第8話 『思惑』
2/3
「稼げるね」
屋台のレジと繋がった穴から、迷宮通貨がぽとり、ぽとりと落ちてくる。
まるで初詣の寺の賽銭箱のようだった。
「稼いでどうするの?」
横から覗き込むように声がした。
わずかな冷気が足元を撫でる。
冷たい指が、戻ってきた通貨をつまみ上げた。
小さく、形状は同一。特別な能力はない。
「稼ぐというより、“金を使うことを覚えさせる”のが重要なんだ」
ドロップさせるのは安上がりで楽。
売店で回収した後は、カルマ側の財産になる。
経済が成立すれば、迷宮外の物資を買い込むことができる。
ダンジョンでは作れないものを“持ち込ませる”メリットがある。
働かせることも可能になるだろう。
何をさせるかはまだ決めていないが、できるならいくらでも思いつく。
「迷宮通貨導入は、成功だ」
カルマは満足げに頷いた。
「それに――」
ウィンドウを見つめる目に、かすかな笑みが浮かぶ。
「みんなマジメにガンバっててエラいね」
運動会の結果を受け、探索者たちは各ルート攻略用のパーティを組み始めていた。
その様子を、カルマは楽しげに眺めている。
「チーム分けに意味があったの?」
友梨が首をかしげる。
「もちろんあるさ」
カルマはウィンドウを指差した。
「彼らは今、何をしている?」
「パーティを組んでいるのではないかしら?」
「その通り」
カルマは頷く。
「つまり、“本来のパーティ”ではなくなったんだよ」
「あっ……!」
運動会の順位によって、探索者たちは強制的にチーム分けされた。
その結果、元のパーティはバラバラになり、
“与えられたルートに合わせた新パーティ”を組むしかなくなった。
今後の探索は、急造のチームで行うことになる。
「いろんな軋轢が生じることになるね?」
不満、争い、責任の押し付け合い。
問題を抱えたまま進むのは――カルマの迷宮だ。
「ここは学校。席替えには“友人関係を広げる”という側面がある」
新しい出会いを、ぜひ役立ててほしい。
カルマは本気でそう思っている。
それは嘘ではない。
だけど――
「さあ、前説は終わり。ここから本公演の幕を開けるよ。
お客様のおもてなしを始めよう!」
* * *
◇ 最下位チーム(奉仕活動組) ◇
「奇妙な迷宮だ」
4位、最下位チームのテントには、だらけた空気が漂っていた。
パーティを整える気配はない。
“調査・研究”を役割とする者たちが中心のチーム。
本来は均等に分けたはずだったが、
実際にはこのチームだけが偏った編成になっていた。
地上での立場を盾に、陽翔や澪を従わせようとした者たち。
その結果が、ダントツの最下位だった。
「でも助かったわ。いまさら現場で魔法なんて唱えたくないもの」
「奉仕活動ルートのおかげで、安全な場所で脳筋どもの成果を待てるわけだ」
「ホントそれ。……何人、生きて帰れるかしら?」
「さてな。全滅でも想定内だ」
全校レイドの失敗。
300名近くが消息不明となった事件。
調査隊全滅も“あり得る”と上層部は考えている。
「俺たちも含めて、だがな」
虚ろな笑いが広がる。
探索者は“鉱山のカナリア”。
子供も大人も、使い捨ての道具。
それが社会の常識だった。
「始めますよ」
テントを開けたのは、生徒会の腕章をつけた女。
外から湿った土の匂いが流れ込む。
妙に若い。
だが、誰も気にしなかった。
スキルで老化が遅れる者もいれば、早まる者もいる。
見た目と年齢は一致しない世界だ。
だから気づかなかった。
呼びに来た“生徒会の女”の名が――
稲田みずほ。
死んだはずの探索者の名だということに。
もちろん、それが妖怪『泥田坊』だなどと考えもしない。
舞台は整っていく。
幕はすでに開いている。
演者たちが気づかぬままに。
* * *
◇ 生徒会メンバーたち ◇
「これか?」
「そうみたいね」
11階層の入口は、生徒会室分室の床下にあった。
テーブルをずらし、床板を跳ね上げると階段が現れた。
「これ、前からあったと思う?」
「いや、それはないっす。あったなら絶対気付いてるっす」
朔也が断言する。
「条件をクリアしないと道が作られないタイプか。厄介だな」
毎度、毎度。
何かしらクリアしないと進めない。
「ボスを倒せばいい、ってわけじゃないのね」
「だが、ともかく今回はクリアした。先へ進む。それだけだ」
「そうね。行きましょう」
カツン、カツン。
硬い足音を響かせながら、階段を下りていく。
11階層。
内装は変わらず木造校舎。
板敷の廊下が続く。
ヴヴヴヴヴ。
前方から音がした。
「聞き覚えがあるな」
陽翔が剣の柄に手を置く。
「虫の羽音ね」
澪が杖を抜く。
「ようやくダンジョンらしくなってきたっすね!」
朔也が大盾を構え、前へ出た。
――まともな戦闘が始まる。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




