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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第3話 『接敵?』

4/4

 


 廊下を進んでいくと、突然“何か”が立ちふさがった。


「黒い板……黒板か?」


 薄汚れた黒板だった。

 チョークの消し跡がうっすら残り、チョーク棚には粉が積もり、

 ポロリ、ポロリとこぼれ落ちている。


 ――いよいよ戦闘か?


 探索者たちは一斉に武器を構えた。

 だが、黒板は動かない。ただ、そこに“立っている”。


「待って。これ……何か書いてあるわ」


 乱暴に消された落書きの上に、震えるような文字が浮かび上がっていた。

 いや、“書かれて”いく。


 数式――。


 数字、分数線ビンキュラム、割り算記号オベリスク

 空白を示す四角いマスが並んでいる。


「これ、分数の割り算ね。空いてるところに正しい数字を入れろってことじゃない?」


「答えはわかるか?」


「……小学生の問題よ?」


 澪が鋭い視線を返す。


「俺は自信がない」


「俺もっす」


「だー! あんたたちは脳も筋肉なの?!」


 怒鳴りながらも、澪は迷いなく答えを書き込んだ。

 考える素振りすらない。見た瞬間に解いていた。


 もちろん、正解。


 桜の花に「大変よくできました」の文字が入ったスタンプが現れ、

 澪のラリー帳がパラパラとめくられ、成績表に押されていく。


「問題を解くとスタンプがもらえるみたいね。あんたたちも頑張りなさい」


「あ、ああ」


「ぜんしょするっす」


 以降、黒板はたびたび現れ、探索者たちは交互に挑んでいった。


 * * *


 しばらく進んだところで、陽翔が足を止めた。


「なんだ?」


 彼が拾い上げたのは、小さな金属片――コインだった。


『迷宮通宝』


 中央に四角い穴。

 上下に「迷宮」、左右に「通宝」。


「……まさか」


 魔法使いがじっと見つめる。


「わかるのか?」


「おそらく……通貨です。江戸時代の“一文銭”でしょう」


 確かに、そう見える。


「迷宮で通貨、か」


「意味が分からない……と言いたいところだけど、ゲーム的には普通ね」


 敵を倒すと経験値、アイテム、そして“お金”が手に入る。

 異例ではあるが、あり得ない話ではない。


「ともかく、“進める迷宮”なのは確かよ。行きましょう」


 一行は再び歩き出した。


 * * *


「これは……あっしにはちょいと難しすぎやすぜ」


 黒板の問題をにらみつけ、朔也が両手を上げた。

 助けを求める視線が澪に向く。


「あんたの番なんだから、頑張りなさい!」


 澪はそっぽを向く。

 不正解なら何が起きるか――それも調査のうちだ。


「くっそー、ヒントくらい……うお?!」


 “何か”が出現し、朔也が飛びのいた。


「なんだ?!」


 新手の登場に緊張が走る。


「……これ、教科書と参考書だわ」


 鳥のようなシルエットの“それ”は、書物の集合体だった。

 ページが羽のようにパタパタと開閉し、

 数式や文字、年号がちらつく。


「ヒント、くれるみたいよ?」


「ああ、そうですかい!」


 教えてはくれないのか!


 朔也が手を伸ばす――バシッ!


 参考書の一冊が羽のように広がり、彼の手をはたいた。


「ゲッ!」


「どうしたの? ダメージはなさそうだけど?」


 澪が目を細める。


「使用するには魔力が必要らしいっす。【YES/NO】が頭に出てるっす」


「……」


「……」


 陽翔と澪が顔を見合わせる。


「とりあえず、このダンジョンの目的が一つ見えたわね」


「ああ。魔力を集めている」


 身体測定でも微量ながら奪われていた。

 こうして、探索者が警戒しない程度に吸収していく構造らしい。


「くっそ……わかるのが当たり前みたいに!」


 朔也は泣きながら参考書をめくる。

 ページをめくるたびに魔力ゲージが減るが、微量すぎて無視された。


 * * *

 ◇ 見下ろす視線 ◇

(別視点)


 保健室を出た瞬間、廊下の天井で“何か”が揺れた。

 誰も気づかない。ただ、空気が少し冷たくなる。


 その“何か”は、旧校舎の窓から探索者たちを見下ろしていた。


 カルマ――ダンジョンマスター。


 ウィンドウ越しに、彼らの動きを観察している。

 スタンプラリーの進行、魔力の減少率、反応速度、表情の変化。

 すべてが記録されていく。


「ふむ……“座高”で見通しを測る、か。案外、面白い反応だな」


 手帳に記された“夢の高さ”と“見通し”を見比べ、静かに笑う。


 これらの数値に深い意味はない。

 ただ、今後の“演出”のためのトリガーとして記録するだけ。


「さて、どこまで“演出”に乗ってくれるか……」


 その声は誰にも届かない。

 だが、迷宮は聞いていた。


 そして、次の“演目”の準備を始めていた。



読了・評価。ありがとうございます。


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