第1話 入学式
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山形県某高校。
全校生徒266名のうち、265名が消息不明となった。
その報道は、全国に衝撃を与えた。
該当ダンジョンは閉鎖。
校舎は廃校処理対象。
ただし旧校舎のみ、土地所有者の意向により保存されている。
政府調査隊および国際探索者連盟による現地調査が予定された。
「ここか」
日本政府により封鎖された“ダンジョン”へ、国連直轄の調査チームが派遣された。
最高レベルの探索者パーティ、研究者、ジャーナリスト――総勢100名。
待機場所として、閉校となった高校の本校舎が充てられている。
その中から、先行調査を担当する8名が前へ出た。
いずれも経験豊富なベテランだ。
「あ、あの……ダンジョンのデータを……」
日本政府の腕章をつけた女性職員が、タブレットを差し出す。
ダンジョン省職員・加島千歳。
彼女がまとめた“既存データ”がそこに入っている。
「いらん」
チームリーダー・神代陽翔が一言で切り捨てた。
「え? で、ですが……」
食い下がる千歳に代わり、サブリーダーの白鷺澪が淡々と言う。
「そのデータ通りなら、我々が呼ばれるはずがない。
つまり、現状では価値がない。……理解できる?」
「わ、わかりました。ひ、必要になったら……」
千歳はタブレットを引っ込め、パーティの端へ下がった。
彼女の役目は“案内”ではなく、“監視”と“情報収集”。
置いて行かれるわけにはいかない。
彼女を含めた9名が、先遣隊となる。
「入るぞ」
陽翔の声で、全員が前進した。
任務は、まず低階層で“当たり”を見ること。
既存データを拒否したのも、真っ白な状態で挑むためだ。
「何が出るのやら」
陽翔は静かに笑った。
久しぶりの“未知”に、心が躍っているようだった。
* * *
『おめでとうございます! あなたたちの本校への入学を歓迎します』
ダンジョンに入った瞬間、探索者たちの脳内に“システムチャット”が表示された。
オンラインゲームのようなチャット画面。
ダンジョン内ではよくある現象だ。
「おめでとうございます、ね」
「しかも入学。私たちに何を教えるつもりかしら」
「まずは、それを聞かないとな」
驚きはない。
世界には、数学の問題を延々と投げつけてくるダンジョンすら存在する。
「戦闘系ではなさそうだが……それなら265名全滅の説明がつかない」
その直後、廊下がゆっくりと変化した。
木造の床が軋み、壁の“校訓”の額縁が文字を浮かび上がらせる。
『誠実・献身・犠牲』
「……なんだ、この校訓は」
陽翔が眉をひそめる。
「“犠牲”って、教育理念としてどうなのよ」
澪が呆れたように吐き捨てた。
廊下の先に“体育館”の扉が現れ、自動的に開く。
中には整然と並んだ椅子と、壇上に立つ“黒い背広の校長”。
顔は黒く塗りつぶされ、表情は読み取れない。
マイクのようなものを持ち、無音のまま口を動かしている。
「音が……聞こえない?」
盾持ちの男が首をかしげた瞬間、再びチャットが表示された。
『入学式を開始します。全員、着席してください』
探索者たちは顔を見合わせ、やがて一人、また一人と椅子に腰を下ろす。
座った瞬間、背もたれから“何か”が伸び、背中に触れた。
痛みはない。
ただ、冷たい感触が背骨をなぞる。
反射的に立ち上がろうとしたが、『誰か』に押さえつけられているのか、動けなかった。
『生徒手帳を配布します』
校長が手を振ると、探索者の膝の上に黒革の手帳が現れた。
表紙には金文字で「生徒手帳」。
裏には“スタンプラリー帳”。
「……勝手に配られたな」
陽翔が開くと、すでに名前と顔写真が印刷されていた。
撮影した覚えはない。
「勝手に撮られてるし……」
澪が苦笑する。
『校歌を斉唱します。ご起立ください』
「校歌? まさか……」
天井からスピーカーが降り、不協和音のような旋律が流れ始めた。
同時に、探索者たちの脳内に歌詞が強制表示される。
――迷宮学園 校歌――
(※歌詞は省略)
「……なんだこれ」
「歌えってことか?」
「歌わないと、何か起きるかもな」
歌い終わると、天井から紙吹雪が舞い、手帳に“入学スタンプ”が押された。
『入学式を終了します。次は“身体測定”です。保健室へ移動してください』
「……やっぱり、学校がテーマなんだな」
陽翔が立ち上がる。
「でも、これは“学校”じゃない。何かの……舞台よ」
澪の言葉に、誰も反論できなかった。
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