第6話 『強制クエスト』
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「データ送信完了。すぐに動くはずよ」
本隊は連絡があれば即応できる体制を整えている。
後追いで調査・確認を行う二陣・三陣は、すでに侵入準備を終えているはずだった。
「ん?」
陽翔がふと目を上げた。
見えない文字を読むような表情になる。
「ああ、“システムチャット”。反応しているわね」
脳内ウィンドウにメッセージが流れた。
『ダンジョン内の生徒数が一定数を超えました。大規模イベントが解放されます』
「人数……そうか。どうりで入学式で椅子がやたら多かったわけだ」
「ある程度まとまった人数が想定されていたのね」
体育館の椅子の数も、屋台エリアの広さも、
“数十〜数百人規模”を前提にしているように見える。
そして、それだけの人数を集めるなら――
通貨の存在にも意味が出てくる。
迷宮通宝は所有者が限定されず、譲渡も可能。
つまり、迷宮内で“経済”が成立しうる。
「経済が動けば物流も増える。物流が増えれば、ダンジョンは活気づく……ってとこかしらね」
活気づけてどうするつもりなのかは不明だが、
迷宮側の意図は確かに感じられた。
* * *
『強制クエスト発生』
「はい?」
「え?」
「なんすか?!」
全員が同時に声を上げた。
ダンジョンからのクエスト。
しかも“強制”。
「クエストが発生するダンジョンはあるが……」
「ボス部屋で死にかけたパーティを助けるために出されるやつね」
通常は“任意”だ。
見捨てて進むこともできるが、その場合は
“ダンジョン内の全員に見捨てた事実が通知される”
という嫌がらせがある。
だが今回は違う。
『生徒会執行部は生徒会室へ集合すること』
「生徒会?」
「生徒会室?」
そのとき、スマホに着信があった。
「……マップが送られてきたな」
「この階層の端っこにあるみたい」
「ああ、なんかプレハブっぽいのがあったっすね。窓にカーテン、ドアは開かなかったけど」
「今なら開くんでしょうね」
「おそらくはな」
行かないという選択肢はない。
どうやら“生徒会”とは、彼ら全員のことらしい。
「ひょっとすると、俺らが入った時点で決まってたのかもしれねぇっすね」
「……人数か?」
「生徒の数が少ないから、問答無用で割り振られたってこと?
なんて民主的なダンジョンなのかしら?!」
澪の憤りに、笑い声が爆発した。
* * *
「開いてるっすね」
プレハブ小屋の引き戸は、あっさり開いた。
工事現場でよく見る簡素な構造。
窓と引き戸がついただけのサイコロ型の建物。
「芸が細かい……」
引き戸の横には『生徒会室分室』と書かれた木札。
魔法使いが呆れたように首を振る。
中に入ると、簡素なテーブルがコの字に並び、
パイプ椅子が無造作に置かれていた。
背もたれには『会長』『副会長』『保健委員』などの札。
「完成度が高すぎるな……」
祭りの会場に設置された簡易事務所そのもの。
その“リアルさ”が逆に不気味だった。
各自のステータス欄には、すでに“委員会”が割り振られている。
『議題:新一年生歓迎イベント。みんなで盛り上げて、絆を深めよう!』
システムチャットが流れた。
ここにいる者たちでイベントを企画し、成功させなければならないらしい。
「くだらない! こんなのテキトーにやればいいでしょ!」
澪は完全に乗り気ではない。
他の者も居心地悪そうだ。
いい歳した大人が“お楽しみ会”など、気恥ずかしい。
『クエスト報酬:11階層への扉』
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「やるしかないらしいな」
陽翔が座り直した。
先へ進むためには必要だ。
「あ、でもこれ! 選ぶだけでよさそうっす!」
朔也が指差したのは、
“進行表”と書かれたイベントプログラム案。
いくつかのパターンが用意されていた。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




