第201話 『ダンジョン設計』 ~学園祭の舞台づくり~ 後編
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「この間には『部活動』なんかも盛り込んでおこう。『探索者』が各々やりたいことを選べる形にする」
文化部になるのか、運動部になるのか。
もちろん、選んだ『部活』によってスタンプラリーの流れは変化する。
イベントが変わり、ゲームも変わる。
当然に『景品』と『賞品』も。
『野球部』なら、千本ノック、ストライクチャレンジ、板抜き。
『バスケットボール』なら、千本シュートやドリブル走。
・・・そんなところだろうか。
『文化部系は謎解き系』、『運動部系はタイムアタック系』と考えておけばいいだろう。
「あとは・・・『ドロップアイテム』や『景品』に『ダンジョン内通貨』を混ぜる」
「通貨というと・・・『お金』ですか?」
真梨華が不思議そうだ。
「ダンジョン内でしか使えない『お金』を渡す。で、どこかに『縁日』っぽい屋台のフロアを作るんだ。ゲームしたり食べたりできるようにね」
屋台で遊ぶ・食べる・景品をもらう → 感情が動く → ソウルポイント発生!
ゲームには当然に魔力消費があるものも仕込む→マナポイント収集!
特に「悔しい!」「嬉しい!」みたいな感情が強いミニゲームほど効率が良い。
「・・・なるほど?」
納得していない顔をされた。
『楽しませるだけ? あなたが?』って顔だ。
「楽しければ楽しいほど、長居する。ポイントを落としてくれるわけだ。悔しくて欠けさせた魂を、楽しむことで修復して、また削る。無限機関が完成する」
働かせてばかりでは効率が下がるから休暇はやる。
ただし、休んだならまた働け、ということだ。
「そして、楽しいからどんどん下に来る。・・・帰れるといいな?」
楽しすぎて帰ることを忘れるかも?
ちょっと冗談ぽくカルマが言ってみる。
「・・・あぁ・・・」
妖怪たちが揃って頭を押さえて、息を吐きだした。
カルマが何をしたいのか、おぼろげに見えた気がしたようだった。
「四季折々のイベントも入れていくよ」
林間学校、海水浴、花火大会。
お花見、お月見、雪遊び。
夏期講習、スキー合宿、修学旅行。
楽しい思い出とともに、物悲しい別れもある。
協力して作り上げる、それが終わる。
青春と呼ばれる儚い『祭り』の時代・・・その幻。
このダンジョンは『そういうモノ』になる。
「ダンジョンの構造は・・・基本的に板の廊下だな。で、時々教室が見つかる。でも、この教室は必ずしも開いていない。別の教室で何らかの条件をクリアしないと開かなかったりする。部活や委員会選択の結果が影響したりもするかもね」
部室棟があるフロアでは適応する部の部員になっていないと、入れない。
体育館に入れるのは『運動部』の部員だけ、とか。
まさに、『校舎丸ごと使ってのスタンプラリー』だ。
各教室でイベントを発生、クリアしながら進んでいく。
手に入る『景品』を先に見せることで、『これ』を手に入れるには『この』ルートを何としても進めないと―――とならせる。
進み方をある意味縛ることで行動予測をつけやすくする。
モンスターを適当に配置するのではなく、『どこで』、『誰が』迎えるかを決めておける。
それが、『スタンプラリー方式』の利点だった。
「スタンプラリーって、『景品』が重要よね?」
「ああ、スタンプラリーの報酬設計か? もちろん考えてあるさ」
カルマはノートをめくりながら、口元だけで笑った。
「まず、スタンプの数に応じて報酬を段階的に変える。3つ集めれば飴玉、6つでおもちゃ、9つでご褒美。子どもだってわかるルールだろ?」
「・・・子ども扱いしてるの?」と誰かが呟いたが、彼は聞こえないふりをした。
「重要なのは、『全部集めたら何が起こるか』を匂わせることだ。特別な称号、隠し教室、あるいは『記憶の断片』・・・それが何なのかはわからなくても興味は引く。そういうもの。それが欲しければ、全部の教室を回るしかない。つまり、こっちの思惑通りに動いてくれるってわけだ」
ノートの端に書かれた「模範生徒」「問題児」「委員長」などの文字を指でなぞる。
「称号もいい。探索者の行動を記録し、評価し、ラベルを貼る。『あなたはこういう人間です』ってね。自覚させることで、行動が変わる。・・・いや、変えさせる」
「それって、洗脳じゃ・・・」
「教育だよ」
カルマはさらりと言い切った。
「報酬は、ただの飴玉じゃない。行動の誘導装置だ。欲望を刺激し、選択を縛り、感情を揺らす。そうして得られる『ソウルポイント』と『マナポイント』が、ダンジョンの燃料になる」
「・・・楽しませてるようで、搾取してるってこと?」
「違うな。楽しませることで、搾取が成立するんだよ」
彼はノートを閉じて、にやりと笑った。
「さあ、スタンプを集めよう。全部集めたら、きっと『何か』が起こる。・・・帰れるといいな?」
そう言って、カルマは窓の外に目を向けた。
ありそうな、でも実際には存在しない、ありふれた風景が見えるだけだ。
『妖怪』たちは気が付かない。
彼の目に映るその風景には、なぜか『人』だけがいなかった。
まるで、『誰か』がそこにいたはずなのに、忘れられてしまったように。
『誰か』にいてほしいと願うように。
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