第7話 『運動会』
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運動会プログラム1:入場行進。
特設運動会場へと行進する。
白線が引かれたトラックは、どこか懐かしい土の匂いがした。
だが、よく見ると――
土粒が“呼吸するように”わずかに脈動している。
「遠征だ! 隊列を崩すな!」
誰かが叫び、探索者たちは半ば軍隊のように歩調を合わせた。
どこか調子の外れた行進曲が流れ、1、2、1、2……と足が揃う。
曲のテンポは微妙に揺らぎ、
まるで“誰かの記憶の中の音”を再生しているようだった。
「おい、これ……」
「気づいたか?」
「なに? なにかあるの?」
「魔力だよ。トラックに入った瞬間から微弱だけど、下がっている」
足元の土が、じわりと魔力を吸い上げていた。
吸われるたび、土の色がほんの少し濃くなる。
「……確かに。体力勝負と見せて魔力吸収イベントってわけだ?」
「それ“も”あるってことだろうよ」
運動場全域に魔力吸収フィールドが発生していた。
大会中は否応なく魔力を奪われ続ける。
「一日中いて三割減るくらいだろうから問題ないがな」
「そうね。気になるほどではないわ」
探索者たちは慣れた様子で受け流した。
だが、土の下で“満腹そうに”蠢く影があったことを、誰も知らない。
* * *
プログラム2:開会のあいさつ。
生徒会長・陽翔がマイクを握る。
古びた校内放送用のマイクは、触れた瞬間に“脈”のように震えた。
「えー……第一回運動会を開催します。みんなケガのないようにガンバってください」
スピーカーの膜が、まるで“笑っている”ように震えた。
プログラム3:選手宣誓。
「我々は探索者のプライドにかけて――」
宣誓の声が空に吸い込まれ、青空が一瞬だけ“ざわり”と揺れた。
代表者は名前を言ったはずだが、
マイクはそこだけ音を拾わなかった。
まるで、その名前が“存在しなくなる”ことを知っているかのように。
プログラム4:準備体操。
妙に間延びした音楽に合わせて手足を動かす。
テンポが時折ズレ、探索者たちの動きも微妙に乱れる。
「なんだ、この音……」
「大昔の“海藻テープ”じゃあるまいし……」
体操のたびに空気が“軽くなる”。
魔力が吸われている証拠だった。
* * *
プログラム5:魔力ボール玉入れ。
ボールは魔力を注ぐと重さが変わる特殊仕様。
「くっそ、重っ……!」
「魔力入れすぎよ! バカ!」
籠は高く、しかも微妙に揺れている。
揺れ方は一定ではなく、まるで“中で誰かが暴れている”ようだった。
ボールが入るたび、籠の縁が“満足げに”震える。
プログラム6:明日の自分を追い越せ! 100m走。
身体強化・クロックアップ使用可。
スタートと同時に、地面が“跳ね返すように”加速を助けてくる。
「速っ……!」
「地面が補助してる?!」
だが途中で突然“重力が増す”ゾーンが現れ、走者が沈む。
「ぐっ……!?」
「ここだけ重い……!」
走るたびに魔力が吸われ、足跡が黒く染まっていく。
* * *
リレー――バトンが魔力を吸って重くなる。
「おい、これ……さっきより重くねぇか?」
「吸われてるのよ、魔力!」
最後の走者の手に渡る頃には、鉄塊のような重さになっていた。
スプーンONピンポン。
ピンポン玉は“魔力の揺らぎ”に反応して跳ねる。
「おい! 跳ねるなって!」
「落ちたら最初からよ!」
落ちた玉は、地面が“ぺろり”と飲み込んだ。
ダンス対決。
音楽が流れた瞬間、空気が“陽炎のように揺れた”。
影が遅れてついてくる者もいた。
中には“別の動き”をする影も。
長縄跳び。
縄が魔力で浮き、勝手に回り始める。
突然加速する。
「速っ!? ちょ、待っ……!」
縄が足に触れた瞬間、魔力が“ビリッ”と抜けた。
二人三脚。
魔力リンクで足が強制同期される。
息が合わないと、リンクが“痛み”として跳ね返る。
障害物走。
跳び箱が“動く”。
平均台が“揺れる”。
網が“締まる”。
「これ、絶対動いてるだろ!」
「ダンジョンだもの、動くわよ!」
長距離走。
走るたびに景色が微妙に変わる。
空の色すら違う。
「ループしてる?」
「いや……吸われてるだけだ。魔力が」
走者の息が白くなり、魔力が霧のように散っていく。
* * *
閉会式――結果発表。
優勝チーム:『運動部ルート』解放
二位チーム:『運動部に強制割り振り』
三位チーム:『文化部ルート』解放
最下位チーム:『奉仕活動』強制参加(農園整備)
そして、生徒会は別枠扱いで11階層へ進める。
勝敗が告げられた瞬間、空が“ぱちぱち”と光った。
花火のようだが、魔力が弾ける音だった。
光の残滓が四方へ伸び、チームごとに異なる方向を指し示す。
それが、解放されたルートの“入口”。
「……選ばせる、ってわけか」
陽翔が空を見上げる。
順位が高いほど、光の道は複数に分岐していた。
選べるルートが多いということだ。
探索者たちは顔を見合わせた。
運動会の熱気がまだ残っているのに、空気はどこか冷たかった。
迷宮は、“次”を始める気らしい。
* * *
昼食――BBQ。
肉も野菜もひと串、通貨8枚。
「ボロい売買しやがって」
文句を言いつつ、探索者たちは何本も買っていく。
串を焼く炎は、魔力の色をしていた。
食べるたびに、ほんの少し魔力が減る。
「……これ、食っても吸われてねぇか?」
「気にすんな。うまいからいいだろ」
笑い声が響く。
迷宮は、その笑い声を“美味しそうに”吸い込んでいた。
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