第193話 呪い ~呪われた少女~ 後編
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◇疑心暗鬼と気づき◇
仲間たちの間に、疑念が広がっていた。
誰かが誰かを見ていた。
誰かが、自分自身を疑っていた。
その空気は、冷たく、重く、静かに満ちていた。
まるで、霧のように。
まさに、呪いのように。
でも——その変化に、ただ一人気づいていない少女がいた。
彼女は、確信していた。
『呪い』は自分の中にある。
だから、誰かを疑う必要はなかった。
誰かに疑われることも、想定していなかった。
なぜなら——彼女は、ずっと『井戸の怪物』を見ていたから。
あの瞬間。
命の危機が近づいていた瞬間。
彼女は、仲間を盾にした。
その記憶が、彼女の中で怪物になった。
井戸の底に潜む、黒くて、冷たい、動かない怪物。
それを見つめ続けていた。
それが、自分の『本当』だと思っていた。
だから、周囲の変化に気づかなかった。
仲間たちが距離を取り始めたことも。
誰かが杖を握り直したことも。
誰かが、そっと彼女の背後に立ったことも。
彼女は、ただ——自分の中の怪物を見ていた。
「・・・私が呪われてる」
その言葉は、誰にも届かなかった。
誰も、もう彼女の言葉を聞こうとしていなかった。
そして、彼女は気づく。
誰もが、自分を見ていない。
誰もが、別の誰かを見ている。
誰もが、自分自身を見ている。
「・・・あれ?」
その瞬間、彼女の視線が井戸の底から外れた。
周囲を見渡す。
誰もが、疑いの目を持っていた。
でも、それは——自分に向けられていなかった。
「・・・違うの?」
彼女の声は、震えていた。
自分が呪われていると思っていた。
でも、誰もそれを見ていない。
じゃあ——この怪物は、なんだったの?
その問いが、彼女の中で静かに響いた。
そして、初めて——彼女は『呪いの形』を見失った。
「・・・もしかして、私じゃないのかも」
その可能性が、少女の胸にふっと灯った。
まるで、長い夜の中で見つけた小さな星のように。
ずっと、自分が呪われていると思っていた。
あの瞬間の記憶。
あの目。
あの罪。
でも、誰も自分を責めなかった。
誰も、自分を見ていなかった。
「・・・違うのかも」
その言葉が、心の奥に染み込んでいく。
重かったはずの空気が、少しだけ軽くなった気がした。
その時だった。
「——捕まえた!」
女教師の声が、背後から鋭く響いた。
振り返る間もなかった。
何かが背中に触れた瞬間、意識がふっと遠のく。
視界が、ぐにゃりと歪む。
音が、遠ざかる。
足元が、崩れる。
「・・・あれ?」
確かに軽くなったはずの心が、今は重く沈んでいく。
まるで、深い水底に引きずられるように。
「・・・違うかもって、思ったのに」
その言葉は、誰にも届かない。
少女の意識は、静かに闇に溶けていった。
◇箱の中◇
目を開けると、そこは静かな空間だった。
音がない。色もない。
ただ、灰色の霧がゆらゆらと漂っていた。
空気は冷たく、でも湿っていた。
まるで、誰かのため息の中に閉じ込められているようだった。
「・・・ここは?」
少女は立ち上がろうとする。
でも、体が重い。
まるで水の中に沈んでいるような感覚。
「・・・やっぱり、私だったの?」
誰も答えない。
でも、霧の向こうに、誰かの影が見えた。
影の胸元には、赤いリボンが揺れていた。
それは、かつて彼女が盾にした仲間のものだったかもしれない。
無表情。
冷たい目。
ただ、じっと見ている。
「・・・違うって、思えたのに」
少女は呟く。
でも、その声は霧に吸われて消えていく。
影は、ゆっくりと近づいてくる。
その瞳は、何も語らない。 でも、確かに——責めていた。
「・・・私が、呪われてるんだよね」
その言葉に、影は止まった。
そして、静かに首を振った。
「・・・え?」
少女は目を見開く。
影は、もう一度首を振る。
そして、霧の中に溶けていった。
やがて、『カチリ』と音がした。
それはまるで、扉を閉めたような音だった。
閉じ込められた。
少女は膝をつき、座り込んだ。
逃走し続けていた体力の消耗に、押しつぶされるようにして。
退避と追跡行の脱落者=生徒7 教師9
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




