第2話 『身体測定』
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ここまで、彼らはただ流されているように見える。
だが、それは違う。
“流されること”こそが、彼らの役目だった。
調査専門の先遣隊は、ダンジョン側の示す意図に合わせて動く。
ストーリー性のあるダンジョンなら、その筋書きに沿い、
何もない場合は道なりに進む。
無闇に逆らえば、ダンジョン側の“反応”が読めなくなる。
先遣隊の仕事は、まず“観察”だ。
それが彼らの行動方針だ。
だからこそ、言われるがままに“入学式”へ参加していた。
「この年になって入学式は……」
「いや、リーダーに桜。お似合いでしたよ」
「バカヤロウ。そういうのはサブリーダーに言え」
「そっちはシャレにならないっす。セクハラで斬られる」
「裁判じゃなくて実力行使か……余計に怖いな」
笑いが広がる。
チームとしてのまとまりは良い。
「移動するわよ」
サブリーダー・澪が声をかける。
冷たい声と、腕を組んで睨む視線に、仲間たちが慌てて姿勢を正した。
「どこへだ?」
「保健室。身体測定ですって。聞いてなかった?」
「ああ、なるほど。入学式の後なら定番だな」
魔法使いの男が相槌を打つ。
「本当に“学校”がテーマなのか?」
陽翔が首を振る。
「そう見せかけて、どこかで罠が発動する。そういうことかもね」
澪も懐疑的だ。
「あり得るな。全員、警戒は怠るなよ」
「わかってるって。いつものことだ」
* * *
木造校舎のような廊下を進む。
歩くたびに、足元がギシギシと鳴った。
「妙にリアルだな」
「モデルがあるか、誰かの記憶が使われているのか……どちらにせよ異常だ」
「窓があって“外”が見えるってのも変だよな」
盾を背負った大柄な男・葛城朔也が軽口を叩く。
廊下の左右には、ずらりと“開放的な窓”。
だが、右側は水墨画の世界、左側は幼児のクレヨン画の世界が広がっていた。
「開けたらどうなるんでしょうねぇ」
「やめておきなさい。どう見ても普通じゃないでしょ!」
澪が鋭く制止する。
「まぁ、窓に見えるだけで、映像を映した壁だろう。
ある程度調査が進んだら“叩いて”みることになる」
魔法使いが杖をくるりと回す。
「ある程度進んだらよ? 今じゃないからね」
澪の睨みに、魔法使いは肩をすくめて杖をしまった。
保健室までは一本道。
モンスターの姿はなかった。
* * *
保健室では、白衣を着た“保険医”が待っていた。
顔は質の悪い白黒コピーのようで、表情は読み取れない。
横に立つと、身体に“厚み”がなかった。
古びた身長計、歪んだ体重計、握力計らしきもの――
どれも不気味に歪んでいる。
「罠ってわけでもないだろうが……」
魔法使いが器具を観察する。
「おそらく、乗ると魔力を奪われます。微量ですが」
「それだけか?」
「それだけです」
「なら、くれてやるさ」
陽翔が身長計に乗ると、表示されたのは“夢の高さ”。
「……身長じゃないのか」
「夢の高さって何よ」
澪が眉をひそめる。
「テーマをつかむ手掛かりかもしれないな」
「魔力は?」
「減ってはいるが、問題ない」
体重(罪の重さ)、握力(誰かと手をつないだ記憶)、視力(見てはいけないものは見えない目)と測定が続く。
次に案内されたのは――座高計。
「……ああ、そんなのあったなぁ」
陽翔が懐かしげに笑う。
「なに? その謎の測定」
「昔は学校で測ってたんだよ。意味は知らん」
「意味ないのに測ってたの? それ呪術的じゃない?」
「いや、教育的な……何か……だったはずだ」
「たぶんって言ったわね。つまり謎の儀式ってことね」
「まぁ、“夢の高さ”よりはマシだろ」
「どっちも意味不明よ!」
座高計の表示は“見通しの高さ”。
「未来の話か?」
「それとも、どれだけ“見えてる”か、かもね」
澪が手帳に記録する。
白衣が紙と鉛筆を突き出し、バックパックを指差す。
“自分で書け”ということらしい。
「ん? なんだ?」
書き終えた陽翔に白衣が近づく。
手に持っていたのは――スタンプ。
「ああ! ラリー帳のスタンプっすよ!」
「そうか、スタンプラリーだったな。経験がないからわからん」
「俺はよくやるっすよ。商店街とか。面白いっす」
「そうか。経験者がいるのは心強い」
「さっきは勝手に押されてたのに」
澪がぼそっと突っ込む。
スタンプを押され、保健室を出る。
白衣はデスクに座り、動かなくなった。
ただ役目をこなすだけの存在。
ゲーム的にはNPC。
「さて、次は何かな?」
陽翔が少し楽しげに言った。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




