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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第1話 入学式

2/4

 


 山形県某高校。

 全校生徒266名のうち、265名が消息不明となった。


 その報道は、全国に衝撃を与えた。


 該当ダンジョンは閉鎖。

 校舎は廃校処理対象。

 ただし旧校舎のみ、土地所有者の意向により保存されている。

 政府調査隊および国際探索者連盟による現地調査が予定された。


「ここか」


 日本政府により封鎖された“ダンジョン”へ、国連直轄の調査チームが派遣された。

 最高レベルの探索者パーティ、研究者、ジャーナリスト――総勢100名。

 待機場所として、閉校となった高校の本校舎が充てられている。


 その中から、先行調査を担当する8名が前へ出た。

 いずれも経験豊富なベテランだ。


「あ、あの……ダンジョンのデータを……」


 日本政府の腕章をつけた女性職員が、タブレットを差し出す。

 ダンジョン省職員・加島千歳。

 彼女がまとめた“既存データ”がそこに入っている。


「いらん」


 チームリーダー・神代陽翔かみしろ はるとが一言で切り捨てた。


「え? で、ですが……」


 食い下がる千歳に代わり、サブリーダーの白鷺澪しらさぎ みおが淡々と言う。


「そのデータ通りなら、我々が呼ばれるはずがない。

 つまり、現状では価値がない。……理解できる?」


「わ、わかりました。ひ、必要になったら……」


 千歳はタブレットを引っ込め、パーティの端へ下がった。

 彼女の役目は“案内”ではなく、“監視”と“情報収集”。

 置いて行かれるわけにはいかない。


 彼女を含めた9名が、先遣隊となる。


「入るぞ」


 陽翔の声で、全員が前進した。

 任務は、まず低階層で“当たり”を見ること。

 既存データを拒否したのも、真っ白な状態で挑むためだ。


「何が出るのやら」


 陽翔は静かに笑った。

 久しぶりの“未知”に、心が躍っているようだった。


 * * *


『おめでとうございます! あなたたちの本校への入学を歓迎します』


 ダンジョンに入った瞬間、探索者たちの脳内に“システムチャット”が表示された。

 オンラインゲームのようなチャット画面。

 ダンジョン内ではよくある現象だ。


「おめでとうございます、ね」


「しかも入学。私たちに何を教えるつもりかしら」


「まずは、それを聞かないとな」


 驚きはない。

 世界には、数学の問題を延々と投げつけてくるダンジョンすら存在する。


「戦闘系ではなさそうだが……それなら265名全滅の説明がつかない」


 その直後、廊下がゆっくりと変化した。

 木造の床が軋み、壁の“校訓”の額縁が文字を浮かび上がらせる。


『誠実・献身・犠牲』


「……なんだ、この校訓は」


 陽翔が眉をひそめる。


「“犠牲”って、教育理念としてどうなのよ」


 澪が呆れたように吐き捨てた。


 廊下の先に“体育館”の扉が現れ、自動的に開く。

 中には整然と並んだ椅子と、壇上に立つ“黒い背広の校長”。


 顔は黒く塗りつぶされ、表情は読み取れない。

 マイクのようなものを持ち、無音のまま口を動かしている。


「音が……聞こえない?」


 盾持ちの男が首をかしげた瞬間、再びチャットが表示された。


『入学式を開始します。全員、着席してください』


 探索者たちは顔を見合わせ、やがて一人、また一人と椅子に腰を下ろす。

 座った瞬間、背もたれから“何か”が伸び、背中に触れた。


 痛みはない。

 ただ、冷たい感触が背骨をなぞる。

 反射的に立ち上がろうとしたが、『誰か』に押さえつけられているのか、動けなかった。


『生徒手帳を配布します』


 校長が手を振ると、探索者の膝の上に黒革の手帳が現れた。

 表紙には金文字で「生徒手帳」。

 裏には“スタンプラリー帳”。


「……勝手に配られたな」


 陽翔が開くと、すでに名前と顔写真が印刷されていた。

 撮影した覚えはない。


「勝手に撮られてるし……」


 澪が苦笑する。


『校歌を斉唱します。ご起立ください』


「校歌? まさか……」


 天井からスピーカーが降り、不協和音のような旋律が流れ始めた。

 同時に、探索者たちの脳内に歌詞が強制表示される。


 ――迷宮学園 校歌――

(※歌詞は省略)


「……なんだこれ」

「歌えってことか?」

「歌わないと、何か起きるかもな」


 歌い終わると、天井から紙吹雪が舞い、手帳に“入学スタンプ”が押された。


『入学式を終了します。次は“身体測定”です。保健室へ移動してください』


「……やっぱり、学校がテーマなんだな」


 陽翔が立ち上がる。


「でも、これは“学校”じゃない。何かの……舞台よ」


 澪の言葉に、誰も反論できなかった。



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