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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第202話 地上へ向かう生徒たち ~傷つける優しさ~ 前編

4/4

 


「ねぇ・・・」

「なに?」

「どう思う?」

「なにがよ」

 隊列の最後尾、双子は自分たちにしか聞こえない声で、自分たちにしかわからない会話を始めていた。


「わかってるでしょ?」

「考えちゃ、ダメ」

 気がかりを口にする妹。

 意識することすら否定する姉。


「でも・・・」

「ダメったら、ダメ!」

 二人はずっと『ソレ』を繰り返していた。


『糞球』で固められた状態から助けられてからずっと。

 平常通りに見えているが、それはつまり、二人はおかしくなっていた。


 いや・・・それは違う。


 元からおかしかったのだ。

 それは、彼女たちの嗜好が異常だったということではない。

 無関係ではないが、『結果』に過ぎなかった。

 最後の一押しだっただけだ。


 彼女たちはずいぶん前から、精神的ストレスで人格が崩壊寸前だった。

 『何か』にやたら夢中で奔放に見えたのは、刺激に依存していたからだ。

 だからこその、ちょっと価値観の壊れた際どい発言だった。


 そこに、フンコロガシの『糞球』に押し込まれ、転がされ、放置された。

 壊れかけていた精神が、打撃を受けるのに十分なストレスがかかったのだ。


 だから、二人の精神はこの時完全に崩壊していた。

 今、彼女たちを動かしているのは、緊急回避的に生じた別人格だ。


 変わり者として距離を置かれる存在ではなく、普通でいよう。

 そんな思いから生まれた人格だった。


 理性的ではあるが、逆に言えば『それだけ』の存在。

 感情や思考というものがほとんど機能していない。

 なにかを考えているような会話をしつつ、全く前に進まないのはそのせいだ。



 探索者たちは、教師の追撃を避けながら通路を進んでいた。

 足音と息遣いだけが響く中、ひとりが転倒し、床に手をついた瞬間——擦りむいた腕から赤が滲んだ。


「・・・っ」


 誰もが立ち止まることをためらう中、最後尾にいた双子が静かに歩み寄る。

 妹は無言でしゃがみこみ、傷口にそっと手を添えた。

 その手は冷たくも温かくもなく、ただ“濡れて”いた。


 姉は微笑む。

 その笑顔は、どこか懐かしくて、どこか遠い。


「大丈夫? 頑張れる?」


 その言葉に、探索者は一瞬だけ安心しかける。

 だが、次の瞬間——


 傷口が、広がった。

 痛みが、増した。


 探索者は目を見開き、息を呑む。


「・・・え?なに・・・これ・・・痛っ・・・!」


 腕を引こうとするが、妹の手は離れない。

 濡れた掌が、まるで“吸い付くように”傷口に触れていた。


「やめて・・・やめて・・・!」

 声が震え、足がもつれ、探索者はその場に崩れ落ちる。


 姉は、微笑んだまま首を傾げる。


「頑張れるって言ったのに・・・崩れちゃったね」


 妹は、無言のまま手を離す。

 その手には、赤く染まった『痛み』が残っていた。


 探索者は、泣きながら腕を抱える。

 痛みは、傷口からではなく、『心の奥』から滲み出していた。


 探索者が崩れ落ちたあとも、双子はその場に立ち尽くしていた。

 妹は、そっと自分の手のひらを見つめる。

 濡れている

 赤く染まっている。

 けれど、それが『なぜ』なのか、わからない。


 姉もまた、倒れた探索者を見下ろしながら、首を傾げた。


「・・・おかしいね。ちゃんと、やったのに」


 空っぽの人格は双子の『かつてのやさしさ』を模倣したつもりだった。

 だけど、これは『知らない』現象だった。


「撫でたよ」

「声もかけたよ」


「優しくしたよね?」

「したよ」


 二人は顔を見合わせる。

 その目は、どこまでも澄んでいて、どこまでも空っぽだった。


「でも、壊れた」

「うん。壊れた」


 妹は、もう一度、自分の手を見た。

 その手が、何かを『引き出した』ことに、うっすらと気づき始めていた。


 姉は、探索者の震える背中を見つめながら、ぽつりと呟く。


「・・・これが、わたしたちの『やさしさ』?」


 妹は、答えなかった。

 ただ、手のひらを見つめたまま、ゆっくりと立ち上がった。


 その瞬間、通路の空気が、わずかに揺れた。


 ◇


 通路の先で転倒した仲間に気づき、数人の探索者が慌てて戻ってくる。


「大丈夫!?」

「誰か、手当を——」


 だが、そこにはすでに双子がいた。

 妹はしゃがみこみ、傷口に手を添えている。

 姉は微笑みながら、優しく声をかけていた。


 その光景に、探索者たちは一瞬ほっとする。


「・・・よかった、手当してくれてる・・・」


 だが——


「・・・やめて・・・痛い・・・やめて・・・!」


 聞こえてきたのは、仲間の苦しみと、停止を訴える声だった。


 探索者たちは顔を見合わせる。

 何かがおかしい。

 手当のはずなのに、痛みが増している。

 優しさのはずなのに、崩れていく。


「・・・え? なにしてるの・・・?」


 誰かがそう呟いた瞬間、双子がゆっくりと振り返る。


 妹は、自分の濡れた手を見つめたまま。

 姉は、探索者たちの顔を見て、首を傾げる。


「・・・わたしたち、ちゃんと・・・したよ?」


 その声は、優しくて、無垢で、でもどこか遠かった。

 探索者たちは、痛みにうずくまる仲間を囲みながら、双子の手元を見つめていた。

 妹の手はまだ濡れていて、姉の笑顔は変わらない。



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