」


 11階層の入口は、生徒会室分室の床下にあった。

 テーブルをずらし、床板を跳ね上げると階段が現れた。


「これ、前からあったと思う?」


「いや、それはないっす。あったなら絶対気付いてるっす」


 朔也が断言する。


「条件をクリアしないと道が作られないタイプか。厄介だな」


 毎度、毎度。

 何かしらクリアしないと進めない。


「ボスを倒せばいい、ってわけじゃないのね」


「だが、ともかく今回はクリアした。先へ進む。それだけだ」


「そうね。行きましょう」


 カツン、カツン。


 硬い足音を響かせながら、階段を下りていく。


 11階層。

 内装は変わらず木造校舎。

 板敷の廊下が続く。


 ヴヴヴヴヴ。


 前方から音がした。


「聞き覚えがあるな」


 陽翔が剣の柄に手を置く。


「虫の羽音ね」


 澪が杖を抜く。


「ようやくダンジョンらしくなってきたっすね!」


 朔也が大盾を構え、前へ出た。


 ――まともな戦闘が始まる。



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