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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第203話 地上へ向かう生徒たち ~傷つける優しさ~ 後編

1/3

 


「・・・わたしたち、ちゃんと・・・したよね?」


 その言葉に、誰も答えなかった。


 双子は、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、そっと手を伸ばす。

 今度は、別の探索者へ。


「ねえ、あなたも・・・痛いの?」


 妹の手が近づく。

 姉の声が、優しく響く。


「頑張れる?」


 探索者は、反射的に一歩、後ずさった。

 その動きは、叫びでも拒絶でもない。

 ただ、静かな『距離』だった。


 双子の足が止まる。


 妹は、自分の手を見つめる。

 姉は、探索者の顔を見つめる。


「・・・なんで、逃げるの?」


 誰も答えない。

 誰も、彼女たちに触れようとしない。


 通路の空気が、またひとつ、冷たく揺れた。


 双子は、静かに立ち尽くす。

 その背中に、初めて“孤独”が宿った。

 探索者たちの静かな拒絶のあと、双子はその場に立ち尽くしていた。


「・・・でも、あの子たち、悪気はないんじゃ・・・」

「やめて、近づかないで!」


 妹は、濡れた手を見つめる。

 姉は、探索者たちの背中を見つめる。


「・・・撫でたら、痛くなった」

「励ましたら、崩れた」


「それって・・・」

「わたしたちが・・・」


 二人は、言葉を探すように、ゆっくりと視線を交わす。

 その瞳に、初めて『考える』光が宿った。


「・・・痛みを、出した」

「崩れさせた」


「でも、それって・・・」

「中にあったもの、だよね?」


 妹が、そっと床に落ちた血のしずくを見つめる。

 姉が、探索者の震える肩を見つめる。


「わたしたちが、引き出したのは・・・」

「隠れてた『なにか』だったんだ」


 その瞬間——


 通路の壁が、きしんだ。

 迷宮の壁が、ゆっくりと剥がれ、下から『木造の校舎の壁』が現れる。


 床に敷かれていたタイルが割れ、下から『教室の床』が顔を出す。

 天井の蛍光灯がちらつき、かつての『放課後の光』が差し込む。


 探索者たちは、息を呑んだ。

 迷宮が、変わっていく。

 まるで、双子の『気づき』に呼応するように。


 妹は、黒板に浮かび上がった『名前のない文字』を見つめる。

 誰のものでもない文字、だけど『誰か』になるかもしれない文字だ。

 姉は、教室の隅に揺れる『誰かの影』を見つめる。


「・・・わたしたちが、触れたから」

「この場所が、目を覚ましたんだ」


 双子は、ゆっくりと歩き出す。

 その足音に合わせて、校舎の空気が変わっていく。


 それは、『優しさ』のかたちをした、静かな覚醒だった。

 妹は、濡れた手を見つめていた。


 その手が、誰かの痛みを引き出したこと。

 その痛みが、涙になって流れたこと。


「・・・わたし、なにかを・・・出しちゃった」


 姉は、崩れた探索者の姿を見つめながら、そっと言った。


「でも、それって・・・もともと、あったものだよね」


「うん。わたしが入れたんじゃない」

「わたしが、壊したんじゃない」


 彼女たちの声は、誰にも届かない。

 けれど、迷宮は聞いていた。


 ——その瞬間、通路の壁にひびが走る。

 古びた掲示板が現れ、そこに貼られた『保健室だより』が風もないのに揺れた。


 ◇


『妖怪発生の兆候が検出されました』

 システムからの警告。


 慌てて開いたウィンドウの向こうで、カルマは目を細める。


「・・・死んでも、ケガもしていないのに・・・終わりなのか?」


 彼は、それ以上は何も言わない。

 ただ、指先で空間をなぞる。

 双子の進む先に、静かに『次の演出』を配置する。


 ◇


「撫でると、痛くなる」

「励ますと、崩れる」


「でも、それって・・・」

「・・・生まれ変わる前の、合図?」


 二人の足元に、古い床板が軋む音。

 そこに、かつての教室の記憶が滲み出す。

 黒板の隅に、誰かが書いた『ありがとう』の文字が浮かび上がる。


 それは、今はまだ形になっていない『誰か』の感謝だった。


 ◇カルマの解説(ウィンドウ越し)◇


 カルマは、ウィンドウ越しに双子の動きを見守っていた。

 その瞳は冷静で、どこか懐かしげだった。


「『かいなで』は、痛みを引き出す。それは、内側に溜まったものを外に出す浄化だ」

『かいなで』。無防備な『人間』に手を差し伸べる、そんな妖怪。


「・・・トイレか」

 妖怪名を思い浮かべてみる。


『厠』、『雪隠』、『ご不浄』、『憚り』、『閑所』『東司』・・・。


「音的には『憚り』、かな? うん。『憚り』を姓としよう」


『幅借かいな』。

 妹のことだった。


「『がんばり入道』は、励ますことで崩す。それは、固定された価値観を壊して、再構築するための破壊だ」

『がんばり入道』は、不要な時に励ましをくれる妖怪。

 それによって『崩れるものがある』ことは考慮しない。


『幅借いきむ』。

 姉のことだ。


「どちらも、『再誕』の前に必要な儀式。生理的な排出と、精神的な再定義。・・・まるで、出産と排泄のように」

 どちらも『トイレ』の妖怪。


 カルマは、静かに笑った。


「優しさのかたちをした、破壊者。でもそれは、迷宮にとって必要な『始まり』なんだ」

 カルマは、そっと呟く。


「君たちの足跡が、道になる。オレはただ、それを『迷宮』にしてあげるだけだよ」


 双子は、誰にも理解されなかった『優しさ』のかたちを抱えて、通路を進む。

 その背中に、迷宮が静かに従っていた。


 探索者たちは声もかけられず、その背中をただ見送った。



「優しさは、いつも正しいとは限らない」

「励ましは、時に呪いになる」


 彼女たちは、誰かのために『良かれと思って』言葉をかけた。

 でも、それが誰かを壊すこともある。


 だから今、彼女たちは問いかける。


「あなたは、どんな言葉で誰の心を撫でますか?」


 ◇システムの反応◇


【迷宮観測ログ:感情反応を検知】

(自然発生する『妖怪』の出現現象に関する観察記録)


 対象:双子個体(幅借いきむ/幅借かいな)

 観測結果:模倣された優しさ → 他者の崩壊 → 自己認識の芽生え


 評価:再誕条件、感情共鳴、演出適合率ともに基準値を超過


 ・・・記録開始。


 ◇残された探索者たち◇


 誰かが、小さく呟いた。

「・・・『優しさ』ってなんだろう?」



 退避と追跡行の脱落者=生徒8 教師14



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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