第195話 呪い2 ~呪いの主と使用者~ 後編
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◇呪いの主◇
『糸の部屋』——あの場所で、私は死んだ。
ミミックの罠にかかった瞬間、すべてが終わった。
仲間たちは、すぐそばにいた。
でも、誰も助けてくれなかった。
・・・助けられる状態じゃなかった。
それはわかってる。
あの状況で、誰も動けなかった。
私が、そうさせたんだ。
私が、無理をした。
私が、焦った。
私が、仲間を巻き込んだ。
だから、私が死んだのは——当然だった。
因果応報。
自分のせいで、自分が死ぬ。
それは、割り切れる。
でも、仲間まで巻き込んだことだけは——それだけは、割り切れなかった。
彼らの瞳に浮かんだ恐怖。
動けないまま、私を見捨てる決断をする声。
あれが、私の最後の記憶。
だから、私は『呪い』になった。
守るために。
今度こそ、誰も巻き込まないように。
今度こそ、誰も失わないように。
『呪い』は、私の後悔の形。
『糸』は、私の未練の形。
『箱』は、私の祈りの形。
私は、守りたかった。
ただ、それだけだった。
ラッキーだった。
私を殺したのが、ミミック——『箱』だったこと。
閉じ込める。
仕舞う。
隠す。
守る。
そんな意味を持つ『箱』に、私は喰われた。
だから、私は呪いをかけた。
『箱』の中に、捕らえるために。
仕舞うために。
守るために。
普通なら、そんな呪いに力なんて宿らない。
ただの未練。
ただの願い。
ただの、死者の囁き。
でも、このダンジョンは変わり始めていた。
何かが、全体に染み渡ろうとしていた。
空気が、魔力が、構造が——揺らいでいた。
そして、あの『呪術師』の先生。
彼女の存在が、私の呪いに力をくれた。
彼女は『呪い』を利用してくれた。
『私』と繋がることができた。
そして、生徒を『捕らえた。
私と同じように、『守ろう』としていた。
その共鳴が、私の呪いを目覚めさせた。
未練が、力になった。
祈りが、術になった。
私は、ただ守りたかった。
『箱』の中に、仲間を閉じ込めてでも。
もう誰も、私のように死なせたくなかった。
だから、私は呪いになった。
そして今——私の呪いは、彼女の手で形になる。
◇呪いと女教師と決着と◇
私は、守りたかった。
それだけだった。
誰かを傷つけるためじゃない。
誰かを閉じ込めるためでもない。
ただ——誰も、私のように死なせたくなかった。
『呪い』は、私の後悔の形。
『糸』は、私の未練の形。
『箱』は、私の祈りの形。
そして今、私の祈りは——彼女の手で形になる。
女教師は、静かに立っていた。
彼女の瞳は、もう呪術師のそれではなかった。
ただ、生徒を守る『教師』の目だった。
生徒たちを背にして。
敵に杖を向けて。
その瞳には、迷いがなかった。
彼女は、私の声を聞いた。
私の想いを受け取った。
そして、私の呪いを『術』に変えた。
「守るために、閉じ込める」
「守るために、捕らえる」
「守るために、戦う」
その言葉が、彼女の中で燃えていた。
敵は動揺していた。
信じていた仲間に裏切られ、隊列は崩れた。
その隙に、生徒たちは逃げ道を探す。
でも、女教師は動かない。
彼女は、ここに残ると決めていた。
「・・・私が、守る」
その声は、誰にも届かなくてもよかった。
それは、祈りだったから。
誰かに向けたものではなく、自分自身の中に灯した、小さな光だったから。
そして、彼女の背後に『箱』が現れる。
静かに、ゆっくりと、開く。
その中には、誰もいない。
でも、確かに『誰か』がいた。
祈りの形をした、呪いの主が。
彼女は、箱に手を伸ばす。
その瞬間、空気が震えた。
魔力が、優しく流れ込んでくる。
「・・・ありがとう」
誰の声だったのか、わからない。
でも、確かに聞こえた。
その声は、風のように通路を撫でていった。
誰にも届かなくても、確かにそこにあった。
それは、呪いの主の声だったのかもしれない。
それとも、女教師自身の声だったのかもしれない。
どちらでもよかった。
二人は、もうひとつになっていたから。
そして、箱は閉じる。
静かに、穏やかに。
まるで、誰かを優しく包み込むように。
箱は、もう『罠』ではなかった。
それは、誰かを守るための『居場所』になった。
通路の空気が、少しだけ軽くなる。
霧が晴れていく。
呪いが、祈りに変わった瞬間だった。
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